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「この公園も随分と殺風景になったな」

 七夕花火の前日。
 オレは里緒奈に呼び出されて近所の公園に足を運んでいた。
 幼少期に滑り台やジャングルジムで遊んだ記憶が蘇るが、公園にそういった類いの遊具は1つも無くなっていた。
 どうやら安全性などの観点から撤去されたみたいだ。
 水飲み場とベンチが点在した落ち着いた空間へと生まれ変わっていた。

「秋斗先輩、なんか黄昏(たそがれ)てます?」

 ベンチに腰を掛け、砂場でトンネルを掘っていた男の子を眺めていると里緒奈がオレの顔を覗き込んできた。

「思い出の場所が変わってたら寂しくもなるだろ」

「覚えてますか? 高い所が苦手な私に秋斗先輩が大丈夫だからってジャングルジムの上から手を引っ張って無理矢理引き上げたの」

「ああ、今思うと結構危ないことしてたな」

「この間のライブで新曲にそのシーンを入れたんですけど気付きました?」

「うん、他にもオレと里緒奈がしてきたことが色々と詰まってたな」

「どうでした?」

「それはライブがって意味か?」

「それもありますけど……」

 里緒奈が恥ずかしそうに目を逸らした。
 恋に悩む少女が想い人に振り向いてもらおうと努力する歌。
 それが里緒奈の新曲だった。
 言わば告白のような歌だった。
 歌詞を読み取るに里緒奈の想い人というのがオレ。

「嬉しかったよ。幼稚園の頃に音楽発表会のステージで歌った里緒奈がライブのステージに1人で立って。堂々と歌って。心が震えたし、オレも頑張らなきゃって勇気をもらった」

「それは良かったです。それで、あの、気付いてると思うんですけど、新曲は秋斗先輩を想って作ったんですけど——」

「あ、猫だ」

 目の前を虎柄の猫が横切り、視線が奪われる。
 里緒奈の話が核心に触れる前に反射的に遮ってしまった。

 オレは最低だ。
 里緒奈の告白には答えることができない。
 オレは藤崎さんのことが好きだから。
 だが、それを伝えてしまったら里緒奈を傷つけてしまう。
 それだけじゃない。
 答えを出してしまったら今の関係が壊れてしまうかもしれない。
 幼稚園の頃から10年近く幼馴染として一緒の時間を過ごしてきた。
 それが失われてしまう。
 まだ心の準備ができていない。

 きっと里緒奈は覚悟を持ってオレに答えを求めようとしたはずなのに。
 それなのにオレは曖昧にして、話を逸らして、なんて卑怯なんだ。

 先延ばしにしたところで里緒奈を苦しめるだけなのに。

「先輩、明日七夕花火じゃないですか。一緒に行きませんか?」

「ごめん、明日は用事があるんだ」

「そう、なんですか。それは残念です。じゃあ琴ちゃんと彩芽と行ってきます」

「ああ、悪いな」

 里緒奈がベンチから立ち上がり、スカートを手でパンパンと払った。

「誘いも断られたことですし、そろそろ帰りますか」

 気まずくならないようにあえて茶化したように里緒奈がそう言った。
 里緒奈に対する後ろめたさで足取りの重くなったオレを察して里緒奈が歩くスピードを緩めた。
 そして、

「私、先輩のこと諦めませんからね」

 ギリギリ拾えるくらいの声量でそう呟いた。