結界が溶け、洞窟が光りだす。

すると、大きな門が現れた。

これが、ダンジョンの入口だろう。

「兄貴っ! やりましたな!」

「ふぅー! 疲れましたぁ!」

「コンッ!」

「ふぇ〜! 怖かったですぅ!」

全員の様子を確認するが、大怪我をした者はいなそうで安心する。
ひとまず、盾になってくれたアイザックの傷を癒す。

「みんな、よくやってくれた。どうやら、門番を倒したことでダンジョンが現れたようだ」

「これがダンジョンですの?」

「……そうか、行ったことないのか」

「わ、悪かったですわね」

「いや、仕方ないさ」

本来のイベントでは、エミリアや弟達はダンジョン攻略をしていた。
俺に対抗する力をつけるために。
しかし、強くなりすぎても困るので俺が先回りして攻略したんだっけ。
それにギリギリで負けるようにしてたから、こいつらもそこまで強くなる必要もなかったし。

「それで、どうしますー? このまま行きます?」

「いやいや、無茶だろ。まずはダンジョン発見をしたなら、そこを中心に陣地を作らないといかん。幸い、この辺りにダンジョンを狙うような者はいない。このまま、放っておいて平気だろう」

「まあ、こんな辺境の奥にありますしねー。それに、入ったところで……多分、これの難易度高そうですし」

「まあ、ゴーレムが門番としていたくらいだ。それなりに期待はできそうだな」

門番がいること自体が、ランクが高いダンジョンの証明でもある。
そしての強さのゴーレムがいたなら、その難易度は押して知るべしってやつだ。

「じゃあ、一回洞窟に戻りますかい?」

「ああ、そもそも食材も放置してるしな。あれを都市の連中に配りつつ、ダンジョンを見つけたことを報告するとしよう」

「へいっ! では、俺が腕によりをかけて作りますぜ!」

「ああ、期待している。さあ、カリオン達の元に戻るぞ」

その後、洞窟に戻り、報告をすませる。

そして俺達は、都市へと帰還するのだった。



そして野宿を挟み、翌日の夕方に都市に帰還する。

「さて、疲れているところすまないが手分けして作業するか。俺は家々に火を灯しに、エミリアは水が減っているから補充、アイザックは料理の準備、ニールはセルバの解体、カリオン達は人々に帰還とこれからの予定を伝えてくれ」

「あれ? 私は? のんびりしてていいですかね?」

「許さん。お前は館に行って報告だよ」

「はーい」

それぞれが疲れた体に鞭を打って別々に動きだす。
俺もフーコを連れて家々を回り、暖炉や魔石に火を込めていく。

「魔王様、いつもありがとうございます。おかげさまで、最近は主人共に体調が良くて……」

「気にするな。その代わり、きっちり働いてもらおう」

「はい、もちろんですわ」

そんな感じで次々と訪問していく。
最初に来た頃は生気のない顔をしていたが、最近は明るく笑うようになったと思う。
まだまだ建物や道の整備も出来てないし、やることは山積みだが……それでも、見た目以上に変わってきてるのかもしれない。

「ふぅ、こんなものか」

「コンッ!」

「ん? どうした?」

「ククーン……」

「……腹が減ったか?」

「……!? コンッ!」

どうやら、合っていたらしい。
俺も腹は減っているので、屋敷に戻ることにする。
すると、すでに屋敷の前には人だかりができていた。

「魔王様! お帰りなさいませ!」

「ご無事でなによりです!」

「なんでも、今日もお土産あるとか!」

「まあ、落ち着いてくれ。食事の前に説明するとしよう」

人波をかき分け、屋敷の中に入る。
そして自分の部屋に戻ると、アイザックのニールを除く主要メンバーが揃っていた。

「ダイン、リース、帰ったぞ」

「アルス様、お帰りなさいませ。ご無事の帰還、喜ばしい限りです」

「無事でなによりじゃわい」

「それで、話は聞いたか?」

ふむ、ユキノ殿から話は聞いておる。ようやくダンジョンを見つけたのじゃな?」

「ああ、そうだ。ここからは、お前達の力がより必要になってくる。ダンジョン攻略は、そんなに生易しいものじゃないからな」

ダンジョンは迷宮となっており、下に行くつれて難易度が上がっていく。
罠や仕掛け等もあり、魔物や魔獣達もわんさかいる。
特に、この世界にはアイテムボックスがない。
そうなると補給の面が、一番大事になってくる。
武器防具の消費、食料、交代要員など。

「うむ、ワシらの腕の見せ所じゃな。ダンジョン内に砦や村を作らんといかん」

「では、エルフ族はダンジョンの外を守りましょう。我々にとって森は庭みたいなものですから」

「ああ、そうなると思う。カリオン、お前達にはユキノと共に斥候をお願いしたい」

「はっ! 我々におまかせください!」

「ああ、頼む。実際の戦闘は俺達が請け負い、ボスを倒していく。そのためのサポートをお前達に任せよう」

エルフ族リース、ドワーフ族ダイン、獣人族カリオン、それぞれの代表者が頷く。
決して戦闘向きではない種族だが、補佐役としてこれほど頼れる存在はいない。
戦闘向きである鬼族がいれば話は別だが、あいつらには会いたくないし。
……戦闘狂で、強い者と死合うのが好きとか。

「ご主人様。つまりはダンジョンへの道を整備して、都市とその間に村とか街を作るって事で?」

「そうなるな。安全の確保ができ次第、住民達の移住も考えている。そうすれば中継地点になるから商売の面でもいいし、護衛や管理もやりやすくなる」

「そうですねー。魔石を配ったりするのもコストがかかりますし」

「なにより、もし……仮に何者かが介入してきたときに、まとまっていると色々と都合がいい」

「あぁー……そうですよね」

「まあ、そんな感じでこれからやっていくつもりだ」

すると、タイミング良く夕食の準備ができたと知らせが入る。
俺達も準備を済ませ、一階のホールに向かう。
そこにはすでに人々が集まり、俺達に視線が集まる。
その視線を感じつつ、俺は壇上に上がる。

「えー、集まってくれて感謝する。簡単に言うと、ダンジョンが見つかった」

「おおー!」

「これで魔石が手に入るのですね!」

「我々にも暖房というものが!」

「食材も手に入るわ!」

俺がすっと手を挙げると、一気に静寂に包まれる。

「そう言うことだ。しかし、そのためには諸君にも頑張ってもらわないといけない。ダンジョン攻略は、都市一丸となって行う。なので、俺に力を貸して欲しい」

「頭をあげてください!」

「我々でよければ何でも仰ってください!」

「そうですよ!」

そんな声があちこちから聞こえてくる。
ひとまず、やる気はあるようで安心だ。
俺達に負んぶに抱っこでは、いずれ破綻する。
最悪、俺たちいなくても回るくらいにはしないと。

「感謝する。それが進めば、魔石も手に入り暖房機器も作れるだろう。明日から本腰を入れていくつもりなので、お主達もそのつもりでな。そして今日は英気を養ってもらうため、パーティーをすることにした。大人の男達はここ、子供と母達は座れる食堂に行ってくれ」

入り口に目配せすると、カリオン達が動き出す。
声をかけたりして先導して、人々が移動を始める。
入れ替わるように、こちらの部屋に立食パーティー用のテーブルと皿が用意されていく。

「さあ、ここからは自由だ。食べたい者、話したい者、自由にするといい」

「「「ありがとうございます!!!」」」

皆が一斉に食べ始め、ワイワイと談笑を始める。
寒さに震えることもなく、皆が笑顔だ。
俺は壇上の椅子に座り、それを眺める。
すると、ユキノが皿を持ってやってきた。

「ご主人様ー、降りないので?」

「ああ、ここでいい。こうして見ていると……何やら心が落ち着く」

「えへへ、そうやってると本当の魔王様みたいですね? こっから、ふんぞりかえって見下ろす感じ」

「何を言って……そうか」

その時、ふと気づいた。
黒のマントに黒の貴族服、高い位置から足を組んで椅子に座って人々を眺める。
そして傍らにはヴァンパイア……うん、魔王っぽいな。

「えへへ、魔王様? 私を好きにしてもいいんですよ?」

「はっ、そうか。なら、しこたまこき使ってやる」

「むぅ、そういうのじゃないですってば」

「ちょっと!? 何をしてますの!?」

「あらあら、先を越されたかしら」

「なんでお前らまで壇上に上がってくる!?」

足元にリースが寄りかかって座り、右肩にはユキノがしなだれ、左にはエミリアがいておずおずと服の端を掴んでいる。

「むむっ、正式に参戦ですか」

「ふふ、そういうことになるかしら」

「わ、私は二人を止めにきただけですわ」

何やら三人の間に火花が見える。
さっきまでの居心地の良さは何処へやら、背中が寒くなってくる。
すると、眼下で笑っている奴らを発見する。
ダイン、カリオン、ニール、アイザックがいた。

「待て待て、なんの話だ。というか、お前達も見てないでどうにかしろって!」

「ふぇ〜! わたしには無理ですぅ!」

「兄貴、諦めましょうや」

「主人殿は女傑に好かれる運命のようだ」

「がははっ! 魔王様にはちょうどよかろう!」

「ったく、他人事だと思って……」

だが……悪くないと思う自分がいる。

これまでやってきたことは誰にも賞賛されることなく、ただひたすらに孤独に耐える日々だった。

それが今は、こうして目の前に結果がある。

わけもわからないままゲーム世界に来て、勝手に悪役にされた。

クリアした今、これから先に何が起こるかわからない。

ただ……この景色を守るためなら魔王にでもなってやろう。

そう、決意を新たにするのだった。









~あとがき~

いつも本作品を読んでくださり、誠にありがとうございます。

ひとまず、これで書籍一巻分が終了となりました。

あとはコンテストに出したり、二部を作成したりいたします。

「田舎貴族の学園無双~普通にしてるだけなのに高貴な人が寄ってくる~」

https://kakuyomu.jp/works/16817330666079944517/episodes/16817330666280823857

という新作も出しているので、よろしければフォローして読んでくださると嬉しいです。

それでは、引き続きよろしくお願いいたします🙇‍♂️