その日の夜、皆が寝静まった頃……物音がしたので起きる。

天幕を出ると、ユキノが焚き火の前でストレッチをしていた。

その横では火の番担当の獣人が控えている。

「どうした? 柔軟体操なんかして」

「あれ? 起こしちゃいました?」

「いや、ふと目が覚めただけだ。んで、どこにいく?」

「あら? わかっちゃいました?」

「そりゃ、そうだ」

怠け者のこいつが、柔軟体操なんかしてるくらいだ。
いくら寝なくても良い種族とはいえ、こんな時間にやることではない。

「んー、暇なんで探索に行こうかと。私、最近良いところないですしねー」

「なんだ、そんなことを気にしていたのか」

「それはそうですよー。アイザックさんやエミリアや、ニールまでいますから。ここらで、ご主人様に良いところ見せないと」

「たしかに、狩りでも負けたしな?」

「むぅ……地味に悔しいですね」

「だが……正直な話、無理はしなくて良いぞ?」

こいつもなんだかんだで特殊だ。
俺に助けられたと思ってるから、俺の役に立たねばと思ってる。
しかし、実際に助けられてきたのは俺の方だ。

「はい、それはわかってますよー。でも、私自身が嫌なので」

「そうか……なら止めはしない。気をつけて行ってこい」

「えへへ、了解です! それじゃあ、行ってきまーす」

タタタッと駆けていき、暗闇の中に消えていく。
俺がついていくことも考えたが、夜目が効くユキノからしたら足手纏いになるだろう。
何より忍びの者だ、気配断ちや足音を消すのは造作ない。

「やれやれ、部下達がやる気だと俺も頑張らないといかんな」

「コーン?」

「おっ、フーコも起きたのか? さては寝過ぎたな?」

「コンッ」

「んじゃ、俺の話し相手になってくれるか?」

頷き、火の前にいる俺の膝に座る。
護衛の獣人はいるが、カリオンのせいで俺に心酔しているので話し相手にはならない。
有り難い話ではあるので、好きにはさせているが。

「コン?」

「んー、どうしたもんかなと思ってさ。俺は役目も終わったし、これからは好きにのんびりと過ごしたいって思ってた。ただ、そうもいかないみたいだ。流石にこの状態を見て、放っておくわけにもいかない」

本当は適当な場所に行き、そこで細々と暮らそうと思っていた。
ただ、実際に困窮している人々を見てしまったし、俺には蒼炎が使えることがわかってしまった。
これにより、俺には人を救うことが可能になった。
すると、フーコがスリスリしてくる。

「うん? どうした?」

「コンッ」

「……そうだな、蒼炎がなければフーコも生きてはいないか」

ならば、この力にも意味があったというものだ。
ただ、少しばかりの不安がある。
……俺は、本当にゲームクリアをしたとかということだ。

「この力を手にした理由はなんだ?」

もし何かまだあるとしたら……それもあって、俺は領地開拓に踏み切った部分がある。
ただのんびりと過ごしいて、いきなり事が起きたらどうしようもない。
悪役を全うした俺は、事前準備の大切さを知っている。

「そうなると、やはり開拓を出来るだけ早く進める必要があるか」

そもそも、本編ではアスカロン王国を中心にしか描かれていない。
北には帝国、南西にはエデン、西の果てには教会があるというのに。
もしかしたら、《《第二部か、二週目以降のストーリーがあるかもしれない》》。

「もし、そうだとしたら……起きてからでは遅い」

「コン?」

「いや、なんでもない。そのまま大人しくしてろ」

「……ククーン」

フーコを撫でて、心を落ち着かせる。
もし、この先に何か続きがあるとするならば……そこは未知の世界だ。
今までのように、人を死なずにはいかない可能性もある。

「だが、俺にはこの力……蒼炎がある」

この力でもって、大切な人達を守るとしよう。

そして、体制を整える……何が起きてもいいように。