—1—
物語も終盤に差し掛かると全体を通しての完成度をより一層強く意識するようになる。
書き残したことはないか。
伏線は全部回収したか。
キャラクターの魅力を引き出すことができたか。
盛り上がるイベントを随所に散りばめられているか。
ラストシーンに説得力があるか。
読後感がいいか。
あのシーンの主人公のセリフは本当に必要だったか。別の言葉に置き換えた方が読者に伝わるのではないか。
そんなことを考え出したら他のところも気になり出してキリがない。
自身を作品の中に憑依させて登場人物と共に最後まで駆け抜ける。
修正を掛けるのはその後だ。
今はこの熱量をそのまま作品に落とし込む。
外野の意見は気にするな。
『人嫌いのクラスメイトが茜色に染まるまで』はオレにしか書けない。
オレが最後まで導かなくてはならない。
藤崎さんと電話をしたのが月曜日。
それからオレは執筆に打ち込んだ。今までの遅れを取り戻すように。
高校2年生の夏を小説に捧げた。青春を捧げた。
食事、睡眠、排泄。
生存する上で必要最低限の生理現象を除いて大半の時間パソコンと向き合った。作品と向き合った。
変わらない景色、変わらない日常を過ごしているせいで曜日感覚が無くなり、ゴミ捨てを忘れた。
気付けば週末。
締め切ったカーテンの隙間から空を見上げると月が輝いていた。
気のせいかもしれないがブルーライトでやられた目が回復していくようなそんな感覚になった。
ぼんやり月を眺めているとスマホに通知が入った。
ロック画面には『藤崎花火さんの配信が始まりました。』と表示されている。
部活をして、配信で人生相談に乗って、藤崎さんも体力があるな。
配信アプリを開いて相談枠のタイトルを見て手が止まる。
【緊急配信 藤崎花火の人生相談枠♯170】
「緊急配信?」
これまでとは異なる見出しに疑問を感じながらも配信枠を開く。
『——予告なしの緊急配信だったんですけど集まって頂きありがとうございます。今日は私が配信活動を始めたきっかけについて話したいと思います。私が人生相談を始めたきっかけでもあります』
普段とは異なる時間帯の配信ということもあって、視聴者数はそれほど多くない。
けれど、藤崎さんは淡々と言葉を紡いでいく。
まるで特定の誰かに想いを伝えるように。
『中学生の頃、私は夢を失いました。理由は嫌がらせです』
重い口調で藤崎さんが話し出す。
『とある運動部に所属していた私は先輩の引退が掛かった大事な試合でミスをしてしまいました。結果的にチームは敗退。先輩は引退することになりました。部は新体制となり、次の目標に向かって進み始めましたがチームメイトの中にはミスをした私がスタメンを張っていることを快く思わない人もいました』
自身の過去を赤裸々に語る藤崎さん。
『嫌がらせは日に日にエスカレートしていきました。私は夢を叶える為に耐え続けていましたが体が限界を迎えました。部を自主退部してしばらくベッドの上で生活をすることになりました』
過去の配信ではあくまでも知り合いの話としてエピソードを話していたが今回は自分自身の体験として話している。
『夢を失った私は真剣に生きる意味について考えていました。何の為に生きるのか。目標を失ってまで生きる意味はあるのか。来る日も来る日も自問自答を繰り返す私を見兼ねて母が気分転換に色々な場所に連れていってくれました』
藤崎さんを心配するコメントが次々流れていく。
『観光スポットを巡り、自然と触れ合うことで夢や憧れは薄れていきました。けど、完全に消えてはくれません。ふとした瞬間にフラッシュバックするんです。夢を追いかけていた自分自身の姿を。心は夢を追いかけたいと言っているのに体が拒絶反応を起こす。嫌がらせがトラウマとなって体を蝕んでいたんです』
スマホの音量を上げてベッドに腰を下ろした。
何も言葉が出てこない。
オレは藤崎さんの体験談に黙って耳を傾けることしかできない。
『嫌な記憶が蘇りそうになったら読書をして気を紛らわせていました。フィクションの世界に潜り込むことで現実逃避していたのかもしれません。ある日、とあるWEB小説のタイトルに惹かれて何気なく読み始めたら目から涙が溢れていました。私が置かれた現状と、苦難に立ち向かうヒロインの姿がリンクして見えたからかもしれません』
ドクンと心臓が跳ねる。
どこかで聞いたことのある話。
もしや、これはオレの小説の話じゃないか?
『一気に最後まで読み終えた私は感謝の気持ちを伝える為に作者にコメントを投稿しました』
【作者様の作品に人生を救われました。夢を失ってこれからどう生きていこうか途方に暮れていましたが、ヒロインの諦めないで前に進む姿を見て私も頑張ろうと思えました。素敵な作品に出会えてよかったです。ありがとうございました】
「嘘だろ。あのコメントは藤崎さんだったのか……」
オレが創作に対する考え方を変えるきっかけになったコメント。
それが藤崎さんのコメントだったとは。
これをもう運命と呼ばずに何と呼べばいい。
『コメントを投稿した後もしばらく放心状態になっていました。今思えば物語の余韻に浸っていたんだと思います。言葉が持つ力に可能性を感じた私は自分でも何かできないか考えました。自分には物語を作る才能も、絵を描く才能もない。人々を感動させるような能力はない。ただ、悩みを持つ人に寄り添うことはできるんじゃないか。1度夢を失った私だからこそ同じような悩みを持つ人に寄り添えるんじゃないか。物語の力に人生を動かされた私は声で勇気を与えていきたい』
短く息継ぎをして藤崎さんが言葉を続ける。
『そうして配信アプリVOICEに登録して人生相談枠を始めました。それから1年、まさか私の人生を変えた作品の作者と同じ高校に通うことになるとは思いませんでした』
穏やかだったコメント欄が一転驚きの声で溢れ返った。
『本当人生何があるか分からないよね。と、まあ、以上が私が配信を始めたきっかけでした。えっと、なになに。私が読んだ本の作品名を教えて欲しい? 内緒です。思い出の本なので私と作者さんだけの秘密にさせて下さい』
オレの作品が藤崎さんの人生を変えていた。
誰かの人生に影響を与えていた。
それを知って胸が熱くなった。
小説を書いていて良かった。
—2—
8月23日。
仙台駅近くのアーケードにオレと藤崎さんはいた。
「藤崎さんはたい焼き頭から食べる派? 尻尾から食べる派?」
「頭から食べるよ。ほらっ」
薄皮たい焼きにかじりついた藤崎さんが断面図を見せてきた。
あんこがぎっしりと詰まっている。
「深瀬くんも頭からでしょ? ていうか尻尾から食べる人あんまり見たことないかも」
「言われてみればオレもないかも」
「ね! 絶対頭から食べた方が美味しいよ」
約束通り23日に仙台食べ歩きデートに来ているということはオレの原稿が仕上がったことを意味している。
藤崎さんの配信を聴いてからラストシーンに取り掛かって泣きながら最後まで書き切った。
自分の作品にあそこまで感情移入するとは思わなかった。
「次は何食べたい?」
「ひょうたん揚げ食べたい」
「いいね。お店ってもうちょい向こうだっけ?」
「うん、確かそうだったと思う」
思えば付き合ってからこうして並んで歩くのは初めてだ。
藤崎さんは部活に、オレは原稿に追われていたからな。
オレの肩くらいしか身長のない藤崎さん。
小動物みたいで可愛すぎる。
「ねえ、深瀬くん」
「ん? どうかした?」
藤崎さんがチラッ、チラッと横目でこちらの様子を窺ってきた。
何か言いたいけど、言うか迷っている。そんな感じだ。
「私と深瀬くんは付き合ってるでしょ?」
「うん、そうだね?」
改めての確認にオレも語尾が若干疑問系になってしまう。
「よかったらでいいんだけど、お互い名前で呼び合わない?」
「分かった。けど、名前で呼び合おうってかしこまっちゃうと照れ臭いね」
「そう考えると美結と新川くんは凄いね」
「呼び合ってれば案外慣れるもんなのかな?」
「どうだろ? しばらく恥ずかしい気がする。でもいっぱい呼べばすぐに慣れるか。あ、秋斗くんは夏と冬だったらどっちが好き?」
急に謎の質問をされた。
それよりも藤崎さんに名前を呼ばれた破壊力が凄い。
「夏の方が好きかな。お祭りもあるし、花火も見れるし。祭は?」
「私も夏が好き!」
名前を呼ばれて嬉しかったのか藤崎さんがスキップをしてひょうたん揚げの店の前の列に並びに行った。
付き合ってから藤崎さんが感情を全面に出してくれるようになったから可愛すぎて辛い。幸せすぎる。この笑顔をずっと守りたい。
仙台駅でずんだシェイクを飲んで、薄皮たい焼きを食べて、これからひょうたん揚げを食べて、オレ達の食べ歩きはまだまだ終わらない。
「秋斗くん、青春小説大賞の結果っていつ出るの?」
「11月だからまだまだ先だよ。長編の賞は選考期間も長いんだよね」
「そっか。絶対入賞してると思うんだけどなー」
藤崎さんが店員から受け取ったひょうたん揚げにかぶりついた。
誰よりも早くオレの作品を読んだ藤崎さんが太鼓判を押してくれるなら自信が湧いてくる。
事実、今作にはそれだけの熱量を込めることができた。
「締め切りまでにブラッシュアップして結果が出るまで待つしかないね」
「良い結果が出ますように」
藤崎さんがひょうたん揚げが刺さっていた串を両手で挟んで祈るようにオレを拝んできた。
一体これは何の儀式なんだ。
串をゴミ箱に捨てて次なる目的地に向かって歩き出す。
小説家らしく現状を表現するならオレ達の戦いはまだこれからだぜ。ってところか。
「秋斗くん、かき氷食べよ!」
「はいよ!」
食べ歩きと創作をかけた我ながら上手い表現だったと思うが、案外そうでもなかったか。
さて、かき氷何味にしようかな。
—3—
しばらくして青春小説大賞の審査員特別賞の受賞連絡があるのだが、それはまだ誰も知らない。
第1章 クリエイターだって青春がしたい完結。
物語も終盤に差し掛かると全体を通しての完成度をより一層強く意識するようになる。
書き残したことはないか。
伏線は全部回収したか。
キャラクターの魅力を引き出すことができたか。
盛り上がるイベントを随所に散りばめられているか。
ラストシーンに説得力があるか。
読後感がいいか。
あのシーンの主人公のセリフは本当に必要だったか。別の言葉に置き換えた方が読者に伝わるのではないか。
そんなことを考え出したら他のところも気になり出してキリがない。
自身を作品の中に憑依させて登場人物と共に最後まで駆け抜ける。
修正を掛けるのはその後だ。
今はこの熱量をそのまま作品に落とし込む。
外野の意見は気にするな。
『人嫌いのクラスメイトが茜色に染まるまで』はオレにしか書けない。
オレが最後まで導かなくてはならない。
藤崎さんと電話をしたのが月曜日。
それからオレは執筆に打ち込んだ。今までの遅れを取り戻すように。
高校2年生の夏を小説に捧げた。青春を捧げた。
食事、睡眠、排泄。
生存する上で必要最低限の生理現象を除いて大半の時間パソコンと向き合った。作品と向き合った。
変わらない景色、変わらない日常を過ごしているせいで曜日感覚が無くなり、ゴミ捨てを忘れた。
気付けば週末。
締め切ったカーテンの隙間から空を見上げると月が輝いていた。
気のせいかもしれないがブルーライトでやられた目が回復していくようなそんな感覚になった。
ぼんやり月を眺めているとスマホに通知が入った。
ロック画面には『藤崎花火さんの配信が始まりました。』と表示されている。
部活をして、配信で人生相談に乗って、藤崎さんも体力があるな。
配信アプリを開いて相談枠のタイトルを見て手が止まる。
【緊急配信 藤崎花火の人生相談枠♯170】
「緊急配信?」
これまでとは異なる見出しに疑問を感じながらも配信枠を開く。
『——予告なしの緊急配信だったんですけど集まって頂きありがとうございます。今日は私が配信活動を始めたきっかけについて話したいと思います。私が人生相談を始めたきっかけでもあります』
普段とは異なる時間帯の配信ということもあって、視聴者数はそれほど多くない。
けれど、藤崎さんは淡々と言葉を紡いでいく。
まるで特定の誰かに想いを伝えるように。
『中学生の頃、私は夢を失いました。理由は嫌がらせです』
重い口調で藤崎さんが話し出す。
『とある運動部に所属していた私は先輩の引退が掛かった大事な試合でミスをしてしまいました。結果的にチームは敗退。先輩は引退することになりました。部は新体制となり、次の目標に向かって進み始めましたがチームメイトの中にはミスをした私がスタメンを張っていることを快く思わない人もいました』
自身の過去を赤裸々に語る藤崎さん。
『嫌がらせは日に日にエスカレートしていきました。私は夢を叶える為に耐え続けていましたが体が限界を迎えました。部を自主退部してしばらくベッドの上で生活をすることになりました』
過去の配信ではあくまでも知り合いの話としてエピソードを話していたが今回は自分自身の体験として話している。
『夢を失った私は真剣に生きる意味について考えていました。何の為に生きるのか。目標を失ってまで生きる意味はあるのか。来る日も来る日も自問自答を繰り返す私を見兼ねて母が気分転換に色々な場所に連れていってくれました』
藤崎さんを心配するコメントが次々流れていく。
『観光スポットを巡り、自然と触れ合うことで夢や憧れは薄れていきました。けど、完全に消えてはくれません。ふとした瞬間にフラッシュバックするんです。夢を追いかけていた自分自身の姿を。心は夢を追いかけたいと言っているのに体が拒絶反応を起こす。嫌がらせがトラウマとなって体を蝕んでいたんです』
スマホの音量を上げてベッドに腰を下ろした。
何も言葉が出てこない。
オレは藤崎さんの体験談に黙って耳を傾けることしかできない。
『嫌な記憶が蘇りそうになったら読書をして気を紛らわせていました。フィクションの世界に潜り込むことで現実逃避していたのかもしれません。ある日、とあるWEB小説のタイトルに惹かれて何気なく読み始めたら目から涙が溢れていました。私が置かれた現状と、苦難に立ち向かうヒロインの姿がリンクして見えたからかもしれません』
ドクンと心臓が跳ねる。
どこかで聞いたことのある話。
もしや、これはオレの小説の話じゃないか?
『一気に最後まで読み終えた私は感謝の気持ちを伝える為に作者にコメントを投稿しました』
【作者様の作品に人生を救われました。夢を失ってこれからどう生きていこうか途方に暮れていましたが、ヒロインの諦めないで前に進む姿を見て私も頑張ろうと思えました。素敵な作品に出会えてよかったです。ありがとうございました】
「嘘だろ。あのコメントは藤崎さんだったのか……」
オレが創作に対する考え方を変えるきっかけになったコメント。
それが藤崎さんのコメントだったとは。
これをもう運命と呼ばずに何と呼べばいい。
『コメントを投稿した後もしばらく放心状態になっていました。今思えば物語の余韻に浸っていたんだと思います。言葉が持つ力に可能性を感じた私は自分でも何かできないか考えました。自分には物語を作る才能も、絵を描く才能もない。人々を感動させるような能力はない。ただ、悩みを持つ人に寄り添うことはできるんじゃないか。1度夢を失った私だからこそ同じような悩みを持つ人に寄り添えるんじゃないか。物語の力に人生を動かされた私は声で勇気を与えていきたい』
短く息継ぎをして藤崎さんが言葉を続ける。
『そうして配信アプリVOICEに登録して人生相談枠を始めました。それから1年、まさか私の人生を変えた作品の作者と同じ高校に通うことになるとは思いませんでした』
穏やかだったコメント欄が一転驚きの声で溢れ返った。
『本当人生何があるか分からないよね。と、まあ、以上が私が配信を始めたきっかけでした。えっと、なになに。私が読んだ本の作品名を教えて欲しい? 内緒です。思い出の本なので私と作者さんだけの秘密にさせて下さい』
オレの作品が藤崎さんの人生を変えていた。
誰かの人生に影響を与えていた。
それを知って胸が熱くなった。
小説を書いていて良かった。
—2—
8月23日。
仙台駅近くのアーケードにオレと藤崎さんはいた。
「藤崎さんはたい焼き頭から食べる派? 尻尾から食べる派?」
「頭から食べるよ。ほらっ」
薄皮たい焼きにかじりついた藤崎さんが断面図を見せてきた。
あんこがぎっしりと詰まっている。
「深瀬くんも頭からでしょ? ていうか尻尾から食べる人あんまり見たことないかも」
「言われてみればオレもないかも」
「ね! 絶対頭から食べた方が美味しいよ」
約束通り23日に仙台食べ歩きデートに来ているということはオレの原稿が仕上がったことを意味している。
藤崎さんの配信を聴いてからラストシーンに取り掛かって泣きながら最後まで書き切った。
自分の作品にあそこまで感情移入するとは思わなかった。
「次は何食べたい?」
「ひょうたん揚げ食べたい」
「いいね。お店ってもうちょい向こうだっけ?」
「うん、確かそうだったと思う」
思えば付き合ってからこうして並んで歩くのは初めてだ。
藤崎さんは部活に、オレは原稿に追われていたからな。
オレの肩くらいしか身長のない藤崎さん。
小動物みたいで可愛すぎる。
「ねえ、深瀬くん」
「ん? どうかした?」
藤崎さんがチラッ、チラッと横目でこちらの様子を窺ってきた。
何か言いたいけど、言うか迷っている。そんな感じだ。
「私と深瀬くんは付き合ってるでしょ?」
「うん、そうだね?」
改めての確認にオレも語尾が若干疑問系になってしまう。
「よかったらでいいんだけど、お互い名前で呼び合わない?」
「分かった。けど、名前で呼び合おうってかしこまっちゃうと照れ臭いね」
「そう考えると美結と新川くんは凄いね」
「呼び合ってれば案外慣れるもんなのかな?」
「どうだろ? しばらく恥ずかしい気がする。でもいっぱい呼べばすぐに慣れるか。あ、秋斗くんは夏と冬だったらどっちが好き?」
急に謎の質問をされた。
それよりも藤崎さんに名前を呼ばれた破壊力が凄い。
「夏の方が好きかな。お祭りもあるし、花火も見れるし。祭は?」
「私も夏が好き!」
名前を呼ばれて嬉しかったのか藤崎さんがスキップをしてひょうたん揚げの店の前の列に並びに行った。
付き合ってから藤崎さんが感情を全面に出してくれるようになったから可愛すぎて辛い。幸せすぎる。この笑顔をずっと守りたい。
仙台駅でずんだシェイクを飲んで、薄皮たい焼きを食べて、これからひょうたん揚げを食べて、オレ達の食べ歩きはまだまだ終わらない。
「秋斗くん、青春小説大賞の結果っていつ出るの?」
「11月だからまだまだ先だよ。長編の賞は選考期間も長いんだよね」
「そっか。絶対入賞してると思うんだけどなー」
藤崎さんが店員から受け取ったひょうたん揚げにかぶりついた。
誰よりも早くオレの作品を読んだ藤崎さんが太鼓判を押してくれるなら自信が湧いてくる。
事実、今作にはそれだけの熱量を込めることができた。
「締め切りまでにブラッシュアップして結果が出るまで待つしかないね」
「良い結果が出ますように」
藤崎さんがひょうたん揚げが刺さっていた串を両手で挟んで祈るようにオレを拝んできた。
一体これは何の儀式なんだ。
串をゴミ箱に捨てて次なる目的地に向かって歩き出す。
小説家らしく現状を表現するならオレ達の戦いはまだこれからだぜ。ってところか。
「秋斗くん、かき氷食べよ!」
「はいよ!」
食べ歩きと創作をかけた我ながら上手い表現だったと思うが、案外そうでもなかったか。
さて、かき氷何味にしようかな。
—3—
しばらくして青春小説大賞の審査員特別賞の受賞連絡があるのだが、それはまだ誰も知らない。
第1章 クリエイターだって青春がしたい完結。



