「俺、テーブル片付けるから桜はポトス切りな。」

「え、一人で?」

「すぐ戻ってくるけど、その方が効率的だろ。大丈夫。こういう長いつるを切るだけだから。」

「わかった。頑張ってみる。」

ハサミと水の入った瓶を貰い、つるが長いポトスを二、三本切った。ちゃんと大事にするからねと残ったポトスを撫でた。

「純、切り終わった。」

「おお、いいじゃん。」

「純の両親に私がお礼言ってたって伝えてほしいな。」

「オッケー」

忘れ物がないか入念に確認をして、純の家を出た。外は真っ暗で、星が輝いている。

「外は寒いな。」

「そうだね。」

「今日、楽しかった。」

「私も。今まで生きてきたクリスマスの中で一番楽しかった。」

「俺も。このブレスレットも凄く嬉しいよ。毎日つける。」

「私も指輪嬉しい。早く本物をつける日が来ないかなぁ。」

「あっという間だよ。それまでに病気、治そうな。」

「うん。頑張る。」

私と純はその後何も話さず電車に乗り、病院までの道を歩いた。病院が近づくにつれ、純の私と手を繋ぐ力が強くなっている。

「純、手、痛いかも...」

「え、あ、ごめん。」

どうやら純は力強く握っているという自覚がなかったようだ。もしかして、私を病院に戻すのが嫌なのかな。それもそうかこんなに楽しい時間を過ごしたのに、また病院生活に戻るのだから。

病院の入口が見えてくると、純は立ち止まった。そして片手で器用に私を抱きしめた。その手は小刻みに震えている。

「純...?」

「あー、桜の事帰したくない。ずっとそばに居てほしい。」

その声も震えていた。今日の純はいつになく弱い。それが心配だった。

「今日の純はなんだか子供みたい。どうしたの。」

「楽しい事があった直後はいつも嫌な事があるから。このまま桜を帰さなかったら、俺、怒られるかな。」

「多分、すっごい怒られるよ。」

「そうだよな。やっぱり帰すしかないんだよな。」

純は悲しそうに笑った。そして私を離すと歩き出した。少し先を歩く純の後ろをついて行った。

「おかえり。二人とも。」

病院の入口で先生が待っていた。帰るという連絡をしていたからだろう。

「ただいま、先生。」

「楽しかった?」

「うん、すっごく。」

「それは良かった。純も楽しかった?」

「楽しかったですよ。桜の事帰したくないぐらいに。」

「はは。それはだめだなぁ。治ったら沢山出かけてよ。」

「そのつもりです。」

「さ、外も寒いから田辺さんは早く中入って。病室に帰ったら病院着に着替えてね。着替え終わったら診察するから呼んで。純は帰り、電車だよな。気をつけて帰れよ。田辺さんを無事送り届けてくれてありがとう。」

「いえ、彼氏なので当然です。じゃあな、桜。また明日、病室行くから。」

「うん。今日は本当にありがとう。」

純は何度も振り返りながら病院を後にした。さっきまで純と居たのに、もう会いたい。絶対病気を治して、純と一緒に居るんだから。

「あれ...?」

そう決意をして歩き出そうと一歩踏み出した瞬間、身体から一気に力が抜けてそのまま倒れてしまった。

「田辺さん?どうしたの?」

隣に居た先生はすぐ私に話しかけてきたが答えられなかった。言っている意味はわかるし答えたいのに、声が出ない。どんどん意識も薄れてきた。なんで?ついさっきまでなんともなかったのに。

私、このまま死ぬの...?純とまだやり残した事沢山あるのに。結婚するって約束もしたのに。

純、怖いよ。助けて。

純の事だけを考えて、私は意識を手放した。