走るのに疲れて歩いていると、純が後ろから抱きしめてきた。大人になっただけあって、力も背の高さも全然違う。

「桜、どうしたんだ?最近仕事が忙しいって言ってたもんな。だから疲れてるんだよ。」

「純...」

純の優しさは変わらない。それに純と結婚して、健康な身体なのだ。辛い現実に戻る必要なんて、一つもない。

「ごめん、疲れてるのかも。だから夢と現実がごちゃ混ぜになったのかも。」

だから私はこの世界で生きていく事にした。現実に戻ったらまた苦しい思いをしなければいけない。もうそんなの嫌だ。

「そっか。なら帰ってもう一度寝よ。」

「うん。」

純と手を繋いで、家に帰った。それが幸せで、現実世界の事なんて忘れた。だから。

─桜、戻ってきて。─

泣きそうな純の声は今の私には届かなかった。


それからの毎日は私が想像していた通りに進んだ。朝は大体一緒に起きて、支度をして仕事に行く。純と私は別の会社で働いているが、やっている業務はほぼ一緒だ。だから愚痴を言う時はお互い共感出来る。夜も一緒に寝る事が多いから身体を重ねる事もあった。

「私、こんなに幸せでいいのかな。」

夜。身体を重ね終えた後、隣にいる純を見ながら呟いた。

「いいに決まってるだろ。逆に幸せじゃなかったら俺、夫として失格だよ。」

「そうだよね。大丈夫、純は素敵な旦那さんだよ。」

「やばい。もう一回シたくなった。いいよな。」

「明日休みだからいいよ。」

許可すると同時に再び私達は身体を重ねた。純はこれをする時ですら優しい。私には勿体ないぐらいの人だ。

「はぁ...私、お風呂入ってくる。」

「結構汗かいたもんな。桜、めっちゃ声出すし。」

「うるさい。恥ずかしいから黙って。」

「おー、怖いー」

茶化す純を置いて、一人お風呂場に向かった。シすぎたせいで腰が痛い。明日は純の事こき使ってやる。

─桜、起きてよ。─

どうこき使ってやろうか考えていると、純の声が聞こえた。すぐ後ろを見たが純は居ない。それにあの声は泣きそうな時の声だ。今の純が泣きそうになる事なんてない。でも絶対に純の声だ。

「気のせいか...」

しかしいくら考えても答えは出ないから気のせいという結論に至った。それより明日はどうやって純の事をこき使ってやろう。


だがその純の声は毎日聞こえるようになった。回数も一回だったのが二回、三回と増えて、もう気のせいという言葉では収まらなくなっていた。

「おい桜、最近顔色良くないぞ?」

「え、そう?」