この国の名前は、ベルモンド帝国。

 北と東は海に面している。

 西は、敵対しているザラス王国。

 西南は魔物の住む森がある。

 南には、ほぼ支配下に置いているマルグリッド王国。

 そんな中、俺は伯爵であるゼーネスト家の長男として生を受けた。

 母上は、男爵であるフェイス家の女性だった。

 親同士が決めた結婚だったらしい。

 なんでも、先代の伯爵家当主が、母上の父に命を助けられたようだ。

 そのために、身分差はあるが結婚という運びになったとか……。

 だが、父はしがない男爵家の女性の母上を気に食わなかったらしい。

 表面上は普通にしていたが、俺は可愛がられた記憶がない。

 おそらく、貴族の義務として子供を作っただけなのだろう。

 しかし、母上は決められた結婚だったが、父のために色々と尽くしていた。

 だが、夫婦仲が良いとは言えなかっただろう。

 そんな時、俺は辺境伯家の女の子に出会う。

 その子の名前はカグヤ-ムーンライト。

 俺より、歳が2つ下の幼馴染だ。

 辺境伯家当主が若い頃、母方の祖父に世話になった関係で、王都に来るたびに遊んでいた。

 小さい頃から仲が良く、あちらも慕ってくれていた。

「ねえねえ!クロウ!大きくなったら、私をお嫁さんにしなさい!」

「えー、お前お転婆だしなぁ……もう少しお淑やかになったら考えてやるよ」

「何ですって!?もう一度言ってみなさい!!」

「おい!肩を揺するな!そういうとこだよ!」

 ……などという会話がなされるぐらいには仲が良かったな。

 照れ臭くてそんなことを言った俺だが、既にカグヤに好きだったな。

 いつかは、彼女と一緒になることを疑っていなかった……あの時までは。

 俺が11歳の時に、両方の祖父がほぼ当時に亡くなった。

 そして父が第2夫人を娶り、母上と俺を追放した。

 というか、その女との間に、すでに子供がいた。

 しかも、男爵家に手を回していたようで、ろくでなしで有名だった次男が跡を継いだ。

 長男は、おそらく殺されたのだろう……誰も口にしないが……。

 そして、俺と母上は実家からも追放された。

 俺と母上は王都を当てもなく彷徨い、遂には死にかけていた。

 そんな時だった……カグヤが現れたのは……。

 家のゴタゴタもあり、カグヤもおそらく会うことを止められていたために、会うのは数ヶ月振りだった。

 10歳になった彼女は、それはそれは可愛い女の子になっていた。

 たった数ヶ月だというのに、見違えるほどだ……。

 そんな彼女の姿に、俺は再び恋をする。

 そして彼女は言った。

 ようやく見つかった!!良かった……!!と。

 そして泣きながら、俺に抱きつく。

 その後、俺達は伯爵家の領地に連れられ、そこで生活をする。

 ムーンライト辺境伯家は南の国境の守り手だ。

 魔物の住む森が近くにあり、それらに対処している。

 更には、マルグリッド王国に目を光らせている。

 いわゆる、この国の守護者だ。

 《《俺は》》、そこで3年間暮らすことになる。

 ……母上は、こっちに来てすぐに死んでしまった……。

 あのクソ親……あのクズのせいで……!

 あんなに尽くした母上を、ボロ雑巾のように捨てやがって……!

 俺は怒りと悲しみで、どうにかなりそうだった……。

 そんな時も、カグヤはそばに居てくれた。

 もしカグヤがいなければ、俺は精神の均衡を保てず、自暴自棄になっていただろう。

 そして俺は恩を返すべく、鍛錬に励んだ。

 ここは魔物との戦いや、隣国との小競り合いが発生する。

 俺は、世話になった恩返しがしたかった。

 幸い、俺には才能があった。

 魔法こそ使えないが、身体の魔力強化や斬撃を飛ばすことは出来た。

 剣の才能もあり、一流になれると太鼓判を押された。

 だが俺が14歳の時、カグヤとの別れが訪れた。

 カグヤが皇太子の婚約者に選ばれたのだ。

 皇太子の祖父が決めたらしい。

 辺境伯が裏切らないようにともとれるし、辺境伯との絆を深めるともとれるが……。

 真相は闇の中だな……その一年後に死んでしまうからな。

 何はともあれ、カグヤは王都へ行ってしまった。

 そこで婚約者として学校に通い、皇太子と親交を深めるそうだ。

 ただの平民になった俺には、それを止める術はない……。

 カグヤの寂しそうな顔が、今でも頭から離れない……。

 残された俺にできることは、ただ一つだけだった。

 強くなり、カグヤが王妃となるこの国を守ることだ。

 西の国境は、こちらより厳しいという。

 俺は、そこを守ろうと心に誓った。

 俺は、辺境伯当主であるヨゼフ様に願い出た。

 とても有り難いことに、武器や防具までくれて送り出してくれた。

 その後、今いるこの場所で戦い続けた。

 そしていつの間にか、守護者と呼ばれるようになる。

 兵士達からは、尊敬を込めて。

 お偉いさんからは、嫌味を込めて。

 だが、所詮はただの百人隊長止まりだ。

 救える命も限られている。

 今日も部下を死なせてしまった。

 正直、もう嫌だと思うことはある。

 だが、カグヤが幸せに暮らせるならばと歯をくいしばっている。

 なあ、カグヤ。

 君はどんな女性になったかな?

 俺は20歳になって、身長も180を超えて、体格もでかくなった。

 もう18歳か……そろそろ、結婚するのだろうか?

 会いたいけど、会えないな……流石に、祝福はできそうにない。