何故、私は処刑されようとしているのだろう?



 私が12歳の時、この国の皇太子の婚約者に選ばれた。

 その日から、私の生活は一変した。

 知らないところに連れていかれ、知らない場所で生活をした。

 毎日、来る日も来る日も、お稽古や勉強。

 家族もいない、味方もいないところで、ひとり。

 それでも、その時はまだ良かった。

 婚約を決めた皇太子のお爺様が亡くなった時、また生活が変わり始めた。

 カイル皇太子は、小言を言う私を煙たがり、避けるようになる。

 周りの女性には、皇太子に意見なんて生意気よ!とか、これだから辺境の娘は野蛮なのよ!とか言われるようになった。

 カイル皇太子は、一度も庇わない。

 それをいいことに、エスカレートしていく罵詈雑言の数々。

 どんどんとすり減らされていく、私の精神。

 私は、間違ったことは言っていないのに……。

 なんで、国を良くしようとしないのだろうか?

 貴方達が少し贅沢を我慢するだけで、何十万という民が救われるのに……。

 この帝都はまだいい……でも、辺境の人々は飢えに苦しんでいるわ……!

 それどころか、この国を命がけで守っている兵士に、補給などを渋る始末。

 彼らがいるから、私達が毎日無事に生活できることが、何故理解できないのかしら?

 これでは、お父様に顔向けができないわ……!

 それに……好きだったクロウにも……!

 あんな啖呵をきってまで、ここまできたのに……。

 お父様は最後まで反対してた。

 私が犠牲になることはないと。

 でも、私は変えたかった。

 北や東の人々は海に面している。

 そのために、水や食料が豊富にある。

 それらを独占し、帝都の人々と共に贅沢をしている。

 それなのに、国を守る南や、西の辺境には、それらを渡さない。

 私は、それをどうにかしたかった……!

 心が折れそうな私を救ったのは、ある男の人だった。

 その人の名前はクロウ、私の大事な幼馴染。

 私が帝都に来た後も、彼は稽古に励み、西の国境へ向かったと、お父様からの手紙に書いてあった。

 そして厳しい戦いを生き抜き、西の守護者にして白き虎と呼ばれるようになったと。

 私はそれを聞いた時、感動した。

 あのクロウが頑張ってるのに、私が泣き言を言ってはいけない!と。



 ……それなのに、いつの間にか皇太子暗殺の濡れ衣を着せられた。

 ……そして、今……処刑台の上にいる……。





 でも、私は死ななかった。

 何故なら、直前になり、クロウが助けてくれたから……。

 私の初恋の人で、ずっと好きだった人……。

 でも、私はクロウよりも国を優先した。

 そんな薄情な私を、クロウは命がけで救いに来てくれた……。

 それに、私のために強くなったって……。

 私のために、国境を守っていたって……。

 ……そ、それに……私のこと、愛しているって……!

 は、恥ずかしいけど……嬉しいの……でも、私にはその資格がない。

 婚約破棄されて、処刑されそうだった、こんな女ではクロウに相応しくない……。

 だって……クロウはとっても強くて、とってもカッコいいもの……。

 私なんかじゃ、釣り合わないわ……。



 そう思っていたのだけど……。

 クロウは思わず泣いてしまった私を、優しく慰めてくれた……。

 さらに、クロウは私を守ってくれるって……。

 反逆者になってもいいって……。

 ……そ、側にいるって……。

 私は、甘えてもいいのかな?

 私は、クロウに何が返せるかしら?

 私はもう、国にはいられない……。

 それに正直、もう疲れたわ……。





 決めた!

 これからは、クロウのために生きよう!

 私のために人生を費やしてきた彼に、恩返しをしよう!

 それに私だって……好きな人のために生きてみたい!

 私は、クロウの温かい腕に抱かれながら、そう思った。