それは昼休みのことでした。
「あのねっ。楓、秘密の相談があるんだけど……」
彼女、美優羽さんからあまりよろしくない表情で相談をされました。普段こんなことはあまりないので、私はとても驚きました。
美優羽さんは私の友人です。本人はいたって普通の人間だと言いますが、決してそんなことありません。
学年全体で10番以内にはなるくらい成績がいいですし、運動だって何をやらせても、すぐに上手くこなしてしまいます。
脚だって50メートル走で7.4秒を叩き出すほどの俊足です――ちなみに、高校1年生女子の平均タイムは8.88秒です――。
顔もとてもかわいらしい顔をしています。白銀のショートヘアーに、大きな瞳。顔のパーツ一つ一つが精巧に、美しく出来ています。
そして常に見せる明るい太陽のような表情。この顔は人をダメにする魅惑の表情だと言えます。
スタイルも非常にスレンダーで整った、美しい体つきをしています。
クラスメイトに聞いたら、10人中10人が美人だとか、かわいいという評価を口にするでしょう。
その証拠に、美優羽さんのファンクラブがあります。私もその一員です。そこには、男女問わず沢山の会員がいます。
そんな高い頭脳、運動能力、容姿を持ちながらも性格も明るく真面目で、誰にでも優しいのです。まさに出来すぎた人間と言ってもいいような人です。
そして、私が恋をしている人でもあります。
そんな美優羽さんが悩んでいると言うのですから、とても重大な問題に違いありません。私は話を聞きます。
「どういう悩みでしょうか?」
「そのね……、実は1週間くらい前誰かにつけられているような気がしてね……。昨日も帰る時に誰かにつけられてる感覚がしてね」
美優羽さんはそう語ります。なるほどつけられているですか。それはとても大変なことです。
ストーカー被害は重大な犯罪に繋がることも珍しくありません。一刻も早く解決するしかないでしょう。
ですが、それは無理な話です。なぜならその犯人は私だからです。昨日もしっかりとストーキングをしていました。
始めたのは2月の中旬から。きっかけはほんの出来心でした。もしも美優羽さんと一緒に帰れたらどれだけ楽しいのだろう、と思ったことがきっかけです。
一応一緒に帰ろうと誘われはしてるのですが、私は素直にその誘いに乗れず、断ってしまっています。
だから、こう言う形でも一緒に帰れたら楽しいのではないかと思い、始めてしまったのです。
最初は距離をかなり開けてストーキングしていましたが、一緒に帰れているという感覚が快感に変わり、もっと近くもっと近くと、徐々に感覚を詰めていってました。
最近、後を振り向かれる回数がかなり増えていると思っていましたが、流石にストーキングされてることに気づかれたみたいです。
「それでさ。琴姉にも相談したんだけど、効果があまりなくて……。だから、何かいい対策がないかなあって思って」
美優羽さんは頭に手を当てとても悩んでいます。さて、どうしましょうか。犯人が私だとバラしてしまうわけにはいきません。
「なるほど……。最近つけられていると」
私はそれっぽく考えてる風に装います。メガネをクイっと上げて、さらにその雰囲気を強めます。そうすれば、よく考えてくれてるように見えるはずです。
見せかけだけではいけません。何かそれらしいことも言わなければいけません。けど、私に辿り着いてしまうようなモノはダメです。
良さそうに見えて実は意味のない対策。それでいいのなら一つあります。
「無視すればいいんじゃないでしょうか?」
私は美優羽さんに言います。美優羽さんは少し驚いた表情をしています。
「これじゃ、解決しなさそうじゃない?」
美優羽さんは私にそう言います。まあ美優羽さんの言うこともご尤です。だって意味のない対策ですし。そしたらそれなりに理由のありそうな話をしましょう。
「反応するから、面白がってストーキングしているって側面もありそうな気がします。美優羽さんが何も気にしなければ、面白く無くなって飽きて辞めるんじゃないかなと思います」
私は真面目な顔して言いました。これで、大丈夫なはずです。私はそう思い少し安心していましたが、美優羽さんの表情は冴えません。
「そうかなあ……」
と、美優羽さんは呟きます。うーん、これは説明の失敗みたいです。もっとそれらしい事を言えば良かったでしょうか。そんなことを考えている時でした。
「美優羽ちゃーん!」
隣のクラスから奴が、私たちのところにやって来ました。
奴とは、美優羽さんの双子の姉の奏さんです。奏さんも美優羽さん並みに、というかそれ以上に頭脳と運動能力が優れています。
顔は、私は美優羽さんの方が好みですが、誰に聞いてもかわいいと言われるのは間違いないでしょう。
奏さんも例に漏れず、美優羽さんのようにファンクラブがあると聞いています。噂によると、他校の生徒までいるとかいないとか。
性格は非常におっとりとされていて、それでいて誰にでも優しいお方です。そんな方をなぜ奴と呼んだのか。
それは奏さんが私の憎き恋敵だからです。
美優羽さんは気づかれていないと思われているようですが、私は知っています。というか、みんなが知っていると思います。
奏さんのことが大好きなのであると。それが姉妹愛ではなく恋愛の方であると。
しかし、奏さんにはその気が全くないのです。なので、二人が両想いであるというわけではありません。ありませんが、私の恋にとっては大きな障壁です。
なので、どうしても仲良くなれないのです。
とは言え、あまりにも邪険な対応をして美優羽さんを悲しませるのも気が引けます。なので、凄くどっちつかずな感情になってしまうのです。
「楓、なんかすごい顔してるけどどうしたの?」
どうやら美優羽さんに気づかれてしまったようです。
「あっ、すいません。そんな顔していましたか?」
私は慌てて返事をしてしまいました。
「うん。すっごいどうしようか悩んでそうな複雑な顔してた。何かお姉ちゃんとあったの?」
「いえ。ちょっと……いえ、なんでもありません」
私は少し頬を緩ませ、誤魔化すように言いました。この場であなたの姉が私の恋敵だ、なんて言えませんからね。
「ふーん、そうなんだ」
美優羽さんは特に気にしてないようでした。これなら大丈夫なようです。
「ところで二人はどんな話をしていたの?」
と、奏さんはにこやかな表情で聞いてきます。どうしましょうか。ここで言ってもし何か特定に繋がるアドバイスをされたらたまったもんじゃありません。
しかし、ここではぐらかしては、美優羽さんの不信感を買ってしまいそうです。そんな事を考えていると、
「実は……」
美優羽さんが口を開きました。これは言われますね。となれば、私は何も邪魔をせず、黙っているのが正解なようです。
私は黙って美優羽さんの話を聞きます。奏さんも黙って話を真剣に聞いているようです。
「なるほどぉ。つけられているかぁ」
奏さんは顎に手を当て、何かを考えているようです。それから何か思いついた奏さんはこう言いました。
「それなら、一緒に帰らない?」
ほう。二人が一緒に帰るということですか。これで目撃者を増やしてしまおうって算段でしょうか。私はそう推測します。
「一緒に帰ってどうなるの?」
美優羽さんの問いに奏さんはこう答えます。
「ストーカー被害がなくなるとは思わないけど、一緒に帰ってれば人数が多いからストーカーさんは何もしてこないと思うよぉ。それなら危なくないから安心して帰れると思うんだぁ。ただ私が生徒会で遅くなるから待たせちゃうのが申し訳ないんだけど、美優羽ちゃんに何かある方が嫌だから、こうしようかなあって思ったのぉ」
確かに、二人でいるのなら私は何も手出しはしないでしょうし、変な動きは避けるでしょう。
しかし、これでは特定に繋がるとは言えません。私が尻尾を見せなければいいだけの話です。これは勝ちました。私の犯行はバレません。
私は心の感情を隠すよう、ひっそりと喜びます。
「いい考えだわ。じゃあ一緒に帰りましょう」
美優羽さんは奏さんの提案に乗るようです。よし、これで今日もストーキングができる。私がそう思っていた時でした。
「わかったわ。それじゃあ二人ともちょっと遅くなるけどよろしくねっ」
なんということでしょう。私も一緒に帰ろうと、誘ってきたではありませんか。
「えっ? 私もですか?」
私は戸惑いを隠せません。なんせ、二人だけの話と思っていたのですから。
「ダメ……だったかな?」
奏お姉ちゃんが困ったように言います。断ってもいいのですが、ここで断ると雰囲気悪くなりそうですし、私の行動が怪しまれてしまいます。
それに、こんな顔で頼まれたら断ろうという気にもなりません。仕方ありません。ここは誘いに乗りましょう。私は首を横に振ります。
「い、いえ。大丈夫ですよ」
そう言い切ると同時に笑みを浮かべて、少し悩んでいたことを誤魔化しておきます。少し誤算ですが、美優羽さんと一緒に帰ることを楽しみましょう。
こうして私は美優羽さん、奏さんと帰ることになりました。
「あのねっ。楓、秘密の相談があるんだけど……」
彼女、美優羽さんからあまりよろしくない表情で相談をされました。普段こんなことはあまりないので、私はとても驚きました。
美優羽さんは私の友人です。本人はいたって普通の人間だと言いますが、決してそんなことありません。
学年全体で10番以内にはなるくらい成績がいいですし、運動だって何をやらせても、すぐに上手くこなしてしまいます。
脚だって50メートル走で7.4秒を叩き出すほどの俊足です――ちなみに、高校1年生女子の平均タイムは8.88秒です――。
顔もとてもかわいらしい顔をしています。白銀のショートヘアーに、大きな瞳。顔のパーツ一つ一つが精巧に、美しく出来ています。
そして常に見せる明るい太陽のような表情。この顔は人をダメにする魅惑の表情だと言えます。
スタイルも非常にスレンダーで整った、美しい体つきをしています。
クラスメイトに聞いたら、10人中10人が美人だとか、かわいいという評価を口にするでしょう。
その証拠に、美優羽さんのファンクラブがあります。私もその一員です。そこには、男女問わず沢山の会員がいます。
そんな高い頭脳、運動能力、容姿を持ちながらも性格も明るく真面目で、誰にでも優しいのです。まさに出来すぎた人間と言ってもいいような人です。
そして、私が恋をしている人でもあります。
そんな美優羽さんが悩んでいると言うのですから、とても重大な問題に違いありません。私は話を聞きます。
「どういう悩みでしょうか?」
「そのね……、実は1週間くらい前誰かにつけられているような気がしてね……。昨日も帰る時に誰かにつけられてる感覚がしてね」
美優羽さんはそう語ります。なるほどつけられているですか。それはとても大変なことです。
ストーカー被害は重大な犯罪に繋がることも珍しくありません。一刻も早く解決するしかないでしょう。
ですが、それは無理な話です。なぜならその犯人は私だからです。昨日もしっかりとストーキングをしていました。
始めたのは2月の中旬から。きっかけはほんの出来心でした。もしも美優羽さんと一緒に帰れたらどれだけ楽しいのだろう、と思ったことがきっかけです。
一応一緒に帰ろうと誘われはしてるのですが、私は素直にその誘いに乗れず、断ってしまっています。
だから、こう言う形でも一緒に帰れたら楽しいのではないかと思い、始めてしまったのです。
最初は距離をかなり開けてストーキングしていましたが、一緒に帰れているという感覚が快感に変わり、もっと近くもっと近くと、徐々に感覚を詰めていってました。
最近、後を振り向かれる回数がかなり増えていると思っていましたが、流石にストーキングされてることに気づかれたみたいです。
「それでさ。琴姉にも相談したんだけど、効果があまりなくて……。だから、何かいい対策がないかなあって思って」
美優羽さんは頭に手を当てとても悩んでいます。さて、どうしましょうか。犯人が私だとバラしてしまうわけにはいきません。
「なるほど……。最近つけられていると」
私はそれっぽく考えてる風に装います。メガネをクイっと上げて、さらにその雰囲気を強めます。そうすれば、よく考えてくれてるように見えるはずです。
見せかけだけではいけません。何かそれらしいことも言わなければいけません。けど、私に辿り着いてしまうようなモノはダメです。
良さそうに見えて実は意味のない対策。それでいいのなら一つあります。
「無視すればいいんじゃないでしょうか?」
私は美優羽さんに言います。美優羽さんは少し驚いた表情をしています。
「これじゃ、解決しなさそうじゃない?」
美優羽さんは私にそう言います。まあ美優羽さんの言うこともご尤です。だって意味のない対策ですし。そしたらそれなりに理由のありそうな話をしましょう。
「反応するから、面白がってストーキングしているって側面もありそうな気がします。美優羽さんが何も気にしなければ、面白く無くなって飽きて辞めるんじゃないかなと思います」
私は真面目な顔して言いました。これで、大丈夫なはずです。私はそう思い少し安心していましたが、美優羽さんの表情は冴えません。
「そうかなあ……」
と、美優羽さんは呟きます。うーん、これは説明の失敗みたいです。もっとそれらしい事を言えば良かったでしょうか。そんなことを考えている時でした。
「美優羽ちゃーん!」
隣のクラスから奴が、私たちのところにやって来ました。
奴とは、美優羽さんの双子の姉の奏さんです。奏さんも美優羽さん並みに、というかそれ以上に頭脳と運動能力が優れています。
顔は、私は美優羽さんの方が好みですが、誰に聞いてもかわいいと言われるのは間違いないでしょう。
奏さんも例に漏れず、美優羽さんのようにファンクラブがあると聞いています。噂によると、他校の生徒までいるとかいないとか。
性格は非常におっとりとされていて、それでいて誰にでも優しいお方です。そんな方をなぜ奴と呼んだのか。
それは奏さんが私の憎き恋敵だからです。
美優羽さんは気づかれていないと思われているようですが、私は知っています。というか、みんなが知っていると思います。
奏さんのことが大好きなのであると。それが姉妹愛ではなく恋愛の方であると。
しかし、奏さんにはその気が全くないのです。なので、二人が両想いであるというわけではありません。ありませんが、私の恋にとっては大きな障壁です。
なので、どうしても仲良くなれないのです。
とは言え、あまりにも邪険な対応をして美優羽さんを悲しませるのも気が引けます。なので、凄くどっちつかずな感情になってしまうのです。
「楓、なんかすごい顔してるけどどうしたの?」
どうやら美優羽さんに気づかれてしまったようです。
「あっ、すいません。そんな顔していましたか?」
私は慌てて返事をしてしまいました。
「うん。すっごいどうしようか悩んでそうな複雑な顔してた。何かお姉ちゃんとあったの?」
「いえ。ちょっと……いえ、なんでもありません」
私は少し頬を緩ませ、誤魔化すように言いました。この場であなたの姉が私の恋敵だ、なんて言えませんからね。
「ふーん、そうなんだ」
美優羽さんは特に気にしてないようでした。これなら大丈夫なようです。
「ところで二人はどんな話をしていたの?」
と、奏さんはにこやかな表情で聞いてきます。どうしましょうか。ここで言ってもし何か特定に繋がるアドバイスをされたらたまったもんじゃありません。
しかし、ここではぐらかしては、美優羽さんの不信感を買ってしまいそうです。そんな事を考えていると、
「実は……」
美優羽さんが口を開きました。これは言われますね。となれば、私は何も邪魔をせず、黙っているのが正解なようです。
私は黙って美優羽さんの話を聞きます。奏さんも黙って話を真剣に聞いているようです。
「なるほどぉ。つけられているかぁ」
奏さんは顎に手を当て、何かを考えているようです。それから何か思いついた奏さんはこう言いました。
「それなら、一緒に帰らない?」
ほう。二人が一緒に帰るということですか。これで目撃者を増やしてしまおうって算段でしょうか。私はそう推測します。
「一緒に帰ってどうなるの?」
美優羽さんの問いに奏さんはこう答えます。
「ストーカー被害がなくなるとは思わないけど、一緒に帰ってれば人数が多いからストーカーさんは何もしてこないと思うよぉ。それなら危なくないから安心して帰れると思うんだぁ。ただ私が生徒会で遅くなるから待たせちゃうのが申し訳ないんだけど、美優羽ちゃんに何かある方が嫌だから、こうしようかなあって思ったのぉ」
確かに、二人でいるのなら私は何も手出しはしないでしょうし、変な動きは避けるでしょう。
しかし、これでは特定に繋がるとは言えません。私が尻尾を見せなければいいだけの話です。これは勝ちました。私の犯行はバレません。
私は心の感情を隠すよう、ひっそりと喜びます。
「いい考えだわ。じゃあ一緒に帰りましょう」
美優羽さんは奏さんの提案に乗るようです。よし、これで今日もストーキングができる。私がそう思っていた時でした。
「わかったわ。それじゃあ二人ともちょっと遅くなるけどよろしくねっ」
なんということでしょう。私も一緒に帰ろうと、誘ってきたではありませんか。
「えっ? 私もですか?」
私は戸惑いを隠せません。なんせ、二人だけの話と思っていたのですから。
「ダメ……だったかな?」
奏お姉ちゃんが困ったように言います。断ってもいいのですが、ここで断ると雰囲気悪くなりそうですし、私の行動が怪しまれてしまいます。
それに、こんな顔で頼まれたら断ろうという気にもなりません。仕方ありません。ここは誘いに乗りましょう。私は首を横に振ります。
「い、いえ。大丈夫ですよ」
そう言い切ると同時に笑みを浮かべて、少し悩んでいたことを誤魔化しておきます。少し誤算ですが、美優羽さんと一緒に帰ることを楽しみましょう。
こうして私は美優羽さん、奏さんと帰ることになりました。