「じゃあ気をつけて帰ってねー」

先生がそう言い教室を出ると、クラスは騒がしくなった。部活見学に行く人もいれば、もう仲良くなったのか、数人一緒に楽しそうに出ていく姿も見えた。私は荷物を持ち、一人教室を出た。

「桜ー、一緒に帰ろうぜー」

下駄箱で靴を履き替えていると、純が声を掛けてきた。まだ人がいるから視線が痛い。

「やだ。友達と帰ればいいじゃん。」

「入学したてで友達なんていねーし。だから桜、帰ろ」

「一人で帰りな。私を巻き込まないで。それじゃあ。」

もし今ここで一緒に帰ってしまえば、明日学校に来たらからかわれるだろう。高校生ともなれば男女が歩いているだけで勘違いする人が多い。私は別にからかわれてもいいが、純はダメだ。私に構って高校生活を無駄にしてほしくない。

「うっ...」

学校を出て数メートル。急に目眩がしてきた。世界が回転している感覚に陥ってしまい立っていられなくなった。

倒れる。そう思って目を閉じたが一向に倒れない。ゆっくり目を開けると、純が私を支えていた。

「大丈夫か?」

純はとても心配そうな顔をしていた。私はゆっくり純から離れた。

「大丈夫。ありがとう。」

助けてくれた訳だから、お礼は言った。だがこれで明日、からかわれる事は決定してしまった。だって同じクラスの女子が、見ていたから。根も葉もない事を流すんだろうな。

「待て。送る。」

悪い想像をして心が重くなっていると、純が肩を掴んできた。地味に力が入っており、無視して歩くことは無理そうだ。

「結構です。」

「心配だから。」

「もう大丈夫。」

「その顔で大丈夫って言われても説得力ないよ。」

近くにあった店のドアで自分の姿を見る。確かに、説得力は全くない。だが私も引く訳にはいかない。

「本当に大丈夫だから。」

少しキツく言うと、肩から手を話してくれた。やっとわかってくれたと内心溜息をついて歩くも、後ろから足音が聞こえる。最初は気のせいだと思っていたが駅のホームに立った時、横目で純が見えた。そして最寄り駅に降りてからもその足音はなくならなかった。

「なんでついてくんの?」

我慢出来なくなって聞いてみた。

「俺も家がこっちにあるから。知ってるだろ?」

こいつ、そう言えば私が何も言えなくなると思いやがって。実際の所、純の家も私の家と同じ方向にあるから何も言えない。

「そうでしたね。」

純の家の方が私の家より手前にある。あと少しの辛抱だ。

だがそんな私の辛抱は破られた。純は自分の家の前を通っても尚、ついて来た。