数日後、湊音に話があると言われ、放課後残ることになる。
真剣な彼の顔を見て、きっと朱莉の事だろうと察する。
放課後になりクラスメイト達は部活に行き、教室には僕と湊音の二人きりになる。
「光希、俺さ朱莉が好きなんだ」
「うん、知ってるよ」
やっぱり話の内容は当たっていた。

「やっぱりバレてたか。お前も好きなんだろ?」
僕はなんと言おうか悩んでいた。
大切な友の背中を押してあげたいとも思う。
でも、自分の気持ちに嘘はつきたくなかった。
「うん、僕も朱莉が好きだよ」
誰かにこの気持ちを打ち明けるのは初めてだ。
「だよな、俺は絶対に譲らないからな!」
「もちろん僕もだよ」
この日から僕と湊音の戦いの火蓋は切られた。
湊音に比べれば僕なんて全くモテない。
それでも、大切なのは相手をどれだけ想うかの気持ちだ。

次の日もいつもと変わらない日常だった。
湊音が特に攻めるなども無く、いつも通りの一日が過ぎていく。
彼に朱莉を取られたくないという気持ちはあるが、僕はどうすればいいんだろう。
恋愛経験なんて全くない僕からしたら、異性を恋に落とす方法なんて分からない。
考えても分からないから、とりあえず一緒に帰ろうと誘うことにした。
「朱莉、今日一緒に帰ろう」
彼女に好意を抱いてからは、何もかもに緊張する。
今まではこんな緊張なかったのに。
「ごめん! 今日は予定あるんだ」
「そっか、わかったよ」
僕の誘いは呆気なく断られてしまう。
アタックするのって難しいんだな。

放課後になると、僕は荷物をまとめ帰ろうとした。
しかし、いつもより少し様子が変な湊音が気になってしまった。
今日は珍しく彼がずっとうずうずしている。
「今日の湊音いつもとなんか違うね」
「そうか? まぁ部活がオフだからちょっとテンション高いんだよ」
「なるほどね」
部活がオフだからあんな感じだったのか。
それなら確かに納得いく。
僕は彼に別れを告げ、下駄箱に向かう。
自分の靴を手に取り、のんびりと歩いて帰る。
明日こそは朱莉を誘ってみよう。
僕が見てないところで、湊音はアタックしているのかもしれない。
僕も負けていられない。

駅の方まで来た時、僕は忘れ物に気がついた。
世界史のレポートが明日までなのに、持ち帰るのを忘れてしまう。
めんどくさいが取りに戻るしかない。
僕は来た道を引き返す。

学校に戻ってくると、教室の電気がまだ着いていた。
誰かいるのかな?
教室の前に来ると、そこには朱莉と湊音がいた。
僕は急いで隠れる。教室に二人きり。これってもしかして、
「俺、朱莉のことが好きなんだ。だから、付き合って欲しい」
やっぱり・・・・・・
僕は一番最悪な場面に出くわしてしまう。
寄りにもよってライバルの告白シーンに遭遇するとは。
盗み聞きが良くないなんてわかっている。
それでも今はここから動けなかった。

二人の間に数秒の沈黙が続く。
自分の事じゃないのに、すごいドキドキする。
「湊音くんの気持ちはすごい嬉しいよ。でもごめんね、君とは付き合えない」
はっきりと聞こえた言葉。
僕としては嬉しいことのはずなのに、素直に喜ぶことが出来ない。
だって、湊音は大切な友達だから。
僕は湊音の顔を目視することが出来ない。
「そっか・・・・・・ごめんね」
その後の会話はよく聞こえなかった。
少しして、教室のドアが開き、どちらか出てくる。
やばい、ここに居たら見つかってしまう。
そう思って離れようと思ったが遅かった。

「こう、き・・・・・・?」
「あ、湊音・・・・・・ごめん」
最悪だ。人の告白を盗み聞きするなんて最低な人間だ。
「やっぱり俺じゃダメだったみたいだな・・・・・・」
彼の声を聞いただけで、こっちが泣きそうになる。
「お前は頑張れよ、じゃあな」
「まって、」
僕が呼び止める前に、彼は帰ってしまった。
明日ちゃんと謝ろう。
教室にはまだ朱莉が居るので、レポートを取ろうにも取れない。
流石に中に入るのは気まづすぎる。

10分ほどそこで待機して、朱莉が教室を出て行ってからレポートを取った。
あとは朱莉と遭遇しないように帰るだけ。
下駄箱で外靴に履き替え、外へ出る。

「あれ? 光希くんまだいたの?」
「あ、えっと、忘れ物して取りに来たんだよ」
なんで寄りにもよって、こういう時に遭遇してしまうのだろう。
きっと彼女は僕があの場にいたことを知らないはずだから、僕はできる限り平常心を保とう。
「そうだったんだ、じゃあ一緒に帰ろ!」
「うん、帰ろう」
僕たちは横並びになり、家まで帰る。
彼女はいたっていつもどおりだった。
まるで何もなかったかのように。

僕は今まで告白なんてした事がなかったから、あんなに一瞬で終わってしまうとは思わなかった。
僕は湊音のあんな表情を初めて見た。
僕の前では頑張って笑顔を作っていたが、僕でもそれが作り笑いだと分かってしまう程だ。
失恋という言葉をよく聞くが、ここまで辛いものだとは思わなかった。
もし僕も湊音のようになるなら、恋なんてしたいと思わない。

自分から辛い方を選ぶなんてしたくない。
そんなことを思っても、好きになってしまったら関係ないのだろう。
僕は完全に朱莉に恋をしている。
彼女の隣を歩くだけで、僕の鼓動はいつもより早い。
好きと自覚してからは毎回こうだ。
誰かを好きになるってこんな感覚なんだな。

「光希くん今週の土曜日ひま? 良かったらうちに来ない!?」
「行ってもいいの?」
急な誘いに少し戸惑う。
「もちろん! 私も前お邪魔したから!」
「じゃあ行くね」
僕たちも前お邪魔したからあれだけど、僕にとっては好都合だ。
彼女との距離をもっと縮められるかもしれない。
それに彼女のことについてもっと知りたい。
湊音には悪いが、僕も僕なりに頑張る。
早く土曜日になって欲しい。
僕の頭の中にはそれしか無かった。

「じゃあまた明日!」
「え、あぁまたね」
気がつくと僕たちは朱莉の家に着いていた。
もう少し何か話せばよかったな。
そんなことを思ったが、後悔したってもう遅い。
僕は駅の方へと歩き出す。

帰る途中、湊音からのメッセージに気付く。
『今日のやつ見られてたよな、? 俺じゃダメみたいだったから光希は頑張れよ』
そのメッセージに僕はなんて返せばいいのか分からなかった。
なんて返せば彼を傷つけずに済むのだろう。
『盗み聞きしちゃってごめん。頑張るよ』
考えた挙句、そう返信した。
ここで哀れんだら、それこそ失礼だと思った。
彼が背中を押してくれるなら、僕は頑張ろうと思う。
僕もいつか思いを伝える日が来るのかな。