だけど先生は大きく溜息をついてから私の目をしっかり見て話し始めた。

「あのね、田辺さんの病気はいつなにが起こるかわからないの。そんな時、誰か支えてくれる人がいた方が絶対いい。だから話してほしい。」

「いやだ。これ以上純に心配かけたくないの。」

先生の言い分もわからない訳ではない。私の病は症例が少ないから進行具合もわからない。いくら毎月病院に来ていてその時は病の進行がしていなくても、いつなにが起こってもおかしくない。今は誤魔化せるが、これからはわからない。

だけど私も譲れない。ただでさえ家族の事で心配かけているのに、病気というもっと大きな問題で純を困らせたくない。純がダメになってしまう。純には、未来があるからそれだけは嫌だった。

「先生もいつも田辺さんのそばにいられる訳じゃない。だからそばにいる人にも知っといてほしいんだ。」

「先生の気持ちもわかるよ。でも私も譲れない。」

「なら先生から言うしかないね。」

先生はそう言うと私の手からスマホを取った。丁度メッセージアプリを開いた所で純とのトーク画面を見られてしまった。

「土曜日水族館に行くなら尚更知っててもらわないと。」

「やだ!先生やめて。」

勢いよく起き上がり、先生の手からスマホを奪った。けれど急に動いたからかバランスを崩してしまった。

「おっと。危ない。」

すぐに先生が支えてくれたからベットから落ちずに済んだ。

「ありがとう。」

ベットから落ちるんじゃないかと怖かった。心臓がバクバクいっている。

「いきなり動いちゃダメだよ。でも先生も大人気なかったね。ごめん。」

「先生は私の事考えて言おうとしてくれたんだよね。その気持ちは嬉しいよ。ありがとう。でも本当に大丈夫だよ。何かあったらすぐ先生に言うし。」

支えてくれてる手を握ると、先生はやれやれと言いたげな表情で頷いた。

「わかった。まあ今日の結果も悪くなかったからね。」

「そうなの?」

「今日の結果、過去一良い結果だったよ。進行もしてない。」

「そうだったんだ。」

いつも検査の時は進行しているから病院に来るのが嫌だった。でも今日は心のどこかで平気かもと思う自分がいた。これは紛れもなく純のおかげだろう。

「この調子で進行しなければいいんだけどね...」

先生が悲しそうに呟いたのを、私は聞いていなかった。