「ん...」

次に目を覚ましたのは病院だった。起き上がろうとしたが身体に色んな機械がついていて無理だった。こんなに機械をつける程私は危なかったって事...?

「桜...目が覚めたの?今、先生呼んでくるから。」

不安になっていると祖母が病室に入って来た。持っていた花瓶を棚の上に置くと、先生を呼びに行った。すると先生はまるで私が起きるのをすぐそこで待っていたのではないかと思ってしまう程の早さで病室にやって来た。

「田辺さん!良かった...」

先生は私のそばに来ると手を握りしめて泣いた。医者が一人の患者にこんなに感情を入れて大丈夫かと思ったが、逆を返せば私はそんなに危なかったと言う事だ。

「先生、私、どうなってたの?」

意識を失ってからどれぐらいの時が経ったのかもわからない。だけど二人の様子からして結構眠っていたのだろう。

「田辺さん、意識を失ってから一週間も目を覚まさなかったんだ。しかもその間、何回も心臓が止まりかけた。正直、このまま目を覚まさないかと思ったぐらいだった。」

だから目を覚ましてくれて本当に安心したよ。そう言って私の頭を撫でた。いつもなら撫でられてる嬉しいと思うのに、今はそれ所ではない。私はこの一週間、死と隣り合わせだったという事だ。

今まで遠くにいた死が、すぐそこまで近づいてる。死を願って生きてきたはずなのに。病気と宣告され、死を覚悟して喜んでまでいたのに。今は死が怖くて仕方ない。もう二度と純に会えない。その想いが私が死を恐れている原因だ。

「先生、私、あとどれぐらい生きれそう?」

そう聞いた私の声は震えていた。本当はこんな事聞きたくない。具体的な事を聞いてしまえば、もっと死が近くなる。けれどいつ来るかわからなくて怯えるよりはマシだろう。

先生は少し迷う素振りをし、祖母の方を見た。祖母は頷いた。その顔は覚悟している人の顔だった。

「今回意識を失った事で、身体にものすごくダメージを与えてしまった。だからもってあと、半年だ。でも我々も全力を尽くすから。」

「そうよ、桜。だから心配しなくても大丈夫よ。」

先生と祖母は治る可能性がゼロに近いのに治そうと必死に治療法を探してくれてる。それがとても申し訳なかった。祖母は私が家族から酷い扱いを受けているのを知っているから病気の事は言わず、入院費も治療費も出してくれてる。私の病気は難病指定されているからお金はすごくかかる。なのに何も言わず、ずっと笑顔で治る事を祈っている。

先生は有名な先生で、県外からも患者が来る程だ。そんな人が治りもしない私に時間を使うなんて勿体無い。この機械たちだって、治る見込みのある患者に使った方がいいのに。

「...もういいよ」

「「え?」」

「先生、おばあちゃん。もういいよ。どんなに頑張っても私が生きてる内に治療法は見つからないよ。もうやめよう。」

私がキッパリ言うと、さっきまで笑顔でいた二人は辛そうな表情になった。なんで二人がそんな顔するの?辛いのは私なのに。

「桜、そんな事言わないで。絶対見つかるから。諦めたらダメよ。」

「そうだよ、田辺さん。今は医療も進化してるから絶対見つかる。一緒に頑張ろうよ。」

二人が私を治したいって思ってくれてるのは痛い程わかってるよ。だけど疲れたの。どうせ死ぬから。残りの人生、好きにしても良いじゃない。

そう思ったものの言える訳もなく。

「ごめん。一人にさせて。」

それだけ言い、二人とは逆の方を向いた。二人はこれ以上言っても無理だと悟ったのか病室を出て行った。二人が出て行ったのを確認してから泣いた。二人の想いは優しくて温かくて、それが逆に辛くなってしまう。治る見込みがないのにお金を払い続ける祖母、色んな患者がいるのに私を優先してくれる先生。本当に申し訳なかった。

涙は止まる事を知らず、気づいたら泣いたまま寝ていた。次に目を覚ますと身体から機械は外れ、点滴だけになっていた。