そして目を覚ますと、眩い光と共に焦っている純と先生の顔が目に入った。

「桜!良かった、戻って来た。」

「田辺さん!本当に良かった。もう無理かと思った。」

先生と純は私の手を握ると泣いた。ああ、私は現実に戻って来たのだと身体の痛みと息苦しさで実感した。

「桜、三ヶ月も眠ってて、ずっといつ死んでもおかしくなかったんだよ。」

「そうなの...」

久々に出した現実の私の声。かすれていて、聞こえているかわからない程だった。

「そうだよ。だから良かった、戻って来てくれて。もう、この三ヶ月間生きた心地しなかった。」

純はそう言うと静かに泣いた。一回目にここが現実ではないと気づいた時に戻っていれば純を泣かせる事はなかったのだろうか。

「ごめんね...」

謝ると純は私の頭を優しく撫でた。

「戻って来てくれたからいいんだ。よく頑張ったな。」

泣きながら笑う純は今までで一番かっこよかった。私もつられて泣いた。ありがとう、私を信じてくれて。ありがとう、諦めないでくれて。二人のおかげで、悔いなく逝けそうだよ。

「桜...?おい、桜!」

「田辺さん!?くそっ、油断した。薬取ってくるから絶対寝かせないで!」

私の心電図は音をたてている。これは危険な時だ。私はもうすぐ本当に死ぬ。だけど心は穏やかだった。

「桜、絶対寝るなよ。今先生が薬持ってくるから。」

「純、私と付き合ってくれてありがとう。純のおかげで毎日が色づいた。」

「まだしてない事沢山あるんだ。結婚するって約束しただろ。」

「ごめんね、純。約束してた事何一つ守れなくて。」

「やめろ、桜は死なない。死なせない。新薬、完成したんだ。今それを持ってきてるから、それまで頑張れ。」

「純、最後にキスして。もう私、起きてられない。早く。」

「だめだ。桜が居ない世界なんて、楽しくないよ。あと少しで薬くるから。」

「もう無理だよ。早くキスして。そうじゃなきゃ恨んで成仏しないよ。」

「それは困るけど、死なれるのも困る。」

「純。最後の私のお願い、聞いて。キスするだけでいいの。簡単でしょ?」

「そうだけど...」

渋る純に説得は無理だ。だから私は色んな管がついた腕を口元に当てて、酸素マスクを外した。

「桜、何してんだよ...」

「純がしてくれないから。これが邪魔だからかなって。さ、ほら。早く。」

「だめだよ。早くマスクして。息苦しいでしょ。」

「だからキスしてよ。本当に死にそう...」

「わかったよ...でも死ぬなよ。」

「それはわかんない。」

純はまた目に涙を溜めながら私にキスをした。

「どう?これで満足?」

「うん。悔いなく逝けそう...」

「おい、死なない約束だろ。」

「それに関しては約束してない。それじゃあ、元気でね。私の事好きになってくれてありがとう。」

「だめだ。生きろ!これじゃあ戻って来た意味ないだろ。」

「あるよ。こうやってお礼を言えた。」

「お礼はこれからも出来るから。死ぬなよ。」

「じゃあね、純。桜が綺麗だね。」

「桜、桜!」

私は再び目を閉じた。これで本当に私の人生は終わる。

純、こんな私と付き合ってくれてありがとう。純のおかげで毎日が楽しく過ごせたよ。

生まれ変わったら、またここで会おうね。