「田辺さん、入るよー」

「はーい」

「おー、制服似合ってるー」

「初めて見た訳じゃないでしょ。」

「そうだけど。」

少し頬を膨らませる先生が可愛い。つい顔がにやけてしまう。

「田辺さん、にやけてないで外出前の診察するよ。」

「はーい」

楽しみな事があると、どんなに治療が辛くても時間が過ぎるのが早く感じる。あっという間に純と出かける日になった。薬を変えたからか身体がだるいと思う事はなくなり、むしろ軽いぐらいだ。夏休みに入る前の身体となんら変わりはないが、前に一度生死の境目にいたから気をつけるよう、耳にタコが出来る程祖母にも先生にも言われた。

そして今も...

「うん、大丈夫だね。何度も言うようで悪いけど、気をつけて行動するんだよ。無理はしない事。薬は忘れずに飲むんだよ。」

「わかってるよ。私ってそんなに信用出来ない?」

「心配なんだよ。外出許可だって半ば無理矢理お願いしたんだし。...あ。」

先生はしまったという顔をしたが、時すでに遅し。聞いてしまったものは取り消せない。

「そうだったの?無理だったらそう言ってくれたら良かったのに。」

「でも田辺さんが自分の意見を言う事ってあまりないから。どうしても叶えてあげたかったんだ。」

秘密にするつもりだったのに。と本気で悔しそうにしている先生を見て泣きそうになった。私の為にここまでしてくれるなんて。

「田辺さん、泣かないでよ。これから会う人に心配されちゃうよ。」

「わかってる。てか先生、私がこれから会う相手わかるの?もしかしたら一人かもしれないよ?」

少し意地悪を言ってみたが、先生は全く動じなかった。

「田辺さんが一人で外出したいなんて言わないよ。それに先生も相手が田辺さんが信用している人だから許可取ったんだし。」

先生のが一枚上手だった。言ってもないのに相手がわかるのも凄い。

「流石先生だね。」

「まあね。だてに二年田辺さんの主治医やってないから。」

二人で笑っていると、出発の時間が近づいてきた。慌てて荷物をまとめて病室を出た。先生な外の出口までついて来た。

「じゃあ田辺さん。今日の夜九時には帰ってくる事。いいね?」

「わかってる。じゃあ、行ってきます。」

「行ってらっしゃい。気をつけて。楽しんで来なよ。」

何度も先生に手を振り返して、駅に向かった。学校集合にしたから電車に乗らないといけない。病院から駅はそれなりの距離があるから汗ばんだが、特に気にならない。今は純に会える楽しみの方が大きい。