ぼそっと呟いた言葉は、先生ではない人の声で返事が返ってきた。振り返ると純がいた。不機嫌そうにドアに寄りかかっている。

「あ、純。いつから居たの?」

「いつから居たの?じゃねーよ。なんだよさっきの。」

「純が来るまでの間、先生の昔話聞いてたの。そしたら病気で亡くなった彼女さんの事が忘れられないから独身のままって聞いたから、純は私が死んだらどうするのかなって。」

「それでなんで他の人と付き合う発想になるんだよ。俺ってそんなに桜に対して軽そうに見える?」

「見えないよ。だけどさ、わかんないじゃん。大丈夫。私はそうなっても怒らないよ。死人に口なしって言葉があるぐらいだし。」

「はぁ...」

本気でそう思っているのに、純は盛大な溜息をついた。

「先生、桜を不安にさせる事言わないでくれます?いくら昔話とはいえ、桜は自分と重ねるんですから。」

純は私の前に来るとぐいっと手を引っ張って抱き寄せた。大きい身体に抱き締められるのはすごくドキドキした。顔が赤くなっていくのがわかる。

「ごめんね、純。田辺さんも不安にさせてごめんね。でも大丈夫だよ。純、田辺さん以外の人には扱えないから。」

「そうだよ、桜。だから大丈夫。安心しろ。」

「う...うん。」

純がかっこよすぎてそれどころではない。今にも心臓が爆発しそうだ。

「これ以上純怒らせると怖いから逃げるとするよ。それじゃあ田辺さん、楽しんで来てね。薬はしっかり飲む事。いいね?」

「はい...」

「純、田辺さんの事よく見てあげるんだよ。」

「言われなくても穴が空くほど見ます。ご心配なく。」

「それは頼もしい。それじゃ、良いクリスマスを過ごしてね。」

先生は手を振って病室を出て行った。純は先生が出て行って少ししてから私を離した。

「桜、俺は桜だけだから。」

「うん。今ので充分伝わった。」

「それと、桜は死なないから。俺と一緒に歳をとって死んでいくんだから何も不安になる事はない。」

「そうだったね。」

今までの私なら死なないという言葉を否定していただろう。私が生きている間に治療法は見つからないって。

けれど今は体調がいいからか、このまま治るのではないかと期待している自分がいる。純と先生のおかげだ。

「だろ?だからこの話はおしまい。今日は待ちに待ったデートなんだから。」

「そうだね。純、いつもと雰囲気が違ってかっこいい。」

いつもの純は寝癖そのままのザ、男子高校生という印象だが、今日は違う。しっかり髪はセットされてて、耳にかけてある。服も大人っぽくて本当に高校生?と疑ってしまう程だ。