「先生ごめんね。大事な時間使わせて。」

先生から離れると少し寂しかった。

「いいんだよ。どうせ暇だし。」

「先生人気なのに?」

「今は田辺さんの病気を治すチームにいるから他の患者さんは診なくていいんだ。」

「そうなの?」

「あ、だからって自分を責めないでよ。上からの指示だから、断ったら先生、無職のおじさんになっちゃう。」

先生はそう言って笑ったが、少しは自分を責めてしまう。治らない物を治せるようにするのは難しい。

「そうだ。幼なじみの子に連絡した?」

先生は話題を変えようとしてくれたのだろうが、純の事も心が重い。

「してない。なんてしたらいいかわかんない。」

「その子、心配してるんじゃない?」

「わかってるけど、病気の事は言いたくないの。純は優しいから、きっと治す為に必死になってくれる。そしたら今度は純がダメになっちゃう。それだけは避けたいの。」

時間は有限では無い。そんな中、私と関わる事で悲しい事が増えて欲しくない。純には出来るだけ笑顔でいてほしい。

「田辺さんは本当にその子の事が好きなんだね。」

「好きだなんてそんな...」

先生に言われて、はっきり否定出来ない自分がいた。何か辛い事があると真っ先に思い出すのは純だ。あの笑顔、声、温かさを全部鮮明に覚えている。これで好きではないと言えない。だから決めた。

「先生、私、純の事好きみたい。」

「うん。見てたらわかる。」

「だからね、お願いがあるの。」

「なに?」

「その前に、私ってこれからどういう生活になるの?それ聞いてからじゃないとお願い出来ないかもしれない。」

「田辺さんが治療しないって言うなら退院して、半年を過ごす事になるけど、ぶっちゃけ病院側はそうなってほしくない。あまりいない病例の人がここにいるんだから、新しい薬作りに協力してほしい。でもあと決めるのは田辺さんだから。この事に関しては田辺さんが決めた事に先生は何も言わないよ。」

「私が治療する事で、同じ病気で苦しむ人を救える?」

「救えるよ。むしろ田辺さんにしか出来ない事だ。」

「わかった。私、治療頑張る。この間は酷い事言ってごめんなさい。」

この間私は自分が生きている内に治療法は見つからないから治療はしないと言った。でもそれは自分の事しか考えていなかったのだと今更気づいた。なにも治療は私だけを治す為じゃない。同じ病気で苦しむ人を一日でも早く治す為にするのだ。自分が生きれなくたって、別にいい。

「ありがとう。田辺さんは、強いね。」

「ありがとう。それで、お願いなんだけど...」

「うん。出来る限り聞くよ。」

「外出許可ってこの夏休み中いけそう?」

「上に聞いてみないとわからないけど、多分大丈夫だと思う。外出許可出たら、何したいの?」

「一日だけでいいから出かけたいの。」

「...わかった。頑張ってみるよ。」

それだけで私が何を考えているのかわかったみたいだ。先生の事だからなんとかしてくれるだろう。

「ありがとう。私も頑張るから。」

こうして私は残りの時間を人の為に使う事に決めたのだった。