さて、そうなると倒す算段を立てなくては。

まずは、二人が来るまで時間稼ぎをしよう。

「ユキノ! 注意を引いてくれ! 俺は万が一、炎が来た時に備える!」

「あいさー!」

「ブモォ!!」

ユキノの接近に反応し、口から火の玉を次々と吐き出す。
それをユキノは左右にステップして、躱していく。
その炎が当たった箇所には、大きな穴が開いている。

「なるほど、口から出すタイプと。そして、さっきの一撃のような炎はすぐには出せなさそうだ。ユキノ! 深追いはしなくていい! 武器を使わせてくれ!」

「わっかりましたー!」

ユキノが炎を避けつつ、懐に入ろうとすると……斧が振り下ろされる!

「ブモゥ!」

「よっと! 地面がへこんで……結構速くて威力もありますねー」

その振り下ろしは、威力早さ共に申し分ない。
身のこなしが上手いユキノだから平気だったが……さて、俺でもいけるか。
そのタイミングで、二人の足音が聞こえてくる。

「ユキノ! アルス! ……ってミノタウロス!?」

「ひぃ〜! あんなのがダンジョン以外の場所にいるんです!?」

「驚いてるところ悪いが、敵の動きを観察中だ。ニール、そこから奴の顔に向けて矢を放ってくれ」

「わ、わかりました! すぅ——ヤァッ!」

その恐怖に染まった顔とは裏腹に、的確に顔へと飛んでいく。
そのまま刺さるかと思われたが、盾によって防がれる。

「エミリア! 水魔法を頼む!」

「ええ、行きますわ——アクアバレット!」

「ブモゥ!」

今度は口から火の玉を吐き、水の弾丸を相殺する。
しかも、その間にもユキノに斧を振り下ろし続けていた。

「ユキノを攻撃しつつも、弓や魔法の視界外の攻撃にも対応してきたか……くく、面白い」

「アルス? 貴方、笑ってますわよ?」

「すまんすまん……どうやら俺は、ワクワクしているらしい」

先程の戦闘でも感じた高揚感、多分だが強い敵との戦いが楽しいらしい。
スローライフを目指してる身で、何を言うかと思うが……それでも、俺はストーリーにそうままに生きてきた。
無論、危険な事も沢山あったし、死ぬような目にもあっていた。
ただ、それは予定調和の中での話だ。
こうして、ストーリー外で強敵と戦うことなどなかった。
何より、俺だって男だ……冒険と強敵はワクワクするに決まってる。

「ふふ、貴方にもそういう部分があったのですね。いつも冷静で、何でもわかったような顔をしていましたわ。無論、ここにきてからは少し違いますけど」

「はっ、ここにきてからはわからない事だらけだ。だが、それがいい……もう、俺を縛るものはない。エミリア! 小技は相殺される! 大技を貯めてくれ!」

「縛るものがない……ふふ、それは私も同じですわ。これで、私の意思で貴方のそばに居られる……ええ! 任せなさい!」

「ニール! お前は少し離れた場所からダメージを与えなくても良いから撃ち続けろ!」

「りょ、了解ですぅ!」

その返事を背にしつつ駆け出し、俺も魔法を放つ準備をする。

「ユキノ! 避けろよ!」

「はいさっ!」

「フレイムランス!」

「ブモゥ!」

「はっ、俺の魔法は避けもしないか」

どうやら、予想通り火属性耐性があるらしい。
そうなると、やはり鍵はエミリアか。
相殺したということは、食らうとまずいということだからだ。
ただ隙はできたので、ユキノの隣にたどり着く。

「どうしますー?」

「エミリアに注意がいかないようにして、あいつの大技に任せるとしよう。なので、注意を引くのは俺たちの仕事だ」

「ふむふむ、私達でとどめの心配をしなくていいのは楽ですねー」

「まあ、そうなるな。無論、自分たちで倒せないとは思わないが」

「そこはパーティーってやつですか?」

「まあ、そういうことだ。さあ、やっこさんが怒ってきたぞ」

避け続けるユキノにいらだったのか、しきりに地団駄を踏んでいる。
これなら、エミリアに意識がいくことはなさそうだ。

「ブモォォォォォ!」

「くるぞ! ユキノは盾を攻撃! 俺は斧を担当する!」

「逆じゃなくていいんです?」

「ああ、俺もたまにはな……ヒリヒリしたいんだよ」

「えへへー、それじゃ任せますね!」

斧を持つ右側に俺が、盾を持つ左側にユキノがいき、それぞれ相手を翻弄する。
ミノタウロスはユキノの爪を盾で防ぎつつ、俺に斧を振り下ろす。
避けるが、地面に大きな穴が空く……喰らえば一撃で肉塊になりそうだ。
その迫力に、思わず笑みがこぼれる。

「ははっ! こいつはいい!」

「スローライフをするんじゃなかったんですか!?」

「それとこれとは話は別だっ! スローライフを実感するためには刺激が必要なんだよ!」

「よくわからないですよー! よっと! もう、硬くて爪が通らないですね。 ご主人様、本気を出しちゃダメです?」

ユキノは作中の隠しキャラだけあって、そのポテンシャルは高い。
通常状態でも強いが、あることをする事で更に強くなる。
しかし、それは身体に負担がかかるので最終手段にしたい。

「それはまだ早い。何より、こいつ程度に使ったらこの先が大変だぞ? これから、ダンジョンとかに行けばもっと強い奴がいるだろうし」

「ふむー、それもそうですか。じゃあ、今は我慢します」

「そうしてくれ。何より、地力を上げないといかん。いざって時に耐えられるようにな」

「はーい、わかりましたよ」

「ブモォォォォォ!」

俺達が余裕を見せたからか、怒りに任せて暴れまくる。
しかし目と体が慣れてきたので、難なく避けていく。
これくらいなら、もういけるか。

「アルス〜! 準備ができましたわ!」

「わかった! これよりミノタウルスを倒す! ニール! 一瞬でいい! 注意を引いてくれ!」

「や、やってみます! ——やぁ!」

その連射に反応し、ミノタウルスが盾で弾く。

「ユキノ! 今のうちに接近して、あの力を使わずに盾に強力な一撃を!」

「はいさっ! すぅ——ァァァァァァァ!」

自分を鼓舞するようにユキノがらしくない声を上げる。
そしてロケットスタートの要領から一気にミノタウルスに迫る!
矢を防御したあと、慌ててミノタウルスが盾を構えた。

「邪魔です——ブラッディクロス!」

「ブモォ!?」

赤い魔力が迸った爪がミノタウルスの盾を粉々にする。
ヴァンパイア族が使える血の魔力を使った技だ。

「ユキノ、よくやった! 一度下がれ!」

「了解でーす!うぅー……魔力をかなり使っちゃいましたねー」

「だが、これで魔法をガードできまい。あとは、あの武器を……俺もやらないとカッコがつかないか」

「……オォォォォ!!」

盾がなくなった事で、ミノタウルスが斧を両手持ちに切り替えた。
つまり、さっき以上の攻撃が来るって事だ。

「平気ですか?」

「ああ、俺がやる……クク、ヒリヒリしてくるな」

「ご主人様にスローライフは無理そうですねー?」

「んなことないわ。これが戦うスローライフってやつだ」

「それなんです?」

「そういうもんなんだよ」

俺は刀の鞘に手を置き、静かにミノタウルスに近づいていく。
すると、怒り狂ったやつと目が合う。

「よう、お怒りか? お前が今怒ってるのは俺のせいだぞ?」

「ブモォォォォォ……オォォォ!」

「よし! かかってこい!」

相手の斧が振り下ろされる瞬間——そこに居合い斬りを合わせる!
それは激しい音を立てて、相手の斧を破壊した。
一番威力の高い攻撃に、切れ味のある刀を合わせる武器破壊の技だ。
その衝撃を受けて、相手が尻餅をつく。

「ブモォ!?」

「今なら避けれまい! エミリア!」

「待ってましたわ——水の刃よ、集約して全てを切り裂け——アクアブレード(水刃)!」

圧縮された水刃が、ミノタウルスに吸い込まれていき——上半身と下半身を切断する!
前世の俺だからわかるが、まさしくコンクリートをも切断する水刃って感じだ。

「ブモォォォォォ!? ……オ、オォォォ……」

「ふぅ……消えましたわ」

「エミリア、よくやったな」

「いえ、アレはタメが長いですし、威力調整が難しいので動く相手には無理ですわ。だから……これは皆のおかげですの」

そう言い、照れ臭そうにそっぽを向く。
そして、その顔を間近で見れたことを嬉しく思う。
敵だった俺には見せてくれない顔だったから。

「おいおい、らしくないな」

「お嬢様は照れ屋さんですから!」

「ははっ、そうに違いない」

「べ、別にいいじゃありませんの! だいたい、貴方は——わひゃ!?」

「ふぅー! やりましたねっ! エミリアすごい!」

「も、もう! 何するんですの! ニール! 笑ってないで取りなさい!」

「ふぇ〜!? わたしには無理ですぅ〜!」

ユキノがエミリアの背中に乗ってはしゃいでいる。

そして、それを見て慌てるニール。

これも、決して見れなかった光景だ。

メインキャラを誰も死なずにクリア甲斐があったというものだ。