純はそう言うと私の肩にもたれかかってきた。どうしたのかと心配になり見ると、眠っているだけだった。けっこう歩き回してしまったから疲れたのだろう。

眠っている純の姿をまじまじと見る。柔らかそうな髪、長いまつ毛。私より何倍も大きな手。そして健康な身体。

純は考えた事あるのかな。この世には病気の人が沢山いて、生きたいと思いながら死んでゆく人達の事を。...多分ないだろう。私も自分が病気にならなかったら考えなかっただろうから。

でも考えない方がいい。だってそれが普通だから。健康でいるのが当たり前で、その事を前提に未来の話をする。私も、そう生きたかった。でも私の場合、病気がなかったらあの家族に捨てられなかったからこの人生で良かったのかも。

あの日、母親に捨てられて悲しい気持ちもあったけど、冷静に考えてみたらそれと同じぐらい嬉しかった。もうあの地獄の生活に戻らなくていいのだから。病気になって唯一良かった事かもしれない。

病気になって良かったと思うなんて、私ぐらいだろうな。笑えてくる。

「あれ...私、泣いてる...?」

目元が霞んだから触ってみると、やはり泣いていた。なんで泣いてるのかわからない。でもいいか。純は寝てるし、他の乗客はこの車両に乗ってないし。

私は純の頭を撫でながら静かに泣いた。純ってばそんなに気持ち良さそうに眠ってるけどさ、これから話す事ちゃんと受け止めてよね。私の願いは、純が幸せでいてくれる事なんだから。


「ん...あれ、俺寝てた?」

電車が目的地に着く間際、純が起きた。私はとっくに泣き止んでいて、目も腫れていない。

「俺桜に寄りかかってるじゃん。重かったよな。ごめん。」

純は慌てて私から離れた。重いなんて一ミリも思っていない。

「重いなんて思ってないよ。ただ無防備だなぁとは思ってた。」

「それ、俺が言うセリフじゃね?」

「確かに。」

二人で顔を見合せて笑った。この時間がずっと続けばいいのに。

「あ、着いた。降りよ。」

電車は終点まで来た。まだ寝ぼけている純を引っ張って、改札を抜けた。

「ここ...海?」

「うん。ここが今日一番来たかった所。ほら、荷物は置いて、靴と靴下脱いで。」

「え...もしかして...」

「もちろん、入るよ。てなわけでお先ー」

前もって準備していたから私はすぐに海に入れた。ここの海は人が全然いないと海を調べていた時に出て来た。夏休みなのにそんな事あるのかと思っていたら、本当にそうだった。私達以外に人はいなくて、先程の店状態だった。でも話をするにはもってこいな場所だ。

でもそれは遊んでから。まだタイムリミットまで充分、余裕がある。