小雪はぽっかりと目を覚ます。いつもは布団に入って眠りにつくと朝まで目を覚ますことはないのに、今は見慣れた自分の部屋の天井をぼんやりと映している。彼女はベッドの脇に置いてあるスマホの画面を点灯させ、現在時刻を見て思わず目を見開いた。

(じゅうにじ、はん……)

それでも何とか寝ようとして目を閉じて頭から布団を被るが、起きたことで自分の体温の熱さが不快に感じられて何度も寝返りを打ってしまうし、自身の熱で喉の乾きがじわじわと迫ってくる。

(水……飲も)

観念して小雪は勢いよく掛け布団を跳ね除け、ベッドから降りた。小雪は物音を立てるのを嫌ってスリッパは履かず、ゆっくりと部屋のドアを開けてそろりそろりと暗い廊下に出て、電気もつけずに手すりに捕まりながら階段を降りる。階段の下が薄く明るいのが救いだろうか。

(あれ? 誰か電気消し忘れた?)

しかし廊下を明かりがぽっかりと長方形に切り取ったように見えるそこが時折翳るのを見ると、どうやら先客がいるらしい。小雪は慎重にリビングと廊下を隔てている引き戸をそろりそろりと開けると、リビングの柔らかい明かりが小雪の目に飛び込んできた。

「あれ、コユキ? 眠れないの? 何か飲む?」

リビングの隣にある台所からそう声を掛けてきたのは、短い鳶色の巻き毛をした少年だった。小雪は意外そうに目をぱちくりさせたが、やがて頷く。

「うん、そうなの……お水が飲みたくて」

「分かったよ。コユキはソファーに座ってて。用意するからさ」

小雪は自分でできると告げたが、彼は首を横に振ってすぐさま両手にコップを持ってソファーへと向かい、コップをテーブルに置いて自分の隣をポンポンと叩く。小雪は諦めて彼の隣に座り、コップを傾けてゆっくりと中身を飲み干した。

「ありがとう、トニー」

両手でコップを温めるように飲んでいる様子を、灰青色の瞳がじっと観察するのに気づき、小雪はほんのりと頬を染めて、すぐさま顔を反らした。心臓の音が大きくなって、それが彼に聞こえやしないかと、そればかりが気がかりだ。

「いいんだ。まさかコユキまで起きてくるとは思わなかったけど、こうして話せるのは嬉しいよ」

彼が微笑みながらそう言うので、小雪は思わず彼の方を向く。顔は笑顔なのに、そこに濃い憂愁が透けているのを小雪は見逃さなかった。

「そっか……今日、だもんね……私は明日も明後日もずっとトニーと過ごせる気がするのに」