希望に満ち溢れた(所持金0、職業:自称お琴奏者……いや無職住所不定)冒険が始まるのかと思いきや、マジで突き落として来たぁーっ!山の頂上から一気に転がり落として来たよぉっ!何で!?やっぱり諭吉だから!?
諭吉は時に、ひとを山の頂上から一気に転がり落とす。所持金僅か13円と言う、絶望と混沌渦巻く世界へ……。
諭吉は夢を見せてくれるだけの存在じゃない。時にひとを天から地に容赦なく叩き落とすのだ。
しかし叩き落とされたからこそ分かることもある。
「んー、ほんとに開けるんですかぁ?諭吉くん」
ここで、コンちーが弱気な発言。天下の九尾さまが弱気ってえぇっ!!
どうしちゃったの!?あらゆる物語に於いて最凶のラスボスを務める九尾くんなのに~~っ!
「ダメよ、コンちー。これは宿命、逃れられない運命なのよ」
と、ウサウサ。
「わふっ」
頷くわふちゃんは、……かわよす。
何か妖怪たちまで不穏げなんだけどぉー。
「あの、ほんとに開けるの?」
今一度、パパに問う。
「お前が何も召喚できなかった以上は、仕方のないことだ」
うん。俺が西洋風ファンタジーの世界に捨てられるのも仕方のないことだよね。分かった。
「……受け入れる」
「……いいのか、ビャク」
「だって……仕方がないもの」
俺は才能のないぐーたらぷーすけ。このまま腐ってニートになるくらいなら、壮大な西洋風ファンタジーの世界でのたれ死ぬのも……仕方がないのだ。
「大丈夫。俺、上手くやるからさ」
上手く、西洋風ファンタジーな異世界で自分の存在を消滅させるよ。上手く行かないことだらけの異世界人生だったけど、自分の死に様くらいはしっかりとやり遂げたい。
魔物とホンキオニしながら、生贄となる。きっと痛いだろう。泣きたいほどに呻きちらすだろう。だけど、それも運命。
「パパ、ママ。これまで育ててくれて、ありがとう」
「ビャク」
「ビャクさん、あなたっ」
パパとママが目尻に涙を溜めている。ママは後妻で継母のママママだったけど、それでも俺を虐めたりせず、ちゃんとお使いをくれて、たいして上手くもならないお琴の楽譜を買ってくれた。とってもいいママママだった。
「だから、最後に、だけど」
もう、お別れだもの。きっとこの扉を潜り、西洋風ファンタジーの異世界に足を踏み出して……扉が閉じられたら、きっとこちらの世界には帰って来られないのだろう。異世界転移は一方通行が基本だ。それがテンプレ。なら、最後にやり残したことをやってもいいじゃない。
「どうした?」
「何でも言ってちょうだい」
パパも、ママも、こんな時にまで優しい。いい両親を持ててよかった。
「あのね、俺……っ」
その時、諭吉くんが何かを感じ取ったのか叫ぶ。
「やめろっ!」
止めるな諭吉くうぅぅんっ!ここは、お兄ちゃんの最後のお願いを聞いてくれっ!
「パピーとマミーって」
「やめるんだ!それだけはぁっ!」
諭吉くんがこちらに走って来ようとするのを、コンちーとウサウサが止めていた。
「いけません!諭吉!もう彼には触れられないのです!」
「そうよ、彼自身が受け入れたのだもの」
コンちーとウサウサの言葉に、諭吉くんがくわっと吠える。
「だけど……っ!!」
ごめん、ごめんね、諭吉くん。お兄ちゃん、あっちでも上手く、やるからさぁ。最後の最後のお願い。
「呼んでも、いいかな?」
そう、パパとママに問えば……
「パピー、素晴らしい」
「いいわね、あなた!」
喜ぶ両親。力なく「あぁ゛~~~~っ」と泣きながら崩れ落ちる諭吉くん。
ごめんな、でもお兄ちゃん最後に、呼びたかったんだ。やっぱり呼びたかったんだ。だって俺をここまで育ててくれた両親だもの。
「諭吉くん」
「あぅ~~~~っ、もう終わったぁ~~っ、終わったよぉ~~~~っ」
「悲しまないでくれ。俺、お兄ちゃんらしいこと何もできなかったど、諭吉くんと過ごした日々はお兄ちゃんの一生の宝物だっ!」
そんなたいして過ごしてないけど!
「やめてぇ、もうやめてぇ~~~~~っ」
虚空を見上げながらも両手で顔を覆い、咽び叫ぶ諭吉くん。
俺、どんな形であり、そこまで諭吉くんに思われていたんだな。
「お兄ちゃん、とっても幸せだった。大丈夫、俺、幸せになるよ」
幸せな形で骨を埋められるように、頑張る。
「うあぁぁぁ――――――――――っ」
泣き叫ぶ諭吉くん。でも、行かなきゃ、俺。
「本当に、いいんだな」
「うん、パピー」
いいよ、俺行くよ。
「では、開けるぞ」
意を決したようにパピーが頷き、そして重々しい扉が開かれた……。
さぁ、この先にどんな異世界が……
「うふふふっ!嬉しいです!ビャク!私を選んでくれるなんて!」
そこから出てきたのは、一人の美青年だった。白髪に青い目をした爽やか系お兄さん。着流しの夏らしい着物姿。しかも扉の向こうは三畳ほどの小さな何もない部屋。そこに異世界など、なかった。
「異世界は?」
俺は残され……ない普通にいる家族に声をかける。
「何言ってるの!ほんとバカ!バカなのバカ!やっぱりバカ――――――っ!」
諭吉くんのおバカコール、遂に4回達成、ヤったねっ!
「私のビャクをバカバカ言うあのガキはなんです?」
美青年がムッとする。
「いいんだ、あれが諭吉くんの愛情表現だからさ」
「ほんとバカ――――――――っ!」
俺ってば、愛されてるぅ~~。
「では、ビャクが受け入れると言ってくれたので」
カチャッ
へ……?
俺の首に何かが付けられた。
「これ……」
革製の首輪?しかもご丁寧にリード付きである。
「何これ」
「今日からビャクが私のしもべ……パートナーになると言う、とってもステキな首輪ですよ~!」
「今しもべって言わなかった?ねぇ、言ったよね!?しもべって何、そしてお兄さんは何!?」
そもそもこのお兄さん、誰!
「妖怪を隸属させて従わせてる退魔師と同じでしょう?」
まぁ、パートナーではあるものの、主従の契約を結ぶのが退魔師と召喚された妖怪である。
――――――だが、
「俺人間だけど」
一応、人間を隸属させることはできない。退魔師協会が禁じているのだ。才能のない俺だけど、一応もしかしたらとパパに勉強はさせられたんだよ。座学の方だけね。だからそう言うのは知っている。
「それが何の問題が?」
「人間が人間を隸属させんのダメでしょーがっ!」
倫理観的にも!それママとウサウサが観に行くの大好きなショーの世界だよ確実にっ!
「私は妖怪ですよ?」
ケロっと告げる、お兄さん。
「はへ?」
普段はヒト型とってるコンちーとウサウサみたいな?あ2匹はケモ耳しっぽも出ているのだが……目の前の青年にはない。
「何の妖怪なの?」
「あぁ……それはですね」
そう言うと、青年の背中からバキバキバキッともふ毛に覆われた3対の脚が出てきた。雪のように白い毛並みだ。
「蜘蛛です」
「土蜘蛛――――――っ!?」
蜘蛛妖怪と言えば、土蜘蛛である。よくある妖怪土蜘蛛イメージでは土の中にいそうにないけれど!?
「うーん、蜘蛛は蜘蛛ですが、土蜘蛛ではないですよ。種類で言えば、正確には白いオニグモですね。突然変異の白いオオオニグモです」
「うっそ、どこが違うの?」
「そこなの?ねぇそこなの?」
諭吉くんがずっとそう囁いてるのだが。え、他のドコだと言うんだい!?
「諭吉、ビャクくんの幸せをちゃんと祝ってあげないと」
「そうだぞ、諭吉……!」
両親からの言葉に、諭吉くんがくわっと目を見開き、そして力なく目蓋が降りてくる。
「うん……もう、手遅れだもんね」
悲壮感に満ち溢れたそのコメント何だろうね……?