「純...」

「あ、田辺さん。目覚めた...って、泣いてる?」

目を覚ますと部屋がいつもより眩しかった。外が暗いから部屋の明かりがいつもより明るく感じるのだろう。

「大丈夫?」

ゆっくり起き上がると、先生が支えてくれた。最近はだるくて起き上がる事すら出来なかったからそれだけで疲れてしまった。

「はぁ...うっ...ぐす...」

「どうした。怖い夢見ちゃった?」

「違う...逆。幸せな夢だったの。」

「だったらどうして泣いてるの?」

「現実じゃ絶対ありえない幸せな夢だったから。」

あの光景を思い出すと悲しくてもっと涙が出てきた。一人で泣くのは寂しくて先生にしがみつくと、先生は優しく抱きしめ返してくれた。

「それは辛かったね。一人で怖かったね。もう大丈夫だよ。」

先生に優しく言われてまた涙が出てきた。最近の私は人の優しさに弱いみたいだ。今までは優しさを疑っていたぐらいなのに。

「ん...もう大丈夫。ありがとう。」

「これぐらいで楽になるならいつでもやるよ。あ、でもこんなおじさん嫌か。」

先生がおどけるのが面白くて少し笑えた。先生はおじさんという年齢でもない。三十代前半だと言っていたのを聞いた事がある。

「先生、おじさんって言う歳でもないよ。むしろお兄さんだよ。」

「ほんと?それは嬉しいなぁ。そうなったら田辺さんは可愛い妹だね。」

「先生、他の女性にもそんな事言ってるの?勘違いされるから気をつけな?」

少し引き気味に言うと、先生は苦笑した。

「言ってないよ。それに田辺さんは先生からしたら本当に可愛い妹みたいな存在だから言うんだよ。」

「ふーん」

可愛い妹なんて久々に言われた。最後に言われたのは私が幼い頃に両親からだ。あの時はまだ愛されていた。幸せだった。

「そうだ田辺さん。いい報告あるんだ。」

悲しい感情に支配されそうになっている時、先生が今思い出したかのように言った。

「なに?私の病気が治る目処がたった?」

「ごめん。それはまだ。それ以上にいい報告なんてないよな。」

少し冗談のつもりで言ったが、先生は本気で落ち込んでしまった。

「先生、冗談だよ。そんな本気で落ち込まないでよ。」

「いや、先生軽く言いすぎた。」

「本っ当に冗談だから!で、いい報告ってなに?」

「...外出許可が出た。来週のうちならいいって。」

「ほんと!?」

外出許可なんて、この体調で出ないと思っていた。どうやら私が思っているより身体は悪くないらしい。だるいのは薬の副作用で、今度は違う薬を投与していく予定だと言われた。