—1—
書店を後にしたオレ達はゲームセンターにやってきた。
UFOキャッチャーの景品で今期のアニメキャラのフィギュアに一目惚れした颯が1000円投入するも微塵も取れる気配が無いまま終了。
本人は相当悔しがっていたがアルバイトをしていない高校生には金銭的に限界がある。
また次の機会にと意気込んでいたのでその時は付き合うとしよう。
「秋斗先輩、これやりたいです!」
「よし3人でやるか」
「ビリだった人はアイス奢りです」
「俺もう金無いんだけど」
里緒奈の提案でカーレースで競うことに。
3人横並びでオレ、里緒奈、颯の順番で座席に座る。
足元の投入口にお金を入れ、キャラクターを選択して程なくしてレースが始まる。
アイテムを使って敵を妨害しながらコースを3周すればゴールだ。
1周目は特に大きなハプニングも無く、完全にドングリの背比べ状態で2周目に突入した。
「秋斗先輩、藤崎先輩と話してた時、鼻の下伸びてましたよ。やっぱり好きなんですか?」
里緒奈が拗ねたように唇を尖らせる。
画面上では里緒奈から繰り出された妨害アイテムを食らい、順位が入れ替わった。
「そんなんじゃない。女子と話す時のオレの顔は大体あんな感じだ」
「私だって女子なんですけど」
「里緒奈は幼馴染で昔から知ってるし、暇さえあれば一緒にいただろ? だから耐性みたいなものができてるのかもしれないな」
加速アイテムを使って里緒奈との距離を詰める。
「つまり私には先輩をドキドキさせるだけの魅力が無いってことか。確かに藤崎先輩と比べたらまだ小さいかもしれないけど、それでも日に日に大きくなってきてるんだけどな」
終始小声で何を言っているのか分からなかったが、片手で自分の胸を揉んでいる辺り、里緒奈の中で変な解釈が行われたことは間違いない。
レースは終盤に差し掛かり、里緒奈越しに一言も声を発していない颯の様子を覗き込むと必死にアイテムボタンを連打していた。
「あいつ、どんだけ奢りたくないんだよ」
オレと里緒奈の間に流れる空気とは別な空気が流れていた。
1位が颯、2位が里緒奈、3位がオレという結果になった。
オレの敗因は途中から一切ゲームに集中できていなかった。これに尽きる。
自動販売機で人数分のアイスを買い、フードコートで軽く時間を潰してからこの日は解散となった。
—2—
夕食を終え、自室で購入したラノベに没頭しているとスマホの通知音が鳴った。
ロック画面には『藤崎花火さんの配信が始まりました。』の文字が。
『0→100』のイラスト配信の通知設定でさえオンにしていないのにオレは一体何をしているんだか。
クラスメイトの配信を陰で聴いているとバレたら恥ずかしさと申し訳なさで死んでしまうかもしれない。
それでも気になってしまうのだから仕方がない。
配信アプリを起動させ、【藤崎花火の人生相談枠】に潜り込む。
『あーあー、それではぼちぼち人生相談を始めたいと思います。みんな、コメントで相談内容を書き込んでいってね! 今日は放課後に書店に行ったんだけど、思い出の作品を見つけてついつい時間を忘れて立ち読みしちゃった。みんなも思い出の本とかあるかな?』
人生相談のコメントが書き込まれるまでの繋ぎとして今日あった出来事を話し出した藤崎さん。
配信を数多くこなしているからかかなり慣れている。
それと声が柔らかくて可愛らしい。
『最初の人生相談、お悩みは塾通いのガリ勉さんから。模試の判定がCでした。志望校を諦めた方がいいでしょうか?』
オレは配信を聴きながらコメント入力画面に文章を打ち込んでいた。
このまま黙ってクラス替えまで、いや、卒業するまで1人のリスナーとして藤崎さんの配信を聴くことはできる。
だが、配信者のリアルを知っているからこそ、プライベートを覗き見しているような気がして罪悪感が込み上げてくる。
配信を聴いておきながら学校では何事も無かったかのように接する。
それは難しい。頑張ったところでいつか必ず綻びが生じる。
隣の席だからこれからも接点は増え続ける一方だ。
グループワーク、掃除、班別行動。学校行事もある。
配信を聴かなければ全ては丸く収まるが、気になる女の子の声が聞けるなら聴きたいと思うのが世の男子高校生じゃないだろうか。
颯や里緒奈には否定したが、どうやらオレは藤崎さんのことが気になっているらしい。
『塾通いのガリ勉さんは無理だから諦めた方がいいって言われたらそれで諦めちゃうの? 志望校を決めた時の気持ちを思い出せば諦めるなんて選択肢は出ないんじゃないかな? 勘違いしないで欲しいけど別に志望校を変更するなって訳じゃないからね。自分に合ったレベルの学校に進学するのも全然良いと思うし。ただ私の意見を諦める理由にして欲しくはないかな』
藤崎さんは自分の意見を言語化させて伝える能力が高い。
当たり障りの無い答えを出すのでは無く、藤崎さんの思うがまま嘘偽りのない言葉を聞けるからこの配信は人気なのだろう。
それから相談がいくつか読まれた頃、オレはコメントの送信ボタンを押した。
『深瀬:クラスメイトが配信者として活動しています。クラスではそのことは隠しているみたいです。配信をきっかけに仲良くなりたいのですが活動について触れたら嫌われてしまうか心配です。藤崎花火さんは友人から配信について話し掛けられたらどう思いますか?』
書店を後にしたオレ達はゲームセンターにやってきた。
UFOキャッチャーの景品で今期のアニメキャラのフィギュアに一目惚れした颯が1000円投入するも微塵も取れる気配が無いまま終了。
本人は相当悔しがっていたがアルバイトをしていない高校生には金銭的に限界がある。
また次の機会にと意気込んでいたのでその時は付き合うとしよう。
「秋斗先輩、これやりたいです!」
「よし3人でやるか」
「ビリだった人はアイス奢りです」
「俺もう金無いんだけど」
里緒奈の提案でカーレースで競うことに。
3人横並びでオレ、里緒奈、颯の順番で座席に座る。
足元の投入口にお金を入れ、キャラクターを選択して程なくしてレースが始まる。
アイテムを使って敵を妨害しながらコースを3周すればゴールだ。
1周目は特に大きなハプニングも無く、完全にドングリの背比べ状態で2周目に突入した。
「秋斗先輩、藤崎先輩と話してた時、鼻の下伸びてましたよ。やっぱり好きなんですか?」
里緒奈が拗ねたように唇を尖らせる。
画面上では里緒奈から繰り出された妨害アイテムを食らい、順位が入れ替わった。
「そんなんじゃない。女子と話す時のオレの顔は大体あんな感じだ」
「私だって女子なんですけど」
「里緒奈は幼馴染で昔から知ってるし、暇さえあれば一緒にいただろ? だから耐性みたいなものができてるのかもしれないな」
加速アイテムを使って里緒奈との距離を詰める。
「つまり私には先輩をドキドキさせるだけの魅力が無いってことか。確かに藤崎先輩と比べたらまだ小さいかもしれないけど、それでも日に日に大きくなってきてるんだけどな」
終始小声で何を言っているのか分からなかったが、片手で自分の胸を揉んでいる辺り、里緒奈の中で変な解釈が行われたことは間違いない。
レースは終盤に差し掛かり、里緒奈越しに一言も声を発していない颯の様子を覗き込むと必死にアイテムボタンを連打していた。
「あいつ、どんだけ奢りたくないんだよ」
オレと里緒奈の間に流れる空気とは別な空気が流れていた。
1位が颯、2位が里緒奈、3位がオレという結果になった。
オレの敗因は途中から一切ゲームに集中できていなかった。これに尽きる。
自動販売機で人数分のアイスを買い、フードコートで軽く時間を潰してからこの日は解散となった。
—2—
夕食を終え、自室で購入したラノベに没頭しているとスマホの通知音が鳴った。
ロック画面には『藤崎花火さんの配信が始まりました。』の文字が。
『0→100』のイラスト配信の通知設定でさえオンにしていないのにオレは一体何をしているんだか。
クラスメイトの配信を陰で聴いているとバレたら恥ずかしさと申し訳なさで死んでしまうかもしれない。
それでも気になってしまうのだから仕方がない。
配信アプリを起動させ、【藤崎花火の人生相談枠】に潜り込む。
『あーあー、それではぼちぼち人生相談を始めたいと思います。みんな、コメントで相談内容を書き込んでいってね! 今日は放課後に書店に行ったんだけど、思い出の作品を見つけてついつい時間を忘れて立ち読みしちゃった。みんなも思い出の本とかあるかな?』
人生相談のコメントが書き込まれるまでの繋ぎとして今日あった出来事を話し出した藤崎さん。
配信を数多くこなしているからかかなり慣れている。
それと声が柔らかくて可愛らしい。
『最初の人生相談、お悩みは塾通いのガリ勉さんから。模試の判定がCでした。志望校を諦めた方がいいでしょうか?』
オレは配信を聴きながらコメント入力画面に文章を打ち込んでいた。
このまま黙ってクラス替えまで、いや、卒業するまで1人のリスナーとして藤崎さんの配信を聴くことはできる。
だが、配信者のリアルを知っているからこそ、プライベートを覗き見しているような気がして罪悪感が込み上げてくる。
配信を聴いておきながら学校では何事も無かったかのように接する。
それは難しい。頑張ったところでいつか必ず綻びが生じる。
隣の席だからこれからも接点は増え続ける一方だ。
グループワーク、掃除、班別行動。学校行事もある。
配信を聴かなければ全ては丸く収まるが、気になる女の子の声が聞けるなら聴きたいと思うのが世の男子高校生じゃないだろうか。
颯や里緒奈には否定したが、どうやらオレは藤崎さんのことが気になっているらしい。
『塾通いのガリ勉さんは無理だから諦めた方がいいって言われたらそれで諦めちゃうの? 志望校を決めた時の気持ちを思い出せば諦めるなんて選択肢は出ないんじゃないかな? 勘違いしないで欲しいけど別に志望校を変更するなって訳じゃないからね。自分に合ったレベルの学校に進学するのも全然良いと思うし。ただ私の意見を諦める理由にして欲しくはないかな』
藤崎さんは自分の意見を言語化させて伝える能力が高い。
当たり障りの無い答えを出すのでは無く、藤崎さんの思うがまま嘘偽りのない言葉を聞けるからこの配信は人気なのだろう。
それから相談がいくつか読まれた頃、オレはコメントの送信ボタンを押した。
『深瀬:クラスメイトが配信者として活動しています。クラスではそのことは隠しているみたいです。配信をきっかけに仲良くなりたいのですが活動について触れたら嫌われてしまうか心配です。藤崎花火さんは友人から配信について話し掛けられたらどう思いますか?』