太陽みたいな君に、初めての恋をした

次の日、湊音はいつも通りだった。
てっきり今日は、休むかと思っていた。
教室での二人はどこか気まずそうに見えた。
昨日までは楽しそうに話していたのに、失恋したらこんな関係になってしまうのか。
それなら告白なんてしない方がいいんじゃないかと僕は思った。

「光希、次移動だから行こうぜ」
「あ、あぁ、行こう」
いつも通りの彼に僕はどう接したらいいのか分からないでいた。
それでも僕がやらないといけないことは一つ。
「湊音、昨日はごめん」
彼の目を真っ直ぐに見つめ、僕は深く頭を下げる。
「謝る必要なんてないだろ。俺は俺のやりたいようにやったし、後悔なんてしてないぞ!」
僕は勘違いをしていた。
彼は全くいつも通りなんかじゃない。
前よりも確実に強くなっている。
辛いはずなのに彼は全くそんな素振りを見せない。

「光希も後悔しないようにがんばれよ。俺はいつでも協力するし、応援してるからな!」
満面の笑みで背中を押してくれる湊音を、僕はかっこいいなと素直に思った。
朱莉に好かれるために、僕は全力で頑張ろう。


「光希くんこっちこっち!」
放課後になり、僕は彼女に言われるがままついていく。
「そこって立ち入り禁止じゃ?」
「いいからいいから!」
彼女は立ち入り禁止と書かれた貼り紙を無視して、階段を昇っていく。
僕が連れてこられたのは屋上だ。
だけど、屋上には鍵がかかってるから入れない。
「ちょっと待ってね」
屋上のドアの近くには、南京錠の着いた箱がある。
朱莉はその箱のロックを解除しようとしていた。
しかし、屋上は関係者以外立ち入り禁止だから、彼女が番号を知っているはずがない。
「番号なんて知ってるの?」
「天文地学部の友達に教えてもらったの。それでよく来るんだけど、光希くんにも来て欲しくてね」
そう言って彼女は楽々ロックを解除する。
「よし、空いた」
箱の中には小さな鍵が一つ入っている。
彼女はそれを手に取り、屋上のドアを開ける。
僕は入学してから屋上に入ったことは無い。
屋上は危険だからという理由で、鍵が掛けられていたから。

「ほら行くよ」
彼女は僕を屋上へと誘う。
夕暮れの茜色の空が上空一面に広がる。
「綺麗・・・・・・」
思わず呟いてしまうほど、その景色は綺麗だった。
奥の方には永遠と続く水平線すらも見える。
こんなに綺麗な場所を今まで知らなかったのか。
「私も初めてここに連れてきてもらった時、すっごく感動したの。だから光希くんにも見せたいなって」
「この学校にこんなに綺麗な場所があるなんて知らなかったよ」
彼女に連れてこられなければ、僕はここを知らないまま卒業していただろう。
屋上から見る空がこんなにも美しいだなんて思いもしなかった。

「空を見てると心が落ち着くんだよね」
「僕もその気持ちわかるな」
こんなに広い空を見ていると、悩んでいることなどが小さく感じる。
僕はスマホを取りだし、一枚写真に収めた。
何となく取りたいと思ったから。

「光希くん見て! 亮太くんが部活してるよ!」
子供のように手招きをする彼女が、とても愛おしい。
僕はもう一度スマホを取りだし、バレないように彼女の写真を撮った。
何も無い屋上に響くシャッター音。
その音を聞いて彼女はすかさず反応してくる。
「また写真撮ったの?」
「うん、すっごい綺麗な写真を撮ったよ」
茜色の空の下に写る一人の少女。
まるで映画やアニメの中の風景のようだ。
彼女が写真に写るだけで、こんなにも美しくなるのか。

「どんな写真が撮れたか見せてよ!」
彼女は僕のスマホを覗こうとする。
僕はすぐにスマホを閉じ、ポケットにしまった。
「なんで見せてくれないの!」
分かりやすくほっぺを膨らませて拗ねる朱莉。
「これは僕だけの写真だから」
悪いけどこの写真は僕だけのものにしたい。
それに彼女に見せたら、勝手に撮ったことがバレてしまう。
納得いってなさそうだったが、彼女は何とか手を引いてくれた。

完全に陽も落ちてきて、暗くなってきたので、僕たちは屋上を後にした。
「そういえばその箱の鍵ってなんの数字なの」
「天文地学部の顧問の先生の誕生日らしいよ」
なるほど。それなら覚えれば簡単に屋上に来れるということか。
でも僕は天文地学部の顧問が誰かすら分からない。
ていうか天文地学部があることすらよく分かっていなかった。
もしかしたらもう屋上に来る機会は無いかもしれないな。
今日はいい経験が出来て良かった。

「屋上に連れてきてくれてありがとね」
「いえいえ、君にもあの景色を見てほしいと思ったからね」
暗くなってきた道を、僕と朱莉は歩く。
先月までの暑さも収まり、今では心地よい気温になっている。
もうすぐ秋も終わってしまい、冬が来てしまうんだな。
考えてみると冬も終わってしまえば、僕たちは三年生になってしまう。
だからこそ今のうちに出来ることはやっておきたい。
少しでも充実したと言える高校生活を送りたいと思う。
一度しかない高校生活だから、悔いのないものにしたい。
それならやっぱり朱莉に告白するべきなのかな。
告白しないまま終わったらきっと後悔するだろう。
もう少し考えて、ちゃんと答えを出そう。
僕は心の中でそう決めた。