朱莉の病気のことを知ってから、僕の頭の中はそのことでいっぱいになっていた。
そして気が付くと二度目の定期試験も終わっていて、僕たちは将来の進路のことも視野に入れるようになってきた。
僕はまだ何一つ決めてなんかいないけど。
総合の時間に、将来のことについて考えることになる。
「これからの進路とか将来どうなりたいかなど、近くの人と話してみましょう」
先生はそう言って、適当にペアに分けていく。
席が隣同士ということもあり、僕のペアは朱莉に決まる。
「今言ったペアで将来の夢とか、これからの進路とかについてお互いに話してみましょう」
先生の合図で、みんな一斉に話し出す。
「朱莉は将来何になりたいの?」
僕は質問をしてたら後悔する。
だって彼女には、将来があるのか分からない。
進路関係の話は彼女にとっては聞きたくないだろう。
「私は学校の先生になりたいよ!」

僕が心配する必要もないくらい、彼女はいつも通りだった。
だけどこれからはこの手の話は控えよう。
彼女もだけど僕も話してて辛くなってくる。
でも彼女が学校の先生とは少し意外だ。
でも、彼女が先生になればそのクラスは楽しくなるだろう。
だって、彼女自身が楽しそうだから。
だけど彼女が授業をしている所を想像できない。
想像するとなんだか面白くて笑える。

「どうして学校の先生なの」
数ある職業の中で、学校の先生を選ぶと言うことはそれなりの理由があるはず。
やっぱり彼女は子供が好きだからか。
それともなにか他の理由があるのかだろうか。
「自分の手で、誰かの成長を手助けしたいの」
その理由は僕が思っていたものより、何倍もしっかりとしていた。
──誰かの成長を手助け
そんなことを平然と言ってのける何て彼女はすごい。
僕は彼女が先生になる未来を応援したい。
彼女ならきっといい先生になれるから。
だから神様どうか、彼女を先生にしてあげてください。

「光希くんは将来の夢とかあるの?」
「将来の夢か・・・・・・」
僕の将来の夢って何だろう。
中学校までの僕ならバスケ選手と言っていた。
だけど、今の僕にとってなりたい職業なんてない。
「特に決まってないかな」
「バスケはもうやらないの?」
「もうバスケはやらないよ。僕にこれ以上バスケをする力なんてないと思うし」
僕の発言に、彼女の表情は少し険しくなる。

「そんなのやってみないと分からないよ! 光希くんなら絶対に出来ると思うよ!」
「僕にはもう無理なんだよ」
これ以上そんなことを言わないでくれ。
僕はもうバスケの道に行くことを諦めたんだ。
何度も諦めずにやってきたけど、もう無理だって僕は分かったんだ。
「無理なんかじゃない! そうやって自分で限界を作るから無理だと思うんでしょ! 一度追いかけた夢を一回の挫折で諦めないで!」
「僕のことなんか何も知らないくせに、好き勝手言うなよ!」
徐々に口調も強くなり、お互いにヒートアップしすぎてしまう。
周りからの視線を感じ、僕たちの言い合いはそこで終わる。
そこから彼女とは一言も話していない。
今は彼女と話す気になんてなれなかった。
僕の辛さを何も知らない彼女に、好き勝手言われたことが許せなかった。
それがいくら好きな人だったとしても。
結局彼女と口を聞かないまま一日が終わってしまった。