結論から言うと、領主がいるはずの辺境都市ナイゼルは酷いらしい。

 あの後も道中の村を訪ねたが、人々の顔には正気がなく死んだような目をしていた。

 いくら無法地帯とはいえ、変だと思っていたが……どうやら、この地に落ち延びた腐れ貴族が圧政を敷いているらしい。

 そういうクズは、どこに行っても変わらないらしい。

 「どうしますー?」

 「決まっている——俺のスローライフを邪魔する者は排除する」

 「えへへ、これは腕がなりますねー」

 そして、荒野を進むこと数時間後……城壁が見えてくる。
 といっても、すでにボロボロだ。
 辺境都市と言われているが、それは何百年も前のことだし。

 「あちゃー、全然整備してないですね」

 「これは期待できないか。村人達の話を完全に鵜呑みにしたわけではないが……さて、どうなるか」

 「コンッ!」

 「あっ、門の前に兵士達がいるみたいですよ」

 「まずは、それで判断するか」

 そして俺達が門に近づくと、槍と斧を構えた兵士達が動き出す。
 といっても、見た目はまんま山賊である。
 悪役として腐れ貴族を相手にしてきた俺にはわかる……こいつらの目は濁っていると。
 今の俺は、性善説を信じていない。
 生まれながらにしてどうしようもない奴は、一定数存在するということを知った。

 「何者だっ!」

 「この地の領主に会いにきた者だ」

 「なに? そんな話は聞いてないぞ?」

 「それとも、その女を差し出しにきたか?」

 「へへ、良い女じゃねえか。それに、珍しい魔獣もつれてやがる」

 「これは俺たちで分けちまうか?」

 「……そいつはいい。たまには、俺たちだって新鮮な女を味わいたいぜ」

 ……どうやら、予想は当たったらしい。
 そうなると、もはや遠慮はいらない。
 ここで逃せば、次に犠牲になるのは無辜の民達だ。
 そんなことは、許してはいけない。

 「きゃー、ご主人様ー、怖いですー」

 「おい、めちゃくちゃ棒読みなのだが?」

 「えー? 私、か弱いですしー……ところで、どうします?」

 「俺がやる」

 フーコをユキノに任せて二人の男の前に立つ。
 そして、今度は意識的に厨二病を発動する。
 ……そうすることが、元日本人である俺の処世術でもあった。
 そうでもしないと、当時の俺の精神は耐えられなかった。

 「ククク、面白い……我に逆らうというのか」

 「な、なんだ?」

 「いいから男はしんどけ!」

 片方の男が槍を突き出したので、右の掌で受け止める姿勢をとる。

 「馬鹿が! ……へぁ? 槍が通らねぇ!?」

 「どうした? もっと力を入れないと人は貫けんぞ?」

 「く、くそっ! お前もやれ!」

 「何やってんだ! こうやるんだよ!」

 今度は斧が振り下ろされるので、左手で受け止める。
 当然、魔力強化された俺の手は無傷だ。

 「馬鹿なっ!?」

 「なんだこいつ!?」

 「せめて苦しまずに逝かせてやる……我が炎に焼かれて消え失せろ——豪炎」

 「「ァァァァぁぁ!?」」

 武器ごと火に包まれ、男達が燃え上がる。
 そして残ったのは……焼けた匂いと、空の鎧だけになった。

 「相変わらずの威力ですねー……大丈夫です?」

 「……ああ、平気だ。もう、いい加減慣れた」

 「そんな顔をするなら……私がやりましたのに」

 「それはダメだと言っただろう」

 記憶を取り戻した俺に訪れた最初の試練は、人を殺すことだった。
 どうしようもない悪党とはいえ、そいつらを排除しなければならなかった。
 全部をユキノに任せることもできたが、それは俺自身が許せなかった。
 すると、フーコが足元にじゃれてくる。

 「クゥン?」

 「……ありがとな、フーコ。よし、嫌なことはささっと終わらせるとしよう」

 「そうですねー。ただ、ここからは私もやりますからね? 最初の約束通り、ご主人様と一緒に罪は背負います」

 「……ああ、よろしく頼む」

 覚悟を決めた俺は、門を開けて中に入っていく。

 山賊どもめ……俺のスローライフの邪魔をするというなら覚悟してもらおうか。