迎えたテスト当日。今までのテストとは違い、今回はそれなりに集中して勉強した。
前日の夜だけを除いて。それもこれもきっと朱莉たちの影響だろう。
彼女たちが勝負しようなどと提案していなかったら、今回もきっとほとんど勉強なんてしていなかった。
だからと言って、徹夜してまで勉強などは一度も無かったが。テスト当日ということもあり、教室にはいつもより人が多かった。
いつも遅刻ギリギリの人なども机に向かって勉強している。
二年生になって最初のテストということもあり、去年よりも力を入れてる人は多い。
数分後いつも通りの時間に朱莉はやって来た。彼女も席に座ると教科書を開き、復習をしている。

クラス全員が揃い出欠を取った後、担任は教室を出た。五分ほどして、前のドアが開き試験監督の先生が入ってくる。
クラス全員が席に着き、各々テストに向けての準備をする。問題用紙が配られ、チャイムと同時にテストが始まる。
一限目は世界史。マークシートは比較的スラスラ解けたが、記述問題に少し苦戦してしまう。全ての問題を解き終わった頃には、もう残り時間は僅かだった。
軽く見直しをして世界史のテストを終えた。二限目の情報、三限目の古典も少し危うかったが、無事終わり、テスト一日目は幕を下ろす。
まだ一日目と言うのにどっと疲れてしまう。こんなんで後三日も耐えられるだろうか。
少し心配だったが、そんなことは全然なかった。二日目、三日目は流れるように過ぎ去っていき、気付けばテスト最終日を迎えていた。
「はいじゃあ最後のテストだから全員頑張れよ!」
試験監督は保健体育の先生だ。いつも元気で生徒からの人気も高い。先生の言葉で少しだけやる気が出る。
テスト最後の科目は僕が苦手な数学B。最後に数学を持ってくるのはタチが悪いと思う。
でもここまで来たらやるしかない。チャイムが鳴ると同時に問題を開く。今までなら全く分からなかった問題がずらりと羅列されている。
だけど今ならこの問題も解ける。僕はスラスラと問題を解いていく。やはりテストだ。最後の方の問題は応用問題ばかり。
スラスラと書いていた手が止まる。完全に分からない問題だった。ワークに同じような問題があったのは知っていた。
難しそうだから解かなかったのが、今になって効いてくる。解説だけでも見とけばよかった。
後悔してももう遅い。僕はその問題を飛ばし、他の問題から手をつける。他の問題と言っても、最後の方は応用問題しかない。
だから一問解くのにも時間がかかる。ある程度他の問題は解けて、またあの問題に戻ってくる。
でも結局解ける気がしないまま、終わりを告げるチャイムがなる。しかし、解けない悔しさより、終わったという開放感に僕は包まれた。
「はいみんなテストお疲れー!」
先生は一言そう言って教室を出ていった。教室内はテストが終わったことにより、とても騒がしかった。
「お疲れ光希。どうだった」
湊音が僕の席にやって来る。
「まぁまぁかなー。そっちは?」
「俺は結構行けたかなー」
湊音の頭の良さはイマイチ分からなかったので、今回のテストでやっと分かる。担任が入ってきて各種提出物を集める。
全て集め終わったあとはすぐに解散だ。いつも通り僕らは四人で集まった。
「テストお疲れー!!」
僕らはジュースを片手に乾杯した。まだ未成年なのでジュースなのはしょうがない。
「それじゃあまず早速、みんなの出来具合発表ー!」
みんな疲れがだいぶ見えるが、朱莉だけは疲れなんて感じさせない面持ちだった。これはもう流石としか言いようがなかった。
「私は結構自信あり」
「俺は多分満点だな」
「僕はそこそこ」
一人一人出来具合を言っていたが、僕以外はみんな自信がある様子だった。
自信があると言っても、実際はどうなるのかは分からない。
それに亮太は毎回同じことしか言わないから、みんなの自信もあてになるとは限らない。
でも今はテストのことなんて忘れたい。
「もうテストは終わったし、四人でどこか行かない?」
「わりぃ光希。俺と莉緒はちょっとパス。この後ちょっと用事がある」
僕の誘いは一瞬で断られてしまう。
まぁ二人がいい感じに見えたから別にいいけど。
亮太と莉緒は荷物を持って行ってしまう。
残された僕と朱莉は、結局やることなど無く帰ることになる。
テストが終わったことによる開放感で、帰るまでの足取りがとても軽い。
それはどうやら僕だけではなく、隣を歩く朱莉も同じようだ。
テスト期間の時と比べ、だいぶ楽しそうに歩いてる。
「なんかテンション高いね」
思わず聞いてしまった。
スキップなんかして明らかにいつもより明るかったから。
「そりゃあテストが終わったんだよ! もうハッピーハッピー!」
分かりきった返答だったが、テスト終わりとはここまで人を明るくさせるのか。
彼女にとってどれだけテスト期間がキツかったのかが分かる。
あとは答案返却を待つだけ。


テストが終わってから2日が経過して、今日から各教科答案返却が始まる。
亮太はクラスが違うから一回一回確認できないが、朱莉と莉緒は返されるごとに確認できる。
答案返却前の教室はやはりざわついている。
最初に返されるのは、僕が苦手だった数学Bだ。

「平均点は56点です」

先生から平均点を告げられる。
もっと行ってほしかった、と先生は言っているがクラスは盛り上がっている。
きっとみんな自信がなかったのだろう。
一人一人名前が呼ばれ、答案が返されていく。

「はい」
「ありがとうございます」

先生から答案をもらい席につく。
40点未満は赤点のため、それ以上ならなんだっていい。
一度深呼吸をしてから、半分に折りたたまれた答案を開く。
答案の左上に赤い字で、62と書かれている。
・・・・・・え? これは夢?
この状況をすぐに飲み込むことなんて出来ず、本当に自分の答案か何度も確認する。
何度みてもやっぱり僕の名前だ。
これは夢なんかじゃない。
紛れもない現実だ。
先生は問題の解説をしているが僕は完全に上の空だ。
たかが62点でこんなに喜ぶことではないが、赤点候補だった僕からしたら、この点数は万々歳だ。
余韻に浸っていると、気付けば授業は終わっていた。
解説なんて何一つ聞いていなかった。

「光希くんどうだった!」

終わるとすぐに朱莉は答案を持ってやってくる。
ニコニコしているから赤点ではないのだろう。
彼女の頭の良さがやっとわかる。

「思ったよりは良かったって感じかな。朱莉はどうだったの?」
「平均は余裕で超えたよ! でも80はギリ行かなかった!」

彼女の言葉を聞き、僕は静かに答案を机の中に入れる。
80をギリ超えてないということは、70以上ではあるということだろう。
確実に僕よりは頭がいいということがわかった。
僕より勉強が出来ないと思っていたから、彼女に負けたのは悔しい。

「詳しい点数は全部返ってきたら、みんなで発表ね!」
「わかったよ」

朱莉は明らかにテンションが高い。
あのテストで70以上も取れてれば、テンションも高くなるだろう。
他の教科で彼女に勝てればいいけど。
次の授業の先生が入ってきて、僕たちの会話は中断される。
それから三日間にかけて全ての答案返却が行われた。
僕は計12教科の合計点数を計算する。
その合計は853点。
今回はちゃんと勉強したこともあり、思ったよりいい点数だった。
後は、朱莉たちとの勝負がどうなるかだ。


「それじゃあみなさん! お待ちかねの点数発表会始めていきましょう!」
全ての答案が帰ってきた日の放課後。
僕たち4人は集まり、点数発表をすることになる。
順位なんてつけなくても確実に最下位は決まっている。
だって、亮太がずっと曇った表情をしているから。
いつもの彼ならこういう時、ノリノリになるだろう。
だけど、今の状態を見た感じ、確実に点数が酷かったのだろう。
とりあえず僕は一安心。

「それじゃあ誰から発表する!?」
彼女の問いに誰も立候補しない。
「それじゃあさ、みんな自分の合計点を紙に書いて、一斉に見せよう!」

誰も出ないから痺れを切らしたのか、朱莉は新たなアイデアを思いつく。
この方法なら誰が最初とかもなく、僕としても気が楽だ。
各々紙に自分の点数を書いていく。

「よし、みんな書いた!? それじゃあ行くよ! せーの!」

一斉に自分の紙を表にする。
莉緒が986、朱莉が907、そして亮太が741。

「莉緒の点数高!?」
「まじかよ、えぐすぎだろ」
「すごい・・・・・・」

莉緒の点数を見て、僕たち三人は驚愕する。
12教科で986点ってことは、平均80超えということになる。
さすがにそれはすごすぎる。
莉緒の点数にも驚かされたが、朱莉と50点差もついていることが悔しい。

「3人とも高すぎるだろ……」
僕たちの点数を見て、さらに肩を落とす亮太。
悪いけどこうなることは大体予想がついていた。

「てことで順位的に言うと、莉緒、私、光希くん、亮太くんだね!」
順位的には三位だったけど、罰ゲームは最下位だけなのでとりあえずは一安心だ。
「じゃあ罰ゲーム受けるのは光希くんと亮太くんの2人だね」
「何がいいかなー」

楽しそうに罰ゲームを考える二人。
どんな罰ゲームになるのだろうか。
ん? ていうか待てよ?
え、罰ゲームが僕と亮太の二人?
前に言ってた話と違くないか。

「罰ゲームは最下位だけじゃないの?」
「ん? なんのこと?」

二人とも完全に白を切っている。
完全にはめられてしまった。

「光希と一緒なら罰ゲームなんて余裕だわ!」
「僕は全然余裕なんかじゃないんだけど」

二人で罰ゲームとわかった瞬間、亮太はわかりやすく笑顔になる。
なんでこうなってしまったんだろう。
罰ゲームが二人とわかっていたら、もっと本気で取り組んでいたのに。
ていうか絶対に後から決めただろ。
さすがそれはずるすぎる。
今さらどんなことを言っても、きっと無駄だろう。
諦めて罰ゲームを受け入れるしかない。

「ちょっと罰ゲーム考えるから待ってて!」

朱莉と莉緒はそう言って、一度教室を出ていく。

「わざわざ教室を出る必要あったのかな」
「まぁまぁ、楽しみに待とうぜ!」
今から罰ゲームを言われるのに、なんで亮太はこんなにハイテンションなんだろう。
やっぱり亮太はバカだからしょうがない。
でも僕も今どきの高校生が考える罰ゲームに、少しだけ興味を持っていた。
少しして後ろのドアが開き、二人が戻ってくる。

「二人でめちゃくちゃいい罰ゲームを考えましたー!」
「おー、どんな罰ゲームだ」

ニヤリと笑う二人の顔が少しだけ怖い。
とんでもない罰ゲームだったらどうしよう。

「それじゃあは罰ゲームは──」

莉緒と朱莉が僕たちに下した罰ゲームは予想外のものだった。
しかし、約束は約束なので、僕と亮太はその罰ゲームを受け入れる。
こうして僕たちの点数勝負は幕を下ろした。