桜が咲くと、君を思い出す

「おー、めっちゃ良く撮れてる。」

撮影が終わり、純のスマホで写真を撮ってもらったから見ると、確かによく写っている。私って、こういう風に笑うんだ。

「こちらの写真、カメラでも撮ってるので写真を買う事やペンダントにする事もできますよ〜」

スタッフさんが笑顔で言うから断りずらい。これも作戦だろうか。

「じゃあ俺、ペンダント買います。」

どうしようか迷っていると純がキッパリと言った。ペンダントは千円もする。

「千円するけどいいの?スマホに撮ってもらったじゃん。」

「そうだけど、スマホはデータが消えたらなくなるから。思い出は形にも残しておきたいんだ。」

私との思い出なんて残さない方がいい。辛い思いをするだけ。けれど純に病気の事を言っていない以上、何も言えなかった。

「ありがとうございました〜」

ペンダントは貝がらの形をしていて、中に写真がはめ込んである。純は凄く嬉しそうだ。

その後はゆっくり館内を見てまわった。カラフルな魚からエイまで、なんでもいる。とても綺麗で生まれ変わったら魚になるのもいいかもしれないと本気で思った。

「あ、待って、純。」

「んー?どした。」

私が足を止めたのはクラゲが展示されてる水槽だ。元々暗い水族館だがここはもっと暗い。だからクラゲが幻想的に見えた。

「クラゲか。綺麗だよな。」

「うん。ね、知ってた?クラゲって死ぬ時は跡形もなく消えるんだって。」

「そうなの?知らなかった。」

「...私もそういう風に死にたいなぁ。」

つい本音が出てしまった。跡形もなく消えれば、誰も悲しまなくて済むのに。

「桜 ...?」

純の心配そうな声で我に返った。あんな事言ったら、純が心配しないはずがない。

「なーんてね、冗談だよ。」

だから私は嘘をついた。今ここで純に問い詰められたら病気の事を話してしまう。お願いだから純、これで騙されて。

「そっか。はー、まじで心配したー」

ドキドキしながら反応を待っていると、胸を撫で下ろす純がいた。良かった、騙されたみたいだ。

「ごめんね。」

「心配させんなよー。でもまあ桜が消えそうになっても俺が助けるけどな。」

その言葉に涙が出そうになった。純はなにも知らない。だから私がこう言ったのは家の事があるからだと思ったのかもしれない。その優しさだけで充分だ。

クラゲがいる所から離れ、イルカショーの会場に向かった。水飛沫に当たった事ないと純に話すとイルカショーに行ってそれは勿体無いと前から三列目に座らせられた。今日は暑いから水に当たったら気持ち良いだろうが、服が濡れるのが嫌だ。