「それにしても今日は暑いな。」

純は私の腕を離すとワイシャツのボタンを一つ外した。その姿がかっこよくて、ある提案が頭に浮かんだ。

「ねぇ、写真撮ろうよ。」

「え?写真嫌いじゃなかったっけ。」

純が驚くのも無理はない。私は写真が嫌いで、自分から撮ろうなんて一度も言った事がない。けれどもうこの学校に来るのも今日が最後だし、思い出を形にして残したい。純と一緒に撮ったら思い出もより一層頭に残るだろう。

「ほら、しばらく連絡しなかったらお詫びにさ。いいでしょ?」

「まあ...いいよ。」

純は腑に落ちない表情をしていたがカメラを向けると笑顔になった。私が見たくて仕方がなかった笑顔だ。この笑顔を見返せると思うと自然と笑顔が溢れた。

「なんか今日の桜、いつもと違って明るいね。」

「純と会えたからね。さ、次行こっ」

純の腕を引いて教室を出た。この教室で純に助けてもらったな。四ヶ月ぐらいしか生活していないけれど、もう来ないと思うと少し寂しく思った。

次に私が行きたかったのは生徒玄関だ。ここで純と何度も待ち合わせをして一緒に帰った。私が検査中に倒れて、学校に遅れた時はここで待っててくれたな。

「純、写真撮ろ。」

「うん。」

純は何も言わず写真を撮らせてくれた。純は私がいつもと違う事気になっているんだろうな。本当は聞きたいはずなのに聞かないでいてくれる所、純の優しさだ。私から話すのを待っていてくれるのだろう。

「うおっ、桜、また抱きついてきてどうしたの?」

そう思ったらいてもたってもいられなくて純に抱きついた。私の嫌がる事はしないでくれる純。私はこれまで生きてきてこんなに優しい人を知らない。

「んー?親に本格的に捨てられちゃったから人の温度が恋しいの。」

「それどういう事?」

純は私の両肩を優しく掴んで目をしっかりと見てきた。やめて、そんな疑いのない目で見ないで。ここで泣く訳にはいかないの。

「ちょっと色々あって。でももう解決したから。ごめんね、変な事言っちゃって。ほら、次行くよ!」

純から離れ、先を歩いた。危なかった。今ここで全部話してしまいそうになった。ここでは話せない。

私は今日、純に全て話すつもりだ。病気の事も、あと半年しか生きれない事も。それでもう純とは会わないつもりだ。純からしたらすごく辛いだろう。けれど死にゆく私と一緒にいる時間は勿体ない。私が死んだ時に近くにいすぎると悲しみが倍になる。それらを考えての決断だった。本音を言えば話したくなんてないし、話したとしても純と死ぬその時まで一緒にいたい。でもそれは私のエゴだ。純の今後を考えると私と離れた方がいい。私は本当に純が好きみたいだ。こんなに人を好きになれるなんて。純がいなかったら経験出来なかった事だ。すごく感謝している。それで充分だ。