「桜、おまたせー。いやー、店がすごく混んでてさ、買うのに時間かかっちゃった。」

しばらくして純が戻って来た。一つお盆を受け取ると意外と重かった。

「結構重いね。大変だったよね。ありがとう。」

「これぐらいどうって事ないよ。それより、これで良かった?俺と一緒のやつって言われたからそれにしたけど...」

純が買ってきたのは豪華な海鮮丼だ。魚介類が大好きな私にぴったりの商品だ。

「私、魚好きだから嬉しい。こんな豪華な物、私一人じゃ買わないだろうし。」

バイトをしていたとはいえ、給料は半分母親に渡していた。だから全然手元に残らない。別に欲しい物がある訳でもないからいいのだけれど。

ちなみにバイトは辞めた。もう働く意味なんてないし、この身体で役に立てるとは思わないから。

「喜んでもらえて良かった。ここのはすごく美味しいからおすすめだよ。」

純はそう言うと自分で一口食べた。純はなんでも美味しそうに食べるから食欲がなくても食欲が湧いてくる。

「いただきます。...ん、本当だ。美味しい!こんな美味しいの初めて食べた...」

刺身のネタが大きくて、歯ごたえがいい。新鮮で食べていて飽きない。醤油がなくても食べられる。

「だろ?ここの魚は朝捕れたやつを使ってるから新鮮で安心安全に食べられるんだ。俺も初めて食べた時は今の桜と同じ反応したよ。」

「私、刺身とかあまり食べさせてもらえなかったから比べられないけど、本当に美味しい。」

「そう言ってもらえて嬉しいよ。片付けに行く時お店の人に伝えとく。」

「うん。ぜひそうして。」

口数少なめに海鮮丼を食べ終えた。入院してからは少ししか食べ物を食べていなかったのが嘘のようだ。

「ごちそうさま。美味しかった。」

「また食べに来ような。」

純の無邪気な笑顔に胸が痛んだ。

私に次なんて、ないのに。

「そうだね。」

だけど私は笑顔で頷いた。まだ言う時じゃない。もう少し楽しんでから。

「次はどこ行くの?」

「今十三時だよね。もう少しここにいても平気だから、純が行きたい所でいいよ。」

「俺かぁー。うーん...あ、時計買おうとしてたんだ。」

「なら時計買いに行こ。私が選んであげる。」

「マジで?ラッキー。じゃあ俺、片付けてくるからここで待ってて。」

「はーい」

純を待っている間、スマホを見た。これも学生らしいなぁと思いながら。

「お待たせ。行くか。」

「うん。ん。」

右手を出すと、純は恥ずかしがらずしっかりと繋いでくれた。前は恥ずかしいと思っていたが今は思わない。むしろこの短い間だけでも彼氏と思われたい。