……俺はその光景が目に入った瞬間、頭をフル回転させる!

 考えろ!!
 洗脳?ない!アレには時間がかかる!1日2日でどうにかなるものではない!!
 裏切り?可能性は低い!!であるならば、タイミングがおかしすぎる!!
 残るは……脅されている……?となると人質……?アイツの大事な人……妹か!!
 そうなると……見張りがいるはずだな……暗部の奴ら以外の……。

 よし……一応、そういう想定で動くことにしよう。
 もちろん、万が一裏切りの場合は……ナイルだろうと殺す……!

「その前に……あめえよ!!」

 後ろから狙ってきた奴に、魔力を込めた裏拳をかます!!

「ギギーー!?」

 顔面が陥没し、ピクピクしている。

「さすが隊長です……後ろに、目でもついてるみたいですね」

「ク、クロウ……!ご、ごめんなさい……!」

「カグヤ、お前が謝ることなど何もない。むしろ、すまない。俺の油断が招いた結果だ。さて、ナイル……どういうつもりだ?」

「とりあえず……失礼しますね!」

 ナイルはナイフをしまい、カグヤに手刀を叩き込んだ!

「カグヤ!!」

「大丈夫ですよ、気を失っただけですから……頃合いですかね……」

 その瞬間、鳥のような鳴き声が響き渡る……!

「ピルルルルゥゥゥーーー!!!」

「チィ!?耳が……!」

「すみませんが……とりあえず、逃げるとします。ここに書いてあるところに……来てくださいね!」

 ナイルから、ナイフが放たれる!
 それは、俺の目の前の地面に転がる。

「逃すと思うか?」

 その瞬間、あちこちで唸り声がする!

「グガァァァーーー!!!」

「ギギャャャーーー!!!」

「ゲゲェェェーーー!!!」

「なんだ!?こいつら!?」

「今、そいつらは狂人薬を飲みました。隊長でも、簡単にはいきませんよ?」

 チィ……!アレか!!
 狂人薬は、一時的に全ての身体能力が上がる丸薬のことだ。
 ただ、後遺症が残るため、使うには最悪死を覚悟しなくてはいけない……。

「では、隊長……失礼します……」

 ナイルは言葉を言い終わったあとに、黙って口を僅かに動かした。

 ……見られている……?もしや、そういうことか……?

 ナイルは馬を呼び、走り去る……《《その真上を何かが飛んでいる》》……。

 ……とりあえず、カグヤがすぐに害されることはないな。

 どうやら、俺をおびき寄せたいようだ。

「グガァァァーーー!!」

「……悪いが、すぐに死んでもらうぞ……?俺は今、機嫌が悪い……!」

 魔力を限界まで高める!
 それを、身体中の血を通り、体全体に巡らせるイメージ!!

「……これが身体強化術だ!」

 これが、俺が得意とする魔力による身体強化術だ。
 戦う時に無意識的に、使ってはいる。
 だが、今は意識的に魔力を込めている。
 この状態は、魔力をかなり消費するが、効果は絶大だ。

 ただ使い手のエリゼ曰く、これを使える人間は限られるそうだ。
 強靭な精神力と、頑強な肉体の持ち主でないといけないらしい。
 でないと、血管が破れ、身体中から血と魔力が溢れて暴発すると。

「キシャーー!!」

「ケケーー!!」

 右側から、2人同時に剣を振り下ろしてくる!

「死ね!!」

 水平にアスカロンを振り、2人同時に剣ごと身体を斬りとばす!!

 二体の、物言わぬ死体の出来上がりだ。

「アアーー!!」

「ヒヒヒヒ!!」

 左側から、二体が縦に並んで迫ってくる!
 一体を犠牲にして、もう一体でといったところか……。

「だが……しゃらくせえ!!」

 自ら接近し、アロンダイトを上段から、思い切り振り下ろす!!

「ペキャ!?」

「ブベェ!?」

 二体同時に押し潰す!!

「残るは……6体か……」

 騒ぎを聞きつけて、人がやってきている。
 一撃で、終わりにするとしよう。

 全身の魔力を、二本の剣に込める……。
 両腕をバッテンの形にして、剣を構える。

「グガァァァーーー!!」

 ほう?連携する頭は残っていたか。
 6体がジグザグに、迫ってくる!

「消え失せろ!!魔刃剣・クロス!!」

 二本の振り抜いた剣から、バッテンの字の斬撃が飛んでいく!!

「ケヒーー!?」

「グゲェーー!?」

 6体全ての、手足や胴体が千切れ飛ぶ!!

「フゥ……これで、よし」

「おい!?どうなっている!?」

「ゼトさん、申し訳ありません。少々、騒がしてしまいました。ただ、今はあとでお願いします」

「……わかった。ただ、問題はない。誰も死んでいないしな。後処理はしておこう」

「感謝します。では、失礼します」

 俺は逸る心を抑え、ナイフの柄に巻かれた紙を見る。

「ここより、北西に建物あり。目印は置いておく。そこにくるがいい。楽しい余興を始めよう……」

 誰だか知らないが許さん……!
 何より、白分自身が許せない……!
 カグヤ!!待っていろ!!
 必ず、助けてやるからな!!



 馬を借り、ナイルが去った方へ向かう。
 すると、赤い血が点々と地面に染み付いている……。
 これは……ナイルの血か……これが、目印ということか。

 ……カグヤが最優先だ。
 ナイルのことは、今は考えるな……!
 気をぬくと溢れでる思い出を押さえ込み、俺は馬を走らせ続ける……。




 そして、血の跡が消えてくる頃……建物が、いくつか並んでるところが見えてきた。
 馬も、停まっている……ここだな。

 迂闊な行動はとれないな……準備は、魔力を溜めておくことくらいか。
 ただ、幸いアイテムボックスは、俺のマントの中にある。
 いざという時は……臨機応変に対応しなくてはな。

 俺は覚悟を決めて、建物に囲まれてた広場に入る。

 ……覚悟は決めていたが、まさかこんなところで会うことになるとは……。

「ククク……随分と久しぶりだな……クロウよ」

「あのクソガキが、こんなになるなんて……だから、殺しておけって言ったのに!」

 そこには、母上が死ぬ原因になった2人がいた……。