「純、離して。苦しい。」

「あぁ、ごめん。桜が可愛くてつい。」

純が離してくれてもまだドキドキしている。顔も熱い。純の方をちらりと見ると、純も顔が赤かった。

「そうだ。お昼にする?」

そう言う純の声は裏返っていた。それが面白くて笑った。

「何その声。」

「桜の顔が赤いから俺も恥ずかしくなってきちゃって...で、お昼にする?」

「うん、しよう。お腹空いちゃった。」

「オッケー。準備するからそこに座って待ってて。」

「手伝うよ。」

立ち上がろうとすると純に止められた。

「いいから座ってて。飲み物何にする?ココアとミルクティーならある。」

「えっと...ココア...」

「了解。少し待っててー」

純の言葉に甘えて待つ事にした。純の家には植物が沢山置いてあって心が落ち着く。うちでは植物を育てる人がいなかった。まああの性格の人達に植物など育てられる訳ないだろう。

座っている所から一番近い植物を触った。純の両親には小学校低学年の頃に会った事がある。二人とも優しくて、純が優しいのにも納得が出来た。私の両親も、純の両親みたいに優しかったら良かったのにって何度思った事か。

「桜、準備出来たよ。」

「あ、ありがとう。」

テーブルの上には買ってきた惣菜たちが綺麗にお皿に並べてあった。こういう所でも育ちの良さがわかる。

「植物見てたの?」

「うん。うちでは育てる人いなかったから。いいなーって。」

「そうか...。もし良かったら少し病院に持って行く?」

「いいの?でもどれを?」

純の家に置いてある植物は全て大きい鉢に植わっている。それはさすがに持って行けない。

「こっちにポトスがあった気が...」

リビングを出て行き、戻って来た純は小ぶりの鉢を持っていた。葉っぱがあちこちに向いている。

「これなら少し切って水に差せば持って行けるよ。帰りは俺送るし。」

「切っちゃっていいの?勝手にだと怒られない?」

「この伸びてるやつを切ればいいし、桜にあげたって言えば平気だよ。どうする?」

「...貰いたい。」

ずっと植物を育ててみたかったが、どうせ死ぬのに荷物を増やしてはダメだと思っていたから育てられなかった。でも今ならたとえ私が死んだとしても祖母か純が引き継いでくれるだろう。

「わかった。後で一緒に切ろう。今はお昼にしよ。」

「そうだね。」

純はポトスをテーブルに置いた。植物を見ながらする食事は心が落ち着いた。

「ご馳走様でした。」

「ご馳走様。美味しかったな。」

「うん、すっごく美味しかった。クリスマスのお惣菜ってこんなに美味しいんだね。」