「さて、俺は帰りますか。」

「そうだね。外も暗くなってきてるし。」

「冬が来たーって感じがするよ。じゃあ桜、またな。」

「気をつけてね。またね。」

病室の入口まで見送り、ベットに戻る。本当はエレベーターの前までなら行ってもいいのだが、俺が帰った後桜に何かあったら嫌だからと言う純の意見で病室までにしている。全く、過保護なんだから。

「あ、田辺さん。純は帰ったの?」

ベットに座っていると、先生が入ってきた。

「うん。外も暗くなってきてるし。」

「そっか。あれ、田辺さんその手首につけてるの何?」

「これね、純がくれたの。夏休み、一回出かけた事あったでしょ?あの時可愛いって見てたんだー」

「田辺さんに似合ってるよ。純は本当に田辺さんの事好きなんだね。」

「へへ。」

人に言われると恥ずかしい。でもそれと同時に嬉しさもあった。

「それで先生はなんの用事でここに?今日は治療ないはずだけど...」

先生は治療以外にあまり顔を出さない。だから何もない時に来るのは少し怖くて身構えた。

「そんな身構えなくても。いい話をしようと思って。」

「いい話?」

「田辺さん最近調子いいから、外出許可が出そうなんだ。だから純とどこか行くかなって思って。」

「え、やった。いつ?」

思ってもいなかった外出のチャンス。純と出かけない訳ない。

「田辺さんの調子次第だけど、クリスマスとかいいんじゃない?二人恋人同士なわけだし。」

壁にかかってあるカレンダーを確認する。クリスマスまであと二週間だ。

「クリスマスまで、あと二週間しかない!服と、あとプレゼントも用意しなきゃ。その前に純にも連絡しないと。」

「でも体調が悪かったり、体調が良くても数値が悪かったら行かせないからね。」

私が一人あたふたしていると、先生が釘を刺すように言った。

「わかってるよ。わー、楽しみだなぁ...」

「ほんと、明るくなったよな...」

「なんか言った?」

「いや、なんでも。じゃあ先生は行くね。なんかあったらすぐ呼んで。」

「はーい」

先生が病室から出て行ってすぐ、純に連絡した。

─クリスマス、体調が平気だったら外出出来そうなんだ。だからデートしよ!─

デートと書くのはすごく恥ずかしかったが、恋人同士だからいいではないかと開き直り送信した。

すぐに既読がつき、返事が来た。─うお、まじか。めっちゃ楽しみだわ。どこ行く?─

─純と二人でゆっくりしたい。─

─なら俺の家でクリスマスパーティでもする?─

─でも両親いるでしょ?─

─大丈夫。あの二人、クリスマスはいつもデートして夜遅くまで帰って来ないから。─

─勝手に人招いていいの?─

─桜が来るとだけ言っとくよ。ほんと、楽しみだな。─

何回も純とのやり取りを見る。文面だけでも純が喜んでいるのがわかる。純を悲しませない為にも、体調管理はしっかりしないと...。