教室に飛び交う噂話や、悪口。「ああー。またか。」と独り私は息を吐く。もちろん私の悪口を止めてくれる人はいない。そんなことは、分かっていたー。分かっていたけれど、、。小さい小さい教室という狭い水槽に溺れていた私に手を差し伸べてくれた、迷子だった本当の私を見つけてくれたのは、君だったー。
  四月七日、始業式。新しい制服に手を通し、鏡の前で笑顔をつくる。大丈夫。もう間違えない。私は、家を飛び出した。
最初の頃、私は上手くやっていたと思う。でも、きっと自分の中で分かっていたのだろう。もう自分が、クラスの中で、友達の中で浮いてしまっていたということは。小さい頃から私は、人とのコミュニケーションを図ることが難しかった。だからこそ、自分は友達のいない可哀想な子という名札はつけられたくなかった。自分の意見を持たず、いつも友達に合わせてばっかりだった私だけれど、そんな私が唯一安心できる場所は中庭だった。思わず中庭に咲いている白詰草を見つけ、頬を綻ばせた。私は白詰草が好きだ。決して派手ではないけれど、一生懸命咲こうとしている白詰草が好きだ。そんなふうに白詰草を見つめていたら、自分の名前を呼ばれ、弾かれたように振り向いた。今さっき、私の名を紡いだ彼女が立っていた。彼女は私の親友だ。唯一無二の親友である。彼女は、私の隣に腰掛けると、同じように白詰草を眺めた。言葉はなかった。でも、こんなふうな時間が私は好きだ。心が温まっていく気がした。悪口をクラスメイトに言われていても、誰もそれを止めてくれる人がいなくても、親友である彼女といれば一旦嫌なことも浄化されていく。こんな日々が続くと私も彼女も思っていた。
   そんなある日、彼女は学校に来なくなった。風邪だと思っていた。でも、彼女もクラスで上手くいっていなかったのだ。それでも私は、めげずにクラスに行った。皆が私のことを菌のように扱う。それでも堂々としていた。しようとしていた。でも親友と会えない時間は寂しく辛いものだった。家に帰って泣きじゃくる日々が続いた。九月頃、親友は学校に来た。でも、クラスではなく、別部屋教室登校になった。そして、きっかけは九月の半ばのことだった。教室に入ると皆私の親友を罵倒した。それはもう散々に。ついに、私は叫んだ。もう絶えられそうになかった。いつもヘラヘラ誤魔化していたけれど。もう我慢できなかった。その日、私はクラスメイト全員に怒った。その日が私の教室登校の最終日になった。
   一月半ば今私は、親友と別部屋教室で頑張っている。時々あの教室にも戻る勇気も出てきた。そして、二人で今白詰草を見つめている。「ねぇ。知ってる?」私は彼女の方を向いていった。「白詰草の花言葉はー。」彼女は私の方を向いてにっこり笑った。
白詰草の花言葉は、「幸福・約束」ー。そこで約束した。一生親友でいようね、と。まだ恥ずかしくて、言えていないけれど、「一生親友が幸福でいられたらいいな。」と願った。白詰草が私の心の声に答えるように、静かに揺れた。
  親友へ
二十年後も三十年後もずっと親友でいてね。
         大好きだよー。