トロールを倒したことで、俺達は認められたようだ。歓迎されつつ、無事に都市の中に入ることが出来た。

 今は馬を預け、都市の中を案内してもらっている。




「さて、今更だが……俺の名前はゼトだ。一応、この都市の防衛をまとめている者だな」

「ゼトさんですね、わかりました。これから、よろしくお願いします」

「カグヤといいます。ゼトさん、よろしくお願いします」

「こっちこそ。強い奴は大歓迎だ。
 ただ、金は出せないんだ。まだクロウは冒険者登録もしていないようだしな」

 話を聞いてみると、どうやら都市の防衛に参加した冒険者には、手当が出るシステムのようだ。

「いいえ。こうして都市を案内してくれるだけで、有り難いことです」

「ほう……?随分としっかりしているな。
 よし気に入った!今日は、俺が金を出す!宿に案内しよう!部下を救ってくれたしな!」

 ……このタイプには、遠慮はむしろ失礼になるな……。

「では、お言葉に甘えさせていただきます」

「ゼトさん、ありがとうございます」

 2人で、きちんと頭を下げて礼を言う。

「ハハ!照れるぜ!おふたりさんよお!良いカップルじゃねえか!」

「にゃい!?カ、カップル!?」

「なんだ?違うのか?あ、兄妹だったか?」

「いえ、カップルです。すみません、恥ずかしがり屋さんなもので」

「ク、クロウ!?」

「なんだ、そういうことか。すまんな、お嬢さん」

「い、いえ、大丈夫ですわ」

「にいちゃん!身分違いの恋か!頑張れよ!俺は好きだぜ!」



 そして宿に到着する。
 ゼトさんは受付の人に事情を説明しているようだ。俺とカグヤは少し離れて待つことにする。

 すると、顔を真っ赤にしたカグヤが、小声で話しかけてくる。

「クロウ……!ど、ど、どういう意味よ?」

「何が……ああ、アレか。
 いや、悪かったな。ただ、そういうことにしておいた方が都合が良いかと思ってな……」

「……何か考えがあってのことなのね?」

「ああ、まあな。詳しいことは部屋に入ってからにしよう」

「ええ、わかったわ……ドキドキして損しちゃったわ……」

「そうだな、驚いたよな。事前に言っておくべきだった……すまない」

「そういう意味じゃないんだけど……もう!相変わらずね!」

「おいおい、お二人さん。痴話喧嘩なら、部屋でやってくれや。
 ここは割と音漏れもしないから、色々と遠慮なくできるぜ?」

「すみません。色々と配慮していただき感謝します」

「音漏れ……!色々……!はぅ……!」

「クク、若いってのは良いね。
 何、良いってことよ。アンタは使えそうだからな。先行投資して、恩を売っておいた方が良さそうだ」

 ……ふむ、中々の当たりを引いたのかもな。
 今のところだが、気持ちの良い人物のようだ。

「では、遠慮はいりませんね。そして、いずれ返すとしましょう」

「おっ、言うねぇ。ますます気に入った。
 一応3日分は払っておいた。あとは自分でどうにかしてくれ。
 ではな、また会おう」

「ええ、また。どうもありがとうございました」

「あ、ありがとうございました!」



 その後、受付の人に案内され、部屋の中に入る。

 良し……きちんとゼトさんに伝えておいて良かった。
 恥ずかしがり屋さんだからという理由で、ツインの部屋をお願いしておいたのだ。

「わぁー!思ったより、良い部屋ね!」

「だな。これは借りが大きそうだ。まあ、有り難い」

 ベッドが二つと、テーブルが一つ、椅子が二つある。広さも十分にあるな。
 共同だがトイレ、地階には風呂まで付いている。

「で、さっきのはどういうことなの?」

「いや、簡単な話だ。
 2人でいることに違和感がない。年頃の兄妹じゃあ、そこまで一緒にいることはないだろう。むしろ、部屋を分けたいだろうな」

「……確かに、お兄様とは絶対に嫌ね」

「それはそれで、可哀想だな……。
 まあ、いい。あとは言葉遣いや、所作だな」

「どういうことかしら?」

「カグヤはどう見てもお嬢様だ。所作や言葉遣いに、それが表れている」

「まあ、そうね……クロウ以外には、出てしまいそうね」

「おそらくだが、俺も平民には見えないだろう。ということで、騎士とどっかの貴族令嬢の駆け落ちということにしようかと。
 そうすれば色々と説明がつき、怪しまれずに済むだろう。男と女の二人旅とか、俺が出稼ぎに出ることとか。
 そしてさっき助けたことで、味方とはいえないが、俺らに悪感情は持たないだろう。誰かに聞かれても、黙っていてくれる可能性が高い。ゼトさんも、そう思ったようだしな」

「だから、私はお嬢さんって呼ばれていたのね。
 ごめんなさい、クロウ。色々考えてくれて……私は、全然気が回らなかった……」

「そんなことは……いや、そうだな。
 だが、いいんじゃないか?それぞれにできることをすれば良いと、俺は思う」

「クロウ……はっきり言うのね。でも、ありがとう。
 私に何ができるかしら?私は何がしたいのかしら?」

 ……無理もない……今までは、王妃になるために生きてきたからな……。

「前にも言ったが、ゆっくりでいい。
 まずは、身体と精神を休ませることが重要だ。それから、色々なことをしてみたり、考えたりすればいい。俺はいつまでも側にいよう」

「クロウ……私、貴方に甘えてばかり……どうしたらいいの?」

「そんな泣きそうな顔をするな。俺が好きでやっていることだ。
 誰にも強制されていない、俺自身が決めたことだ。一生カグヤを守り、側にいると。ただ……」

「ただ……?」

「カグヤには笑っていてほしいな。
 別に弱音を吐くなと言っているわけではない。ただ俺に気を使うことはない、ありのままのカグヤでいてくれ。それだけで、俺にはお釣りがくるくらいだ」

「それだけでいいの……?うん……わかったわ!」

「ああ、それでいい。さて、流石に疲れたな。風呂に入って寝るか」

「ク、クロウが先でいいわ!」

「お、おう?では、そうするか」



 俺は風呂場に行き、考える。

 ……俺の理性よ。ここからが本番だ。
 俺は、カグヤの弱みに付け込むような真似だけはしたくない。嫌われてはいないが、それとこれとは話が別だろう。

「よし、出るか」



 風呂場を出て、部屋に戻る。

「スー、スー……」

 布団もかけずに、倒れこむようにベットの上で寝ている。

「やはり、疲れていたのだろうな……寝かせてやるか」

 俺は、もう一つの方の布団を剥く。
 そしてカグヤを起こさないようにお姫様抱っこをして、そちらのベットに移す。
 最後に布団をかける。

「これで、よしと。
 ……可愛い寝顔だな……いかんいかん……!」

 俺も布団に入る。

「果たして、好きな子が隣にいて寝られるだろうか……?」

 こうして、新しい生活が始まろうとしていた……。