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 放課後。電車を乗り継ぎ、揺られることおよそ40分。
 妙にテンションの高い里緒奈の弾丸トークに付き合っていると右手に目的地が見えてきた。
 駐車台数4500台という広大な敷地に3階建ての白を基調とした外観が威圧感を放つ。
 地元で最大級の大型ショッピングモールだ。

 駅と2階のデッキが直結しているため、車を持たない学生でも気軽に足を運ぶことができる。
 書店に寄るとなると何店舗か候補はあったが、今回は飽きっぽい里緒奈の性格を考慮してアパレルショップやゲームセンター、CDショップなど、里緒奈の興味を惹きそうな店が集まっている複合型商業施設を選んだ。

「秋斗先輩、私CDショップに行きたいです!」

「後でな。まずは書店だ。3階だからエスカレーターで行くぞ」

「はーい」

 元気の良い返事と共に軽やかなステップでエスカレーターに乗り込む。
 吹き抜けになっている1階を見下ろして「平日なのに意外と人いますね」と微笑む里緒奈。
 見え方によっては可愛い後輩とデートをしているように見えるかもしれない。
 だが、残念ながらそれはない。
 なぜならこの場にはオレ達の他にもう1人いるのだから。

「で、なんで(はやて)先輩がいるんですか?」

「あはは、酷いな里緒奈ちゃん。元々俺も行く予定だったんだよ」

 高校を出てから今まで空気役に徹していた颯にようやく触れた。
 エスカレーターの上から睨む里緒奈に颯も笑って取り繕うので精一杯だ。

「秋斗先輩、そんなこと一言も言ってませんでしたよね? 詐欺ですか? 私を騙したんですか?」

「2人で行くとも言ってないだろ。あと公の場で人を詐欺師呼ばわりするな」

 極力こちらを見ないようにしてくれてはいるがそれでも周りの視線が痛い。

「確かに。まあここまで来たら仕方ないですね。くれぐれも私と秋斗先輩のデートの邪魔だけはしないで下さいよ」

「了解。里緒奈ちゃんはそう言ってますけど、秋斗パイセン」

「付き合ってないから気にするな。いつもの冗談だ」

「なるほどなるほど」

 颯がからかうように笑みを浮かべた。
 本当に違うから変に茶化さないでほしい。

 エスカレーターを降りてすぐに書店が目に入る。
 正面にはメディア化された話題の作品がド派手なポスターと共に山積みされていた。
 柱に設置されているモニターからは映画の予告が流れていて通行人の足を止める役割を果たしている。

 その隣のブロックには『〇〇大賞受賞!』というインパクトのある販促物と共に世間を賑わせたタイトルが並べられていた。
 店舗の入り口は本にそれほど興味の無い通行人に対してどれだけアプローチを掛けられるかが鍵となってくる。
 そういった意味でもこの書店は気合いが入っていてオレは好きだ。

 本日の目当てであるライトノベルは店内の壁面に展開されている。
 近年、深夜枠のアニメ化作品が増えている傾向もあってか、書店の中でもそれなりに売場面積が当てられるようになった。
 まあ、漫画には全然及ばないけど。

「お、あったあった」

 新刊コーナーに平積みされていた1冊を手に取る。
 高校を舞台にした現代異能力バトルモノ。
 そのシリーズ第5巻だ。

「それ面白いんですか?」

 目次や挿絵を眺めていると里緒奈が覗き込んできた。
 密着したことで柑橘系の甘い香りが鼻をくすぐる。
 あまり意識したことが無かったが、香水とか付けているのか?

「先輩?」

 里緒奈の声で現実に帰ってきた。

「序盤は王道的な展開なんだけど復讐と成長をテーマにしててとにかく熱いんだよ。オレは近い将来アニメ化すると思ってる。な、颯?」

「そうだな。販売部数も調子が良いみたいだし、いつの時代もバトルモノは人気が高いからな。そんで今回の表紙イラストも神だ」

 目線の高さまで本を持ち上げて颯がそう感想を漏らした。
 小説は中身で勝負するのが大前提だが、毎月数十作品が発売される競合の中から自分の作品を手に取ってもらうにはイラストも重要な要素となっている。
 オレはあまり好きではないが『絵師ガチャ』なんて言葉があるくらいだしな。

「男子ってバトルとか努力とか好きですよねー。私は秋斗先輩が書く青春小説も好きですよ。まだ売ってますかね?」

 青春系の小説はライトノベルの棚とは別に設けられている。
 『ラストで泣ける』など、涙をテーマにした作品でまとめられていることが多い。
 オレのデビュー作品を探して隣の通路に回り込んだ里緒奈の後を追う。
 と、そこには、

「藤崎さん?」

 立ち読みをする藤崎さんの姿があった。

「深瀬くんと新川くんと……?」

 藤崎さんが本から目線を上げて小首を傾げる。

「1年の望月里緒奈です」

 初対面だからか里緒奈が外行きの振る舞いで後輩らしくペコリと頭を下げた。

「お買い物?」

「うん、新刊発売日だったから」

 そう言って手にしていたラノベをチラッと藤崎さんに見せる。

「そっか」

「藤崎さんは?」

「私は友達の付き添いで来てて。多分今お会計してると思う」

「そうなんだ」

 会話が途切れる。
 颯と里緒奈もいるから会話の展開が難しい。
 それにプライベートの藤崎さんと話していると思うと変に緊張する。
 本屋で立ち話をしていても他のお客さんの迷惑になるし、ここらで切り上げた方が無難だろう。

「急に声掛けてごめん。オレたちそろそろ行くわ」

「うん、またね」

 体の前で小さく手を振る藤崎さんが可愛い。
 まさかこんな不意打ちがあるとは夢にも思わなかった。