それからの二週間、私は少し忙しかった。着る服を用意したり、純へのプレゼントを用意したり、もちろん治療もしているから休む時間がない。だがそれすらも楽しかった。

そしてクリスマス前日。大がかりな検査の結果が返ってきた。ドキドキしながら見ると、全て平常値で外出が許可された。

「良かったな、桜。」

ちょうど純といる時に検査結果が返ってきたから一緒に見れた。純は自分の事のように喜んでくれた。

「うん、嬉しい。この二週間、色々頑張ったんだから。」

「よく頑張ったな。明日は楽しもうな。」

「あのー...二人でイチャついてる所悪いんだけど、先生の事忘れてない?」

先生の声で二人同時先生の事を見る。検査結果を持ってきてくれたのは先生だ。純とデート出来る事が嬉しくて忘れていた。

「先生、ごめん忘れてた。」

「すいません、俺も。」

「先生悲しい。」

正直に謝ると、先生は笑いながらそんな事を言った。最近の先生は心から笑っている事が多い。今までも心から笑っている時はあったのかもしれないが、私自身に余裕がなくて気づかなかったのかもしれない。

「先生ごめんね。先生が頑張ってくれたから明日デート出来るんだよ。本当に感謝してる。ありがとう。」

「俺からもありがとうございます。」

「え、待って嬉しすぎる。」

私達からお礼を言われ、先生は泣いた。それでふと思い出した事があり、棚から緑の包み紙を出した。

「先生、クリスマス明日だけどもう渡しとくね。いつもありがとう。」

「え、いいの?」

「うん。」

「今開けてもいい?」

「いいよ。」

ワクワクした目で包み紙を開いていく先生は小さい子供みたいだ。

「おぉー、マフラーだ。」

私が先生にプレゼントしたのは黒色のマフラーだ。先生は病院に来る時、いつもマフラーをしていない。だから思い切ってネットで購入してみたのだ。

「どうかな?」

「すっごく嬉しいよ。ずっとマフラー欲しかったんだけど、センスないから買えてなくて。ありがとう。大事にする。」

先生は早速マフラーをつけた。白衣だから違和感しか感じないが、私服だったら似合うだろう。

「先生、似合ってるよ。」

「ありがとう。でも田辺さん、後ろ見てみな。」

「へ、後ろ?」

言われたとおり見ると、純が面白くなさそうにしていた。それもそうか。彼氏放ったらかして違う男性と仲良さげに話していたら誰でもそうなる。

「純、拗ねないで。純には明日渡すからね?」

「別に拗ねてませんけど?桜は俺の事大好きだって知ってるし。」

「そうだよ?今更先生がいいなんて言わないから安心して。」

「そうだよな。桜、好きだよ。」

「私も純の事好き。」

純に抱きつくと頭を撫でてくれた。その手が優しくて目を細めていると、

「二人の世界に入ったみたいだから先生行くね。マフラー、本当にありがとう。」

早口でそう言い、先生は病室を出て行った。また先生の存在を忘れていた。申し訳なさすぎる。

「さ、先生もいなくなった事だし、イチャつくか。」

申し訳ないと思っている私とは真逆に、純は先生がいなくなって嬉しそうだった。

「明日嫌ってほどイチャつけるでしょ。だから今日はもうおしまい。」

「えー、なんでだよ。今日全然イチャつけてないー」

「今日は早く休んで、明日に備えよう?それに言う事聞かない人には私からのプレゼントないよ?」

「それは嫌だ。わかった、帰ります。」

「わかればよろしい。」

純と離れるのはいつも嫌だと思う。けれど明日は朝から純と会えると思い直して離れた。

「じゃあ純。明日の朝九時にここに来てね。」

「オッケー」

「寝坊しないでよ?」

「大丈夫だよ。桜の事となれば早起きできるから。」

「信じてるよ。また明日ね。気をつけてね。」

「おう、また明日な。」

純を見送ると病室は静かになった。今まで騒がしかったから寂しかったが、明日朝から純といれると思い直し、もう一度荷物の確認をした。明日は朝九時過ぎにはここを出て、少しショッピングをしてから純の家に行く予定だ。二二時までに病院に帰ればいいから、いつもより長く純といられる。私が元気な時でもこんな長い時間一緒にいた事はないから緊張してしまう。純の家にも行った事ないから楽しみだ。

検査結果がなんともなくて良かった。今まで辛い人生だったから最後ぐらい神様が良くしてくれてるのかな。こんなに幸せになれるなら辛くても諦めずに生きてて良かった。

病気が完治したわけではないのに本気でそう思った。