─チリリーン、チリリーン
部屋中に響くアラーム音。アラームを止め眠い目をこすりながらリビングに行く。
「おはよう光希。久しぶりだね」
リビングには姉の陽菜(ひな)がいた。彼女は現在大学生で、基本毎日想太さんの家に行っている。
想太さんとは二個上の陽菜の彼氏だ。
二年前から二人は付き合っていて、今も仲睦まじい。陽菜が家に帰って来るのは一月(ひとつき)に四回ほどだ。
僕も何度か想太さんに会ったことがあるが、とても優しい人だった。中三の頃には一緒にバスケをしたこともある。
だけど僕の足のことを知ってからは、気にしてかカードゲームなどを良くしてくれていた。僕は二人はこのまま結婚まで行くんだろうな、などと感じていた。ただの勘だけど。
それでも月に四回しか帰ってこないのは少なすぎるだろ。僕が高校に入る前は、両親が帰るまではずっと陽菜と二人きり。料理当番なども交互にやっていた。今では僕が一人で夕食を作っている。
お陰で料理などは得意になった。
それに基本一人なのでどこか寂しいところもある。かといって、家にいたらいたで喧嘩ばかりしそうだけど。
「久しぶり」
久々に見る陽菜は少し大人びていた。彼女と無駄話をする余裕なんて僕にはないので、パパっと支度をする。
学校に行く準備ができると「行ってきます」と告げて足早で家を出る。

昨日の雨のせいか地面には多くの水たまりがある。足を濡らさないように一歩一歩慎重に歩く。
いつも通り駅のホームに着き、亮太が来るのを待つ。高校に入ってからはいつも亮太と学校に行っている。
「おはよう光希」
後ろから肩を叩かれ、振り返ると眠たそうに目を擦る亮太が立っていた。
「昨日は二人きりでどうだったか?」
「特に何も無いよ」
雨宿りさせてもらったことを話すと、面倒になりそうなので黙っておいた。僕も亮太がどうだったか聞いたが、彼も特に何も無かったそうだ。
本当かは分からないが、無駄に追求する必要もないのでそこで会話を終わらす。その後は他愛のない会話をしながら学校に向かう。
「それじゃあまた放課後」
「うん、じゃあね」
亮太とは教室の前で別れる。教室に入るとそこそこ人がいる。窓際の後ろの席では常盤さんが本を読んでいた。
僕に気づいた常盤さんは本を閉じる。
「おはよう、光希くん」
「あ、おはよう」
今考えてみれば僕は常盤さんと二人きりで話したことなんてほとんどなかった。そのため僕の喋り方は少しぎこちなくなってしまう。
何を話せば良いのかわからない。僕たちの間には沈黙が流れる。意外にも先に沈黙を破ったのは彼女の方だった。
「光希くんって朱莉のことどう思ってるの?」
──どう思ってる?
それは一体どういう意味なんだろう?
「朱莉は僕の言う事全く聞かないし、いつもうるさいし・・・・・・でも、明るくて面白い人だと思うよ」
率直に思ってることを話した。僕の返答に、そういう事なんだけどそういうことじゃない、とわけのわからないことを言い出す。
「二人って付き合ってるの?」
あまりにも直球すぎる質問に僕は戸惑ってしまう。
──僕が朱莉と付き合ってる
傍から見れば僕と朱莉は付き合ってるように見えるのか。確かに急に距離感が近くなったり、一緒に帰ったりもしてたら付き合ってるようにも見える。
「僕と朱莉の関係は常盤さんが思ってるようなもんじゃないよ」
僕は嘘偽りなく話す。というか実際に付き合ってなんかいないし。
「ふーん」
その返事は明らかに信用していない返事だった。別に朱莉と付き合ってるという噂が流れたところで、僕は何も感じない。
だって僕たちは実際付き合ってなど居ないから。そんなのは所詮ただの噂だ。
「でも朱莉の事を可愛いと思うでしょ?」
「それは・・・・・・」
思わず言葉に詰まる。確かに少しぐらいは朱莉を可愛いと思ったことはある。クラスでも人気だし。
だけどそれを口にするのは勇気がいる。もしかしたらキモがられるかもしれない。だけどここで思わないというのも違うと思った。
なんて言おうか迷っていた時、
「おはよー!」
前のドアが開き話題の張本人である朱莉がやって来る。やはりクラスで人気者の彼女は、みんなから挨拶を返されていた。彼女は僕たちに気づくと、すぐにこちらへやって来る。

「おはよう二人共!」
彼女はいつも通りの笑顔を浮かべる。今だけは彼女の登場に助けられた。そして僕は安堵の息を漏らす。
「何の話してたの!?」
安心したのもつかの間。一番されたくない質問をされる。
「えっとねー」
ちょっと待って、と僕は常盤さんを止める。
もし彼女がそれ以上口を開いたら、嫌な予感がする。
「ちょっと光希くんうるさい。それで何の話!」
「えっとねぇ朱莉って可愛いよねって話してた!」
あぁ終わった・・・・・・
僕はまだ可愛いなんて一言も言ってないのに。朱莉の顔を見るのが怖かった。
きっと僕のことをキモイとでも思うだろう。
「えーだよね! 私って可愛いよね!」
え?
恐る恐る顔を上げると、納得したように頷く彼女。僕はポカンと口が空いていた。彼女の反応は僕が思っているものとは違かったが、何にせよ僕はホッとして胸を撫で下ろす。
彼女が自意識過剰で助かった。

「てか朱莉肘から血出てるよ!?」
「え、あっほんとだ!」
常盤さんの発言で僕も気付く。
「多分来る途中で転んだからだ!」
朱莉は絆創膏を取るために、席に戻った。
てかあんな血が出てたら普通は気付くもんじゃないのか?
まぁ朱莉なら気付かなくても何故か納得する。
「ていうか勝手に決めつけて話すのはやめてほしいな」
朱莉が声の届かないところに行ったのを確認して、僕は勝手に話を進めた常盤さんを責める。
「でもどうせ可愛いとは思ってたでしょ?」
「ま、まぁ確かに・・・・・・少しは」
僕は認めざるを得なかった。だけど素直に認めるのは恥ずかしかったので、出来るだけ曖昧に答える。
「じゃあいいじゃん!」
「でも・・・・・・」

──キーンコーンカーンコーン
運悪くチャイムがなってしまい、僕たちの会話はそこで終わる。
「もうすぐ夏休みが始まるし、その前に席替えをしましょう」
工藤先生の言葉に至る所から、歓喜の声や悲痛の叫びが聞こえてくる。僕はと言えば、席は別に悪くはなかったので少し惜しい気持ちだ。
先生は席の番号が書かれている紙を黒板に貼る。そして教卓から小さな箱を取り出す。
「じゃあ誰からでもいいからこのくじ引きに来てー」
先生が言い終わるとクラスの一軍と呼ばれる男子たちが、一斉に動き出す。僕と湊音もそれに続いて並ぶ。その後ろには一軍女子や朱莉たちも並ぶ。
僕は別にどこでもいいと思っていた。どうせまともに授業を聞いたりしないから。でも出来れば後ろの方がいいな、とは少し思った。
その方が出来ることの幅が広がると思ったから。
箱の中の紙を一枚を手に取る。開いてみるとそこには三十と言う数字が書いてあった。黒板と照らし合わせてみると、左から二列目の一番後ろだった。
どう考えても大当たり席で僕は小さくガッツポーズをする。
隣の湊音の紙を見たが、彼は残念なことに右から二列目の前から二番目だった。当たり席の僕が何を言っても煽りにしか聞こえないと思ったため、「どんまい」と一言だけ言っておいた。
「みんな引いたねー、それじゃあ移動してー」
一斉に動き出すクラスメイト。もっと効率のいい運び方が絶対にあるだろう。僕はいつもそう思っていた。
「あっ」
「光希くん! もしかして隣!?」
良いか悪いか分からないが朱莉と隣の席になってしまう。これからは毎日騒がしくなるなと思った。決して声には出さなかったが。
そういえば莉緒はどこだろう。さっきの会話で僕は、彼女から常盤さん呼びは辞めてと言われてしまった。そのため彼女のことを莉緒と呼び捨てにすることにした。
朱莉のお陰で女子を呼び捨てで呼ぶことには慣れた。
教室内を見渡すと莉緒は窓際の一番前にいた。
こちらを見る彼女の顔は何か言いたげだった。一番前は誰がなんと言おうとハズレ席。彼女が何を言いたいかは、ある程度分かっていた。
授業終わり莉緒はすぐに僕たちの方に来て、席について嘆いていた。案の定こうなることは分かっていたけど。
僕たち当たり組からしたら彼女に同情することしか出来ない。散々愚痴を言い放った後、暗い顔をしながら彼女は席へ戻って行った。
少しして先生が教室に入ってくる。次の授業は僕が苦手とする数学Bだ。昔から数学は苦手だったが、高校に入ってからは授業速度が早く、全く理解が出来なかった。
なので僕は毎時間、先生に当てられないことだけをただ必死に願っていた。今は等比数列というものをやっている。
教科書の問題を解くように指示され、教科書の問題に目をやる。次の数列の一般項と第6項を求めよ。第2項が 12、第5項が 96。
一問目でさえさっぱり分からない。てゆうかこんなの授業で習ったっけ?
授業中全く話を聞いてないのが裏目に出た。みんなスラスラと解いてるのを見て、さらに焦りを感じる。
こんなことならもう少し真面目に聞いておけばよかった。
「こんな問題簡単だよな。それじゃあ岩瀬答えは?」
目を合わせないようにしていたのに指名される。
やばい・・・・・・
何も分からない。先生が簡単なんて言ってるのに、間違える訳にはいかない。僕は頭をフル回転させる。
第2項が12・・・・・・第5項が96・・・・・・
考えても答えが出ない。どうしよう。
その時、隣にいる朱莉が僕に見えるようにノートを見せてくる。
「あ、192です」
「はい、正解です」
彼女な助けがあって何とか答えることが出来た。彼女はピースをしながらこちらを見ていた。
教えて貰ってこんなことを言うのは失礼かもしれないが、彼女が答えを分かっていたことに少し驚いた。
授業なんてさっぱり聞いていなさそうなのに。もしかしたら意外と勉強が出来るのかもしれない。
授業が終わると同時に朱莉にお礼を伝える。
「さっきはありがとう」
「全然いいよ、私は天才だからね」
ドヤ顔する彼女に、
「調子に乗んない方がいいよ」
と言って僕は再び席へ戻る。
その後の授業中、彼女は僕にちょっかいばかりかけてくる。犬なのか熊なのか分からない可愛らしい動物を描いて僕に渡してきたり、世界史の時間にはペリーと思わしき絵を描いてきたり。
だけどお世辞にも彼女の描いたペリーは上手いとは言えなかった。
渡された時は誰だか全く分からなかったが、上の方に黒船来航と書いてあったので、ペリーだということがわかった。
朱莉は毎時間何かしらの絵を渡してきた。僕も暇があれば彼女に絵を渡す。そんなことを最後の授業まで続けていた。
この時はテスト前だと言うことを忘れるくらいに、僕はその時間を楽しんでいた。

放課後になると荷物を持った亮太がやってくる。それに気づいた僕たちは荷物を持って教室を出る。昨日と同じ空き教室に入り、机をくっつける。テスト四日前。
テストは全部で十二教科ある。一日三教科の四日間。初日の教科は世界史、情報、古典の三つだ。
この中では世界史がやばいので、僕は世界史のワークを取り出す。今回の範囲はそこまで広くは無いので、何とかなりそうだと安心する。
昨日と比べ今日はみんな集中して勉強していた。一時間ぐらい経った頃。
「あー疲れた! みんなめっちゃ集中してたね!」
静かな教室に響く朱莉の声。最初に集中力が切れたのは彼女だった。
みんなも書く手を止めて一度休憩に入る。
「みんな今回のテスト自信はある?」
僕たちに問いかけてくる彼女。
「私はまあまあかな」
「俺は余裕だぜ!」
「僕もそこそこ」
莉緒はまあまあと言っていたが、きっと僕なんかよりは全然高い。最近は僕も分からない問題は彼女に聞いていたから。
それに授業で小テストなどを行った時も、彼女は常に満点だった。まあまあなんて絶対に嘘だろう。
それに対して亮太は毎回のように自信があると言うが、結局は毎回悲惨な結果ばかりだ。だからきっと今回もダメだろう。
「みんな結構自信ありそうだし、今回のテスト勝負しようよ!」
急にとんでもないことを言い出す朱莉。普通こうゆうことはもっと前に言うべきだろう。なんで寄りにもよってテスト四日前の今になって言うんだ。
それに彼女の頭の良さはいまいち分からないが、莉緒が一位になるのは目に見えている。僕の勝機なんて微塵もないだろう。
「いいぜ! やろう!」
おいおいおい。こいつは何を言ってるんだ。ほんとにバカだろ。相手が誰かわかっているのか。
僕は負け戦はしたくないので断ろうとした。
「じゃあ決定だね!」
しかし、僕が断る隙なんてなく、勝負することになってしまう。なんでこんなことに・・・・・・
「負けたら罰ゲーム付けようぜ!」
突如そんなことを言い出す亮太。僕はこいつを思い切り叩きそうになるのを必死に堪える。
本当になんで余計なことばかり言うのか。
「いいね! じゃあ一位が最下位に命令ね!」
罰ゲームの内容に安堵する。最下位だけなら俺 僕は絶対に罰ゲームにはならない自信がある。
だって僕が亮太にテストで負けたことなんて一度たりとない。きっとこの先も負けることなんてないだろう。
朱莉の頭の良さは未知数だが、勝負となったら勝ちたい。勝負と決まった瞬間、僕たちはまた机に向かい勉強を始めた。
そして誰一人声を発さないまま、時間は過ぎていった。十九時に迫った時、完全下校の放送が入り、僕たちの勉強会は終わった。
昨日と同じく、亮太は夜練があると言い、莉緒と行ってしまう。僕も朱莉を送った後に、電車に乗り家へと帰る。気づけば彼女を送ることは僕の日課となっていた。

そして時は流れ、いよいよテスト前日となった。明日からテストが始まるため、今日は午前授業だ。
テスト前日ということもあり、全ての時間が自習であった。これなら学校を休みにした方がいいのに。
たまに朱莉がちょっかいをかけてくることもあったが、僕は全部の時間を集中することが出来たと思う。
いつもの授業とは段違いで時間の流れが早い。授業が終わると次々に帰っていくクラスメイトたち。
今日も勉強する約束が入っているので、僕は教室に留まる。朱莉と莉緒はどこかに行っていて、今はいない。
「あれ? 今日も残るの」
帰ろうとしていた湊音に声をかけられる。
「今日も勉強していくんだ」
「また朱莉たちとか? 本当に仲がいいな」
湊音は僕たちが一緒に勉強している事を知っている。だけど彼は朱莉の話題になると少し様子が変わるように思えた。僕の思い込みかもしれないが。
「じゃあテスト頑張ろうな。また明日」
彼はそう告げて爽やかに去っていった。僕はみんなを待っている間に、一人勉強を始める。少しして亮太がやってくる。
「よっす! 光希一人?」
「二人ともどこか行ったよ」
「まぁいっか」
亮太は僕の隣に腰掛け教科書を開く。五分も経たずして彼女たちは戻ってきた。
「ごめんちょっとお花摘みに行ってた!」
そんなこと大声で言うのはどうかと思うが、教室には僕たちだけだし朱莉だからしょうがない。
「お花摘み? 何の花を摘んできたんだ?」
はい、バカ一人発見。
「わからないならそのままでいいよ」
二人はそれ以上何も言わずに席に戻る。そりゃあそうなるのもしょうがない。
気になってしょうがない亮太に僕は耳打ちで教える。
「トイレって意味・・・・・・」
そう言うと、彼は納得したように頷く。彼は昔から知らないことが多く、その度にこうして教えていた。
もう少しこういう知識をつけて欲しいのが本音だ。いつも通り僕たちは勉強に励んだ。流石にテスト前日のため、誰一人言葉を発さずに集中している。
さっき見た時は十三時だったのに今は十五時を示していた。
「明日はもうテストだし、今日はもう解散にしない?」
家でも学校でも僕はどちらでも良かった。莉緒の提案に二人は同調していた。
結局、今日はいつもより早くお開きになる。今日も亮太は莉緒と同じ方向に行く。夜練があるとか言っていたが、まだ三時だ。
さすがの僕もこの嘘には騙されない。となると、やっぱり亮太は自主的に莉緒のことを送っていたことになる。
僕が知らない間にも二人はどんどんいい方に進んでいる様だ。
「ほら、帰るよ光希くん」
いつも通り僕も朱莉と帰る。僕たちも一緒に帰る日々は多いが、それでもお互いに好きと思うことは無かった。好きになったら負けだと僕は心のどこかで感じていた。

外は暖かく、夏がすぐそこにいることを感じさせる。今年の夏は例年より暑くなると予想される、とニュースキャスターが言っていたのを思い出す。どうせ予定もなく、家でのんびりするだけだから関係ないけど。
「あー! 朱莉だー!」
背後から聞こえてくる高い声。振り返ると小学校低学年ぐらいの子供たちが五人もいた。
朱莉を見ると直ぐに群がってくる子供たち。一人の女の子は思い切り彼女に抱きついていた。僕だけが完全に蚊帳の外。
朱莉の家が近いからきっと近所の子供たちだろう。こういうのを見ると、彼女は本当に誰からも人気なのだと実感する。
「あれってもしかして彼氏?」
一番最初に声をかけてきた男の子が、少し楽しそうに声を弾ませながら訊いてくる。彼氏と間違われたことより、まだこの歳で彼氏という言葉を知っていることに驚いた。
時代の流れって早いんだな。
「ち、ちがうよ! この子はお友達!」
少し動揺している朱莉が面白かった。別にただの友達なのになんで動揺しているんだろう。
「友達かよー」
男の子は少し残念そうな表情をしたが、すぐに元の表情に戻り、
「それじゃあまたねー!」
と言って走り去って行った。
「小さい子って元気だね」
僕も昔はあんな風に走り回ってたな。走り去る子供たちを見て、ふと昔を思い出す。ボールを持ちながら走っていた過去が甦ってくる。
「私たちってやっぱりカップルに見えるのかな!」
横から楽しそうに笑いながら朱莉は言う。さっきの動揺はまるで嘘みたいに。
「ねぇ、聞いてるの!」
「あ、ごめんごめん。僕なんかが朱莉の彼氏に見えるわけないよ」
僕は自嘲的な笑みを浮かべて言う。今の僕を一言で表すなら二度と昇ることの無い太陽だ。
中学までの僕は自分でも思う程に輝いていた。まるで夏の太陽のように。
ほんの些細な事故で僕は光を失った。それからは何もかも自信が持てなくなる。
その場にいるだけで周りが明るくなるまさに太陽のような彼女と、光を失いもう二度と輝くことが出来ない僕。まさに正反対だ。
そんな彼女と僕なんかが釣り合うはずがない。
「・・・・・・いよ」
「ん?」
朱莉の声が小さくて聞き取れなかった。もう一度聞き返すが、何故か教えてくれなかった。
結局彼女が何と言ったのかは分からないまま、僕は彼女を家に送り、僕も家に帰った。
家に帰っても勉強をする気にはなれず、結局スマホに時間を奪われてしまう。
「やばっ、もう22時か」
スマホを見ると、上に22と表示されている。テスト前日なのについスマホに夢中になってしまった。
本当なら焦るはずなのに、僕は微塵も焦りを感じなかった。むしろいけるのではないかという謎の自信さえある。
テスト前日はいつもこうだ。どうせいい点数なんて取れないのに。僕は小一時間教科書を読むなどして、勉強に励んだ。
夜更かししてまで勉強することはあまり良くないと思ったため、日付が変わる前に眠りについた。