「桜、次どこ行くの?」

いつの間に隣に来ていた純に聞かれた。今日でこの声を聞けるのが最後だと思うと悲しくなったが、今は楽しみたい。今だけは、全てを忘れよう。

「次はねー、ショッピングモール。私、制服着て行ってみたかったの。」

私は青春というものを楽しんでみたかったのだ。いつも家の事をやって、怒られて。そんな日々を過ごしていた私に青春なんてある訳もなくて。だから今日、自分が思い浮かべている青春をする事に決めた。最後にいい思い出がほしい。

「俺も桜と学校帰りにこういう所行ってみたかったから嬉しいよ。でもそれなら夏休み明けでも良くないか?」

「夏休みにするから特別感があっていいんじゃない。」

「それもそうだな。」

学校から歩いて十五分の所にあるショッピングモールは人が凄かった。ここにこの街の人が全員集まっているのではないかと思ってしまうぐらい、歩けない。

「桜、手繋ごう。このままだとはぐれる。絶対。」

「うん」

純は私の手を握ると人の波をすり抜けて、人気のない所に連れて行ってくれた。どうやらなにかのイベントが開催されているみたいで人が沢山いるらしい。

「凄い人だな。大丈夫か?」

「うん。ありがとう。」

「どこ行きたいんだ?俺よくここ来るからめっちゃ詳しいよ。」

「お腹空いたからなんか食べたい。」

「オッケー。ならこっちだな。」

純は迷う事なく歩いている。その手はしっかり繋いだままだ。かっこいいなと思いながら歩いているとフードコートに着いた。

「俺買ってくるから桜は座ってな。何がいい?」

「純と同じやつでお願いします。お金は戻って来てからでも平気?」

「わかった。お金はいいよ。俺、夏休み中親戚からめっちゃお金貰ったから。」

「じゃあお言葉に甘えて。ありがとう。」

「行ってくるわ。席座ってろよー」

「はーい」

純が買いに行ったお店の近くの席に座った。そうだ、今の内に薬を飲んでおこう。この薬は食前でも食後でもいいし、前飲んだ薬との時間が過ぎていれば飲んでもいい。

充分条件を満たしているから忘れない内に飲んでしまおう。純はしばらく戻って来ないだろうし。

フードコートの水場から水を貰い、薬を飲んだ。この薬は治療薬ではない。症状が出ないようにするだけの薬だ。病院側としてはこの薬を飲んでほしくないらしい。症状を出ないようにする代わりに、薬の効果が切れた後の副作用がすごいらしい。治療にも影響が出るみたいで、そのせいで外出許可を取るのが大変だったと先生が教えてくれた。

だからこそ、今日は悔いのない一日を過ごしたい。