締切一週間前、やっとできあがった私の思い出の恋の曲を録音するところまで辿り着いた。
緊張をほぐすために唯空に電話をかけると、ワンコールで出た。過去一早かった。
「どうかした?」
第一声の定番の質問は、いつもより声のトーンが落ちていて、心做しか、息遣いも少し荒いように聞こえた。
「あとは歌って応募するだけだから、緊張しちゃって」
唯空は体調のことを言葉で気遣われるのが苦手だから、気付かないふりをして話を続ける。
「それ、僕も聴いてていい?」
「ダメじゃないけど……」
そしたら緊張をほぐすどころか、むしろもっと緊張してしまいそう、とは言えず、録音した音楽を流した。
小さく深呼吸をして、小さいマイクに向かって声を投げる。
出会ったのは物心つく前で、アルバムのほとんどは二人で写った写真で埋められているよね。
幼稚園も小中も一緒で、どこに行くのもいつも一緒だった。
その先の未来、同じ高校に行く夢は叶わなかったけど、久しぶりに一緒に出かけられて幸せだった。
その中で新しく知っていくお互いの「初めて」は、知っていることの方が多いからこそ新鮮で、それを知るのは楽しかった。
海に行って、水をかけあったあと、即興でスイカ割りなんて誰も想像していないし、そのあとアイスを食べながら歩くなんて、まさに青春の一ページ。
全然ポップコーンが進まなくて、結局紙袋に入れられたポップコーンも、クリームをつけながら食べたクレープも、忘れられない。
泣きながら花火を見ることなんてないと思っていたのに、あんなに号泣したこと。
人生で一度もやることがないと思っていた制服デートも、あまりそれらしくはなかったし、わざとひねくれた考え方をしたけど、最初からすごくすごく楽しかった。
ねぇ、知ってる?私、唯空のことが好きなんだよ。好きで好きで、離れたくない。この先もずっと一緒にいたい。
あなたは私の初恋です。
消し去ろうとした恋だけど、無理でした。
叶わなくてもいい。せめて、唯空が私の傍からいなくなってしまっても、あなたの事を思わせてほしい。それならいいでしょ?
堪えきれなかった涙を拭わずに録音終了のボタンを押すと、繋がったままの電話越しに強い拍手の音が聞こえた。
「すごいよかった。これなら、来世で一緒にカラオケ行ったときにきっと、ランキングに入ってるよ」
唯空も泣きながら話した。
私たちはしばらく話さずに泣き続けて、涙が引いてきたころにすっきりした声で言った。
「僕、今日から病院に戻ることになった。だからしばらく会えないし、電話もできない。伝えるの遅くなって、ごめんね」
「え……?なんで?まだあと一週間あるのに」
「……ごめんね。汐音、ありがとう」
それだけ言って、こちらの言葉を待つこともせずに電話を切った。
ツーツーと無機質な音だけが耳に響いて、引いたはずの涙はまた、頬を流れた。