気づいたら私はスマホの充電器を自分の首に巻いていた。こんな人生、馬鹿みたい。生まれ変わったら、普通の家庭がいいなぁ。

「田辺さん!?何やってんの!?」

少しずつ充電器に力を入れていると、運悪く先生が病室に入って来た。どうやら私は神にまで見放されてるらしい。

「もう死のうと思って。」

「それではいそうですかって言う訳ないでしょ。」

「だけど先生にも止める権利ないよね。私の人生なんだし。」

「ダメだ。見た以上止めないと。」

先生はそう言うと強い力で私を抑え、首に巻いた充電器を取った。多分充電器は没収されるだろう。そうしたら私はどうやって死ねば良いのだろう。

「はぁ...危なかった。こんな事してどうしたの?」

「先生にはわかんないよ。親に捨てられた人の気持ちなんて。」

「わかんないよ。だから教えて。」

「言った所で現状が変わる訳じゃないし。あと離して。」

「離したら田辺さん、消えちゃいそう。だからダメ。」

なんでなの?どうして自分の人生なのに死ぬ事を止められないといけないの?どうせ病気で死ぬんだから、自分で死んでも変わらないのに。

「先生の馬鹿。」

「うん。そうかもね。」

「嫌い。」

「少し傷ついた。」

私の罵詈雑言に物怖じしない。それに腹が立った。

「もういいじゃん。私が死んでも、誰も悲しまないよ。」

「先生は悲しむよ。あと田辺さんのおばあさんも。それに田辺さんの幼なじみ。」

純。私が死んだら、確かに純は悲しむ。けれどそれは一瞬だ。色んな人と出会って、好きな人が出来て結婚するかもしれない。子供まで出来たら私がいた事なんて忘れるだろう。失くなった物は、時と共に忘れられる。そんな人の事を考えて自分から死ぬのをやめる訳ないじゃない。

「確かにそうだね。でも自分で死ぬのをやめる理由にもならない。」

「そっか。なら充電器返すからもう一度同じ事やってごらん。先生もう手出ししないから。」

先生は私に充電器を渡し、離れた。先生は壁に寄りかかって私を見てる。人が見てる中でやれって言うの?でもいいか。どうせ死んだら色んな人に見られる訳だし。

さっきみたいに充電器を首に巻こうとしたら、手が震えている事に気づいた。どうして?怖いの?この残酷な人生から解放されるんだよ?そう思っているのに手は思うように動いてくれない。なんでよ。

「うっ...ひっく...」

気づいたら私は泣いていた。もうどうしたらいいかわからない。そんな私を先生は優しく抱きしめてくれた。

「出来なかったでしょ。田辺さん、本当は死にたくないんだよ。一気に色んな事がありすぎて逃げたくなったんだよね。」

「私なんて...生きてても意味ない...」

「あるよ。生きてる意味のない人間なんていないんだよ。」

「先生は...私に生きててほしい...?」

「勿論。先生は、病気を治す為にいるんだから。あと心の傷を治す為にもね。」

「そっか...」

それから私は涙が止まるまで泣いた。先生は何も言わずずっと抱きしめてくれてた。その温かさがどこか純に似ていて、今すぐに会いたくなった。