だがもし純がこのことを知ったらどうだろう。純の事だからいじめをしている本人に言いに行くだろう。もしかしたら先生にも言うかもしれない。そんな大事にしたくないから純にはバレてはいけない。私に構う時間が勿体無い。

雑巾を絞り、あった位置に戻すと私はトイレに籠った。そしてポケットからハサミを取り出して手首に当て、思いっきり引いた。手首には赤い線が出来た後、血が出てきた。ハサミだからそれ程血は出ない。それでも充分私の心は満たされた。あまり血が出すぎても困るから。

「ふぅ...」

数本傷を作ると気持ちが落ち着いた。この行為は中学二年の時もやっていた。すぐ母親にバレて辞めさせられたけれど。それまでやっていなかった。だが今日は久々にやってしまった。誰かに当たりつけるより、自分を傷つけてどうにかなるんだから何も言ってほしくない。

もう一回やるか悩んでいると、チャイムが鳴った。まるでこれ以上やるなと言われているみたい。仕方ないからハサミをポケットに戻してトイレを出た。傷口は制服を着ているから見えないし血も垂れてくる程でもない。そのままで大丈夫だろう。

「あ、おはよー桜。」

教室に入ろうとしたら純に挨拶されたが無視した。メッセージも無視しているのだから現実でも無視しないのはおかしいだろう。それにこの現状で関わってはいけない。やはりメッセージと違って本人を無視すると表情が見えるから辛い。だけど純に何かあったら方が辛いからこの辛さには慣れよう。大丈夫、我慢出来る。

「おい桜ー、さっきどうして無視したんだよ。」

一時間目が終わってすぐ。純が少し不機嫌に訪ねてきた。私はそれも無視し、席を立った。トイレに籠ってさっきの続きをしよう。

トイレに入る前に純が追って来ていない事を確認し、安心したと同時に少し悲しくも思った。私はなんて面倒臭い人なのだろう。

一番奥の個室に入り、ハサミを出して切った。先程よりも、少し力を入れたから深く切れてしまった。その分、何本もやらなくて済んだ。

トイレットペーパーを手首に巻きつけ、教室に戻った。この季節だとブレザーを着ているからバレにくい。



それから私は休み時間に入る度自分を傷つけた。手首だけでは足りなくなり、太ももや足首を傷つけるようになった。その頃からいじめも酷くなり、物を隠されるなんて毎日だ。純も私とは関わらなくなり、完全に一人になった。

「なんで生きてるんだろう...」

ある日の放課後。真っ赤に染まった足首を見ながら呟いた。こんなに切って血を出しても生きてる。だけど死ぬのは怖くて。中途半端すぎる。