「ところでここにはどんな妖怪が住んでるの?」
ちょっと気になった。

「紹介しましょう」
それはありがたい。日本家屋恒例の細長い廊下を進み、真昼が障子を開け放つ。そこには……

「くー、くかー……ボリボリ……」
何か、寝てた。何かってか、確実に妖怪だ。下半身蛇だもの。そしてお腹丸出しで、お腹をボリボリ掻いていた。お腹部分はかろうじてヒト型である。

「えぇっと……」
俺が反応に迷っていれば、

「カラスヘビです」
真冬がそう教えてくれた。
「カラスヘビ!」
つまり蛇妖怪ってことか。カラスじゃない。鳥の方じゃない。蛇の方。
そして畳に思う存分寝っ転がってゴロゴロしてる。お腹ボリボリ掻いてるでもその仕草もかわいいなぁっ!
黒髪の彼がすうっと瞼をあげると、その下から黒曜石のような黒目が覗く。因みに蛇体は黒である。一瞬目を開けたカラスヘビは……再び、寝た。だらだらしすぎとちゃいまっかっ!!
ニートの俺よりもだらだらしてるよーっ!!上には上がいたぁー……

「安心してください、ニホンマムシとか、ヤマカガシ系のカラスヘビじゃないので」
「そらぁよかった」
彼らにはたしか毒があったはずだ。毒あったら恐いもんね。
でも、何で異世界ファンタジーの世界の蛇に『ニホン』が付いてるのかは分からん。

いくら和風と言えど……異世界だからなー。因みにこの国の名前はーーサンボンだ。

あちらがニホン、こちらがサンボンなのだから……もしかしたらニホンマムシも二本マムシなのかもしれない。……いや、何が二本あるのか知らんけどもっ!!

「因みに何系カラスヘビなの?」
「シマヘビ系です」
あぁ、何だ。なら安心かも。
まぁ噛まれると破傷風などの危険もあるから無闇に手は出せない。でも妖怪ならば別だ。野生の動物の狐には触っちゃならないが、妖怪のコンちーには触れても大丈夫。でも怒られそうだから、触りたい時はちゃんと声をかけようね!

そうだ……!思い出したぞ……!いきなり触ったら……2時間ヒトダマホンキオニだ。
何かそんな会話を、諭吉くんとコンちーがしてたの聞いた。

ヒトダマホンキオニ……怖そう。俺、勝手に触らなくって良かったぁ――――――。

「フレンドリーなコなので、おやつねだりに来たらあげてくださいね」
え、餌付けっ!!まさかのワンポイントアドバイス、まさかの餌付け!
※なお、もちろんだが野生のヘビの餌付けはいけません。妖怪だから、可なのだ。まぁ妖怪の中でもNGあるけど。

わふちゃんったら大好きなジャーキーねだってくるけど、与えすぎたらダメだし。パピーが誘惑に負けて与えすぎそうになり、マミーに怒られていたのを思い出す。

「あと、アオダイショウは働き者です」
「ふぇ?」
真冬がさっと示した方向には、パタパタとお盆を持って走るアオダイショウ蛇体の青緑の髪と目の蛇妖怪がいた。いや、蛇体だからパタパタとじゃない。ずもずもずもだった。

――――――いや、しかし……

「カラスヘビさぁんっ!!?」
おうちの守り神的な存在のアオダイショウさんが働いてるのに、カラスヘビさんのんびりしすぎぃっ!くったりしすぎぃっ!そこがかわいいんだけども!

いや、むしろここは妖怪(ほんにん)の自由だけども……!!

「あと、こちら」
「あぁ、はい」
くったりまったりカラスヘビさんの元をあとにし、真冬に手招きされて開け放たれた障子を覗いて見れば……。

そこには、竜がいた。東洋風の、尾の長い竜……!!白いきれいな鱗である!わぁ、竜~~っ!この世界に於いて竜は伝説ではないが、出会えることはほぼない。そんな竜がいる~~っ!テンション上がるぅ~っ!

「あ、まふゆたん。そのコは?」
大体5歳くらいの見た目の、頭に竜角、お尻からしっぽを生やしたかわいいコちゃんが真冬と俺に気が付いたようだ。

「私のペッ……相棒のビャクですよ」
いや、あの――――……飼われてる身であまり贅沢は言えないのだけど、今『ペット』って言おうとしなかった!?ねぇ、言おうとしたよね!?ペッて言いかけたよね!?

俺のこといったい何だと思ってるのこのご主人さまぁっ!!

「こんにちわ」
「こんにちは」
ちび竜が挨拶してくれたので俺も。

「かわいいなぁ」
何だ、かわいい妖怪もいるんだなぁ。
ちびちゃんをなでなでしていれば。

「因みに2000歳くらいのじじいなのに幼児の格好をしています」
「早く言ってぇっ!?何か恥ずかしいよぉっ!」
俺よりもうーんと、うんとう――――――んと年上のおじいちゃんの頭なでなでしちゃったじゃぁんっ!!

「その、ごめん、なさい?」
一応謝っとく。

「なでなでもっとほちいれす」
ぎゃっふーっ!かわいい!かわいいよこのコ!ほんとに?このコほんとに2000歳のじいじなの!?ねぇ真冬さん、からかってないよね俺のこと……!!!

「さぁて、次はっと」
次行くのぉ!?真冬さあぁぁんっ!ちょっと待ってぇー!今行くからリード引っ張らんといてぇっ!てか何で俺リードで繋がれてんのっ!?わふちゃんですら首輪もリードもしてないのにぃっ!

ちび竜ちゃん(おじいちゃん?)にバイバイと手を振って別れて、続いての障子を開ければ。

「あっ、えとっ、どうしたの?」
そこにはとてもとてもきれいな鬼がおりましたとさ。ピンク色の髪に妖艶な赤い目。透き通る肌の色に加えて人外の美しさを放っている。頭から伸びる2本の角はどちらもピンク色。
唇なんてぷるっぷるん。女性にも見えるのだが、着物の帯の位置が男性であることを示している。

てか鬼――――――っ!?下手したら九尾よりもヤバい、この世界の妖怪のドンがここにおるぅ――――――っ!この和風異世界ファンタジー世界に於いて、最恐と呼ばれるのが鬼なのである。

鬼が怒れば天変地異。悪さをすれば災害級避難警報ものである。

「彼女は桜鬼」
ピンクの角が示す通りの色の鬼だ……!そして、『彼女』……!男モノの着物だけど、彼女として扱わねばならない。この世の平穏のために。鬼はヤバい。でもオネエはもっとヤバい。ウサウサオネエを見てきたから分かる。

妖力霊力抜きに考えれば、実家で一番恐いのは……オネエのウサウサだ……!

「ビャクを連れてきました。私のどれっ、いえパートナーです」
いや、ちょっ、まーてーや――――――っ!?今何て言いかけた!?奴隷!?奴隷だよね何言いかけてんの!それはむしろツッコミドコロかな!?それとも本気?マジなの?それとも冗談なのどっちやねんっ!!

「あら、初めまして。みんなから姐さんって呼ばれてるの。よろしくね」
にこりと微笑んでくれる桜鬼……いや姐さん。

「い、いえす、姐さん!」
俺の腕は自然と敬礼時のきれいな弧を描き、そして額に指先をちょんと付けるようにして止まり、世界の真なるドン、オネエ鬼姐さんに敬礼を向けた。

「何か面白いですね。ぷっ」
何笑ってんのご主人さまぁ――――――っ!?

「あと、いろんな蜘蛛妖怪が出入りしてますから」
「あぁ、やっぱいるんだ蜘蛛妖怪」

「そこら中にいますよ。家にとっては益虫なので結界とか意味を成しませんし」
「そんなの初めて知った。蜘蛛すげぇね」

――――――あ、てことは。

「うちの結界も意味なし?」
一応退魔師の屋敷だから、契約を結んだ妖怪以外は入れなくなっているのだ。

「特にないです」
マジかよ。

「あ、真冬がうちにいたのも?」
「えぇ、もちろんすり抜けましたよ~!」

「最強じゃん、蜘蛛最強じゃん入り放題じゃん。でも何であの狭いスペースにいたんだ?」

「サプライズを仕掛けるために、儀式が始まってからずっと待機してました」
まさかのぉ――――――っ!?

「でもやはり、霊力0ですからね、目論んだ通り」
「うぅ……」
俺が役に立たないことは自分でも分かってた。ぐすん。

「あ、じゃぁさ、牛鬼とかどうすんの。入られちゃうじゃん」
退魔師も恐れる強恐牛鬼さんである。
「あれは蜘蛛の姿をとっているように見えますが、蜘蛛妖怪フレンズではないので別物です」
何蜘蛛妖怪フレンズっ――――――っ!?牛鬼はしょられてんの!?蜘蛛妖怪フレンズから仲間に入れてもらえてないのぉーっ!

まぁ、蜘蛛の姿をちょこっと持ってるとは言え……牛と、鬼だもんな。仮にその鬼がオニグモの鬼であったとしても……やっぱ弾かれるんだろうか。

「じゃ、ジョロウグモは?」
蜘蛛妖怪3選のうちの2匹目っ!

「ジョロウグモならよく蜘蛛女宴会をしてますから来ますよ。いえ、大体ここに居座ってますかねぇ」
「いんのかよっしかも居座ってるのぉっ!?そして宴会!?蜘蛛女の!?それもう女子会やんけっ!」
ジョロウグモ、まさかの女子会開いてた――――――っ!!!

「覗くと引きずり込まれて愚痴を延々と聞かされます」
「地味に嫌だなそれ!?」
糸でぐるぐる巻きにされるよりはましだけど!

「なら、土蜘蛛はどうだ――――――っ!」
蜘蛛妖怪3選最後の砦!みんな知ってる土蜘蛛!
強いぞでかいぞ大妖怪~~っ!

「……会いたいん、ですか?」
「そりゃぁ……あ、でも食べられたりしないよね?」
ご主人さま、俺のことちゃんと守ってくれるよね?散々恐いワードと言い間違えそうになってたけど、俺たち相棒だよねぇ~~っ!?

ねぇ、どうなの、ねぇっ!!