「こっちに何か用事でもあるの?」

「まあな。」

「あっそ。」

もう面倒くさくなった。どうせ言ってもついて来るし、心配かけた私が悪い。

自分の家に着き、鍵を開けても純はそこから動かなかった。私が入る所まで見るつもりだろう。

「送ってくれてありがと。気をつけて。」

それだけ言い、ドアを閉めた。家にはまだ誰も帰ってきておらず、静かだった。

皆が帰ってくるまでに夕飯を作ろうとキッチンに立つとスマホが鳴った。純からのメッセージだ。

─体調、気をつけろよ。─

既読をつけずに読み、スマホを再びポケットに入れた。純は本当に優しい。だからこんな私に構わないで他の人と居ればいいのに。それと、あんまり心配をかけないようにしよう。今日は家に誰もいなかったからいいが、誰かいる日に送ってもらったとなったら絶対に何か言われる。純のことは家族皆知っているけれど、純は格好良くなってきてるから私なんかに時間を使わせるな。つり合わないと言われるだろう。時間もつり合わないのも私がよくわかってる。

とりあえず、心配かけないようにしないと。私は大丈夫。元気。

心に言い聞かせながら夕飯を作った。

「ただいまー」

夕飯を作り終えて部屋で予習をしていると弟の彗が帰って来た。一旦手を止めて下に降りると、説明しなくても夕飯を食べていた。

「なに、桜。」

彗は私に気づくと冷たい視線を向けて聞いてきた。姉さんのこと呼ぶ時は冬香姉のくせに。

「何でもないよ。おかえり。」

「ふーん。用ないならどっか行って。」

彗は私と一つしか歳が離れていない。だから友達みたいな感覚なのだろう。それか私を馬鹿にしているか。今までは嫌だったが今はなんとも思わなくなった。どうせ私はそんな扱いだ。

「なんかあったら呼んでね。」

それだけ声を掛けて再び部屋に籠った。皆が帰って来るまでは部屋に居よう。

それから私は深夜の零時過ぎまで部屋から出なかった。皆が帰って来て、寝静まったのを確認してからお風呂に入った。前にテストの点数が低かった時に、私は皆が寝静まったからではないとお風呂に入ってはいけないと言われた。それまで部屋に籠って勉強してろと。酷い話だと我が家の事ながら思う。どうして律儀に守ってるかと言うと、一回だけ約束を破ってしまった時に、大事にしていたシャーペンを壊されたからだ。約束破るならシャーペン要らないでしょって。本当に意味がわからない。どうして私は先にお風呂入ってはいけないの?入っても勉強はしてるよ?