「朱莉ってそういう曲よく聞くんだ!」
「うん! この曲とかめっちゃいいよ!」
夏休みが明けて、もうすぐ一ヶ月が経つ。
最近は湊音と朱莉が話してるのをよく見かける。
夏休み前は仲の良い印象は無かったのに、今となってはすっかり意気投合している。
周りから見ても二人はお似合いだった。
もし二人が付き合っていたら、きっと美男美女カップルなんて言われるだろう。

それに湊音と話してる時の朱莉はとても楽しそうだ。
あれ・・・・・・どうしてだろう・・・・・・
二人を見ていると変にモヤモヤする。
もしかしてこれがヤキモチってやつか。
以前の僕なら、二人を見てもなんとも思わなかっただろう。
だけど、彼女に好意を抱いていると自覚してからは、朱莉と楽しそうに話す湊音にヤキモチを妬いてしまう。

「・・・・・・きくん、光希くん!」
「あっ、ん? どうしたの?」
考えすぎて呼ばれてるのにすら気づかなかった。
てかいつの間に僕の隣に来ていたんだ。
「次移動教室だよ!?」
「え、あっ、やば」
次の用意なんて何一つやっていない。
僕は急いでロッカーから教科書を取り出す。
完全に二人に気を取られていた。
その後の授業もどこか落ち着かなかった。
隣の朱莉に視線をやっても、湊音と話していた姿を思い出し、かえって集中できなくなる。
結局何一つ集中出来ないまま放課後になってしまう。

「光希くん! 久々に一緒に帰ろー!」
直ぐに帰ろうとした僕に、彼女はすぐさま声をかけてくる。
こうして帰りの誘いをされたのもほんとに久しぶりだ。
「いいよ」
今となっては彼女と一緒に帰るのになんの抵抗もない。完全に慣れというものだろう。

「今日の数学ほんとに眠くてやばかった」
「ほぼ寝てたでしょ」
僕も集中できなくて、周りを見渡していたが、朱莉も含めクラス大半はみんな眠っていた。
「別に寝てないもーん」
「はいはい、てかさ最近湊音とよく話してるよね」
「湊音くんよく話しかけてくるならね」
僕はつい湊音の名前を出してしまう。
だけど、朱莉が湊音のことをどう思っているのか気になる。

「朱莉は湊音のことどう思ってるの」
「どうって何が!?」
「だから、好きとか」
自分からこの話を振っておいて、すごい恥ずかしい。
これじゃあ僕が朱莉を好きだとバレてしまいそうだ。
「すごい良い人だとなとは思うけど、好きとかはないよ。私好きな人とか居ないし」
「あーそうなんだ」
今の僕は心からホッとしている。
きっと湊音は朱莉のことが好きだろう。
夏休み明けの行動を見ていたら、そんなことはすぐに分かる。
湊音と好きな人が被るというのは、揉めるかもしれない。
僕は湊音よりかっこよくもないし、運動だって出来ない。
それでも朱莉を思う気持ちなら負けていない。
僕は正々堂々湊音に立ち向かおうと思う。