先を歩き始めた純の手を握ると、最初は驚いたもののすぐに握り返してくれた。私より大きな手で握ってもらえると安心出来た。

水族館を出てすぐのレストランに入った。土曜のお昼なのに人はあまりおらず、すぐに案内してもらえた。

「俺なにしようかなー」

「私もう決まった。」

「はやっ!ちょっと待ってー」

「はいはい」

私は外食したら食べる物は変えない。一人で行く時は変える時もあるが、誰かと行くと待たせるのが嫌だから変えない。

「よし、俺も決まった。ごめんな、待たせて。」

「ううん、大丈夫。店員さん呼ぶね。」

店員さんを呼ぶとすぐ来た。とても感じの良い方で、心がほっこりした。料理は十分もしないうちに二つとも運ばれてきた。

「美味しそー」

私はオムライスを頼んだ。卵がトロトロでこれで美味しくない訳がない。純は煮込みハンバーグを頼んでいて、これまた美味しそうだった。

「いただきます。」

一口食べると卵のトロッとした柔らかさとケチャップライスが絶妙だった。今まで食べた中で一番美味しい。

「美味しい...」

「ハンバーグも美味しいよ。食べる?」

「少し貰おうかな。」

「少し食べちゃったから手つけてない所あげるな。」

「別に気にしないのに。」

だが純は新しいフォークを使って手をつけていない所をくれた。その気遣いにドキッとした。

ハンバーグの味ももちろん美味しかった。今まで自分が作ってきたのがアホくさくなるほど。


「はー美味しかった。」

お会計をして外に出た。二人で合計千円で足りた。安くて美味しい店とはまさにこの事だ。

「本当に美味しかったな。また来よう。」

「うん。絶対来る。」

久々に物をちゃんと食べれた。本当に美味しい物だと人って食べられる事を学んだ。

「この後どうする?」

「帰ろっか。勝手で申し訳ないんだけど疲れちゃって...」

「全然勝手じゃないよ。むしろ言ってくれた方が助かる。」

「ありがと。」

帰り道は特に話す事もなく帰った。気まずくなく、心地良かった。また純と出かけたい。

だがそんな私の小さな願い事すら神様は叶えてくれない。夏休みは毎年祖母の家で過ごすのだが、そこに向かう途中、急に意識を失ってしまったのだ。なんの前触れもなかった。家を出る時も珍しく吐き気や目眩がなかった。なのになんで...。