イルカショーが始まり、トレーナーさんがイルカを自由に動かす姿はカッコよかった。人に見せられるようになるまで、沢山の練習をしたのだろうと誰目線かツッコミたくなる事を考えていた。

そして終盤。トレーナーさんの指示でイルカが高く飛んだ。水飛沫とイルカが太陽に透かされてキラキラしていた。その姿に目を奪われていると、水飛沫がもろに当たり、予想通り服はびしょ濡れになった。隣にいる純もびしょ濡れだろうと内心笑いながら見ると、あまり濡れていなかった。

「なんで濡れてないのよ...」

「ここ、あんまり濡れない位置だったな...って、桜めっちゃ濡れてる!」

「今日暑いから良いけど、こんなに濡れるとは思わなかった。」

「まじごめん。これタオル。使って。」

「ありがと。」

水族館に来る時はタオルを持参しよう。勉強になった。

「タオル、洗って返すね。」

「いいよ。それあげる。うちに似たようなタオルいっぱいあるし。」

「そう?ならお言葉に甘えて。ありがとう。」

「うん。次、どこか行きたい所ある?」

「ごめん、ちょっとトイレ行ってきてもいい?その後考えるから。」

「どうぞどうぞ。俺、ここで待ってるな。」

「ありがと。」

近くにあったトイレに駆け込み、個室に入るとすぐ吐いた。イルカショーが始まった時から気持ち悪かったが、純に心配かけたくない一心で我慢した。その反動か吐いても吐いても吐き気は治まらない。

辛い。苦しい。なんで私ばっかり。

人は辛い事があるとネガティブ思考になる。今の私がまさにそう。この状態でポジティブ思考になれる訳ない。

「はぁ...」

やっと吐き気が治まった頃には疲れきっていた。だが休んでいられない。純は中々出てこない私を心配しているだろう。早く行って安心させないと。

軽く口をゆすいで鏡で笑顔を作る。大丈夫。私なら誤魔化せる。

「お待たせ。ごめんね、ちょっとお腹痛くなっちゃって。」

壁に寄りかかっていた純に声をかけると、少し眉を下げた。

「大丈夫か?」

「うん、もう大丈夫。水に濡れたから冷えたのかも。」

「ごめんな、俺が濡れた方がいいなんて馬鹿な事言ったから...」

「初めての体験出来て嬉しかったよ。だから気にしないで。」

だって本当の理由は気持ち悪かったからだし。純が気に病む必要はない。

「そうか?ならいいけど...」

「次はどこ行く?もう水族館は全部観たよね。」

「そうだな。ご飯でも食べに行く?桜が大丈夫ならだけど。」

「大丈夫だよ。行こっか。」

「うん。」