「純ー、私する事あるー?」

「ないよー。薬飲んで寝てなー」

純は私の事を心配してくれてる。私自身はものすごく元気だが、もし私になにかあって怒られるのは純だ。素直に言う事を聞こう。

「わかった。その前に洗面所借りてもいいかな?」

「もちろん。リビング出て真っ直ぐ行けばあるから。」

「わかった、ありがとう。」

「何かあったらすぐ呼べよ。なんなら物倒してもいいから。」

「ありがとう。」

カバンを持ってリビングを出た。言われた通り真っ直ぐ歩くと、洗面所に辿り着いた。持参して来た使い捨て歯ブラシで歯を磨き、薬を飲んだ。飲んでいる時口の中がスースーして、薬を飲むのを先にすれば良かったと後悔した。

リップを塗り直し、髪も少し直した。いつもボサボサの髪だから純は見慣れているだろうが、私の気持ち的に嫌だ。せっかくのデートぐらい、綺麗でいたい。

満足して洗面所を出ると、純がドアの前に立っていた。

「うわっ!びっくりした...」

「中々戻って来ないから大丈夫かなって。驚かせてごめんな。」

「ううん、私こそ心配かけてごめんね。体調はなんともないよ。女の子は色々やる事が多くて時間がかかるの。」

「そうか。良かった。」

純は本当に安心した顔をしていた。こんな優しい彼氏をもって、私は幸せ者だ。

「ねぇ、純。私の事抱っこ出来る?」

リビングに戻る途中、ふと気になって聞いた。よくよく考えたら純は抱きしめてはくれるが、抱っこはしてもらった事がない気がする。

「出来るよ。前に一回したことあるし。」

「え、そうだっけ。いつ?」

「前に桜がいじめられてて、俺から逃げようとした時。」

「ああ、あの時か。」

入学してすぐ、純と一緒に帰った事でいじめられた。それが純にバレて、問い詰められて逃げようとしたら抱っこされた。あの時は純にいじめられている事がバレた、迷惑かけたくない一心で逃げようとした。それにその後腕の傷もバレてしまってパニックになっていたから抱っこされた事など忘れていた。

「今だから言えるけどさ、あの時の桜、離したら消えちゃいそうで怖かった。」

「そうだったの?」

「うん。普段大人しい桜があんなに泣いて暴れるなんてないから。このまま離して、急に冷静になって死ぬ気がして。だから今、こうして一緒に居られることに感謝してる。」

「うわっ」

純は私を軽々と抱っこをした。いつも純を見上げて話をするから見下ろすのは新鮮だ。

「桜、軽すぎない?今何キロ?」

リビングに入り、優しくソファーにおろしてくれた。

「女子に体調聞いちゃいけないんだよ。三五キロだけど。」