いやいやいや、いきなり何が始まった!?棒読み劇場!?

そしてその無の表情何――――――っ!?口元にだけ笑み浮かべてるよ!?
こんなことならいっそのこと、おバカコール4連発の方がマシだったよぉ~~っ!ほんと虚無感に満ち溢れてるぅ――――――っ!!!

ま、まさかとは思うけど、俳句コンテストでペンネーム「フクザワ」にしたのがまずかったの!?それに怒ったのかな、諭吉くん!?

ゆきちくん
みんなのゆきち
つねならむ

フクザワ

一応結構ウケたんだけど、それ!?まさかのそれ!?
プチバズりしたものの、勝手にフクザワ名乗ったから怒ってるのぉ!?ひいぃ~~っ!みんなの諭吉、ぼくらの諭吉、勝手にフクザワ名乗ったのは謝るからぁ~~っ!!

しかし諭吉への祈りは虚しくも崩れ去る。
札束は、崩れ去る。いや、そもそもニートの俺に札束など存在するはずがなかったのである。


……パチパチ


パチパチ


パチパチパチ


パチパチパチパチパチチチチチ――――――……


「おでめーおでめー」
「おめー、おめおめおーめっ!おーめんっ!」
「おっめめとー、ひゃっほっ」
「おめおめー、マジおめー」
「わふっわふわふっ!わふっ!」
パパママとその相棒たち、コンちーまで拍手して、抑揚のない声で祝福してくれたよぉっ!?ほんっとこのノリ何やねん~~っ!

うぐっ、わふちゃんの『わふっ』はがわいかっだけどぉ~~~~っ!うえぇ~~~~んっ、ぐすっ、えぐっ。わあぁぁぁ~~んっ!分かってた。それが俺なんだって、知ってたぁ~~っ!

「あぁ、いとあわれなり。こうなることは、必然だったんだぁ……」
って、いきなり何だ!?諭吉くぅん!?何その語り調!相変わらず抑揚のない棒読みはぁっ!

「そうね。これは決して逃れられない宿命だったのよ――――……」
続いてママまで!棒読みに加えて生気のないその虚無の眼差し何ぃっ!?

こんなことならいっそのこと、ママママが絵に描いたような悪女だった方が良かったのかもしれない。
いや、それだと俺の精神がきっともたないから却下だ。ごめーん☆

むしろ虚無感たっぷりに棒読みセリフを読んでくれるママママ。

ぐるっと回り……きらない170度くらい回転すれば……愛情味溢れるママに見えてこないかい?

え、見えてこない?おかしいなぁ。今の俺の精神がヤバイのかなぁ~。棒読みですらヤバイの俺の精神。

ママママが、ママママで良かったぁ~。前妻の息子は、ママママにとても感謝していまっす!

さぁ~て気を取り直して、うちのパパはどうかなぁ~?

「あぁ、そうだな。これは逃れられない宿命。避けられない底なし沼ぁ――――――」
パッパああぁぁんっ!おぅ、パッパあぁぁんっ!これならよくある追放もののように、「お前なんて息子じゃない!とっととこの家から出ていけ!」「お前のような落ちこぼれは我が家にはいらん!とっととどこへなりでも消え失せろっ!」「この家の跡取りは今日から諭吉だ!お前など、息子と思ったこともない!出ていけっ!」とか、言われた方がマシだったかもしれない。

ふんぎれついたかもしれない。

よくある追放もののように成り上がりルートあったかもしんない。

――――――でもこれなくない!?やっぱり最初に睨んだとおり、追放成り上がりルートまったくあらへんねんで!?何この棒読み!てか底なし沼とか例えが独特すぎるよパッパあぁぁんっ!!

これならいっそのこと、パピーと呼んでいたほうが笑って我が家を後にできたかもしれない。

なお、我が家の跡取りは俺がまるで使えないと判明した時からずっと諭吉くんだ。
いいじゃないか、諭吉くん。とってもありがたい響きの諭吉くん。きっと富に恵まれるよ、だって諭吉くんなんだもぉんっ!!

あぁ、おおいに崇めよ、諭吉!諭吉を崇めるのだぁーっ!そこに輝かしい諭吉ハッピー繁栄物語があ~るっ!

俺はどうせ、百円玉だよ。百円玉なんだ。百円玉の束なんだ。
諭吉には遠く及ばない。百円玉100個あつめにゃぁ諭吉には及ばない。

百円玉100個集めるやつがどこにいる。みんな諭吉を選ぶだろう。

――――――――これが、百円玉と諭吉の圧倒的差。越えられない差。俺はどうせ……百円玉だもの。

俺の名は白群(びゃくぐん)。頭にニートの『ー』を足せば百円玉の群れ。百円玉の群れは、どう足掻いたとしても魅惑の諭吉にはかなわないのだ。

あぁ、諭吉。

さよなら諭吉。

おれのミリオンマネードリーム、さらば。

いや、そもそも和風ファンタジーの世界に転生した時点で……諭吉など、どこにもいなかったのだ。いたのはちょっと口の悪い弟の諭吉くん。

ミリオン長者のごとき諭吉くん。

この世界の貨幣は……大判、中判、小判、和同開珎である。
西洋ファンタジー風に言えば、プレミア金貨、金貨、銀貨、銅貨。どう?いきなり小判ファミリーでてきてむっつかしっ!と思った画面の向こうのみんな~!とっても分かりやすかったよね~?ね?ねぇ~~?

――――――あ、いかんいかん、俺も虚無感に満ち溢れてしまった。ヤッベ。これ呑まれる。マジ呑まれるわ。パパが言った通り足を踏み入れなくても引きずり込まれる底なし沼だわ、マジでほんとやばたん。

「……てなわけで、来なさい。ビャク」
ちゃんと俺の名前ーーしかも愛称を呼んでくれるパパは、案外いいパパだ。

異世界追放ものに出てくる飛んでもオヤジとは違う。成り上がった息子にざまぁされる系じゃない。落ちこぼれの方にも愛情を注いでくれて、お金までくれるいいパパだ。

あ、何か表現がキャバクラのパパみたいになっちゃったけど。因みにこの世界、キャバクラやホストクラブもあるよ。ゲイバーもある。こないだママがウサウサと一緒にゲイバーフェスに行ってきたと興奮気味に話していた。「お布施ーお布施ーチップチップ~~っ!」とすっごい楽しそうだった。ママは一体何を観に行っていたんだ……。聞いてはならない。多分俺も……連れて行かれるぅっ!

俺はごく普通の、焦げ茶色の髪に色素薄めなみかんブラウンの瞳の平凡男子ですぅ~~っ!

まぁ、そんな脳内ツッコミをキメながらパパの後に続けば、他のみんなも後を付いてくる。何だろう。やっぱり家から締め出されるのかな。俺、才能もない役立たずだもの。

家に置いておいたって何のメリットもないよな。

俺はどうせ……

「ビャク」
パパの重苦しい声が俺を呼ぶ。分かってる。分かってるよ。多分手切れ金のようなものを置いた部屋に通されて――――……って、ちょま――――――っ!?

ちょま、ちょっと……ちょっと待ってっ!!

何ココ!

何このダンジョンエリアボスの間に続くみたいな荘厳な扉はぁっ!
しかも木製。シックなダークブラウンの木質に、四天王彫ってあるぅぅぅ――――――っ!もちろん、魔王軍四天王じゃない。日本の四天王像みたいなの~~っ!
実物と相違ないかは自信ない。いやだって、両開きの扉の左右に2人ずつ恐そうな像の紋様が彫ってあるだけだもの。でも恐くて強そうなので……多分……四天王である。

てか、何この扉ぁ――――――。この武家屋敷で18年間暮らしてきたけれど、こんな扉知らんわぁっ!そもそも才能のこれっぽっちもない俺には、立ち入ってはいけない部屋やゾーンが多すぎるんだ。

諭吉くんの鍛練ルームとかあるし。術の練習とかしてたら巻き込まれるし!一回、パパが巻き添えになったらこうなる!と言うのを見せてくれたから、俺は不用意に立ち入らなかったのだ。

因みに巻き添え役はパパ。術を放ったのはママである。敢えてそこ、ママに仕留められる役に回ったパパは、立派だと思う。しかしまぁ、こんな扉があったなんて……、驚きだ。

何だろう。この奥に、何が?

まさかとは思うけど、ここからさらに違う世界には通じる扉?それとも何か恐ろしい妖怪がこの中にいて、俺エサにされんの?今度はごっこじゃなくて、ほんまもんの生贄にされんのかな、俺。

さすがにほんまもんの生贄は嫌やわぁ~。いや、えぇ人なんておらんやろ。

「さて、開けるぞ、ビャク。心しておきなさい」
ちょまっ!?何その真剣な眼差し、強張った表情っ!ちょっとパパ!?まさか本当に……生贄……。もしくはRPG風西洋ファンタジーの世界に放り込まれる~~っ!?

放り込まれたところで俺、チートに目覚めるとは思えない。むしろチートに目覚めたところで、何すればええねん。

お琴やる?お琴上手くなるなら演奏するけども。てか、西洋風ファンタジーの世界に……お琴あるかなぁ――――――……。

「さぁ、ここから大いなる扉が開かれるのだっ!」
いや、ママぁっ!?こんなところで新たな冒険が始まる~~みたいなこと言わんといてぇ~~っ!しかも今回棒読みじゃないっ!まさに雄々しき女神っ!女神なのに雄々しい!カッコいい始まりの言葉!始まりの言葉が雄々しき女神でも、いいじゃない!何かプロの声優さん並みにかっこよ~~っ!カッコよかったよママ~~っ!最高っ!パチパチパチパチ~って……マジで!?マジでRPGなの――――――っ!?このママの本気のナレーション……マジなのぉっ!

そしアンニュイ風クール系な諭吉くんが、突如としてカッと目を見開く。

ビクンッ。

「そして世は混沌にまみれるのだァ――――――っ!」
「あ゛、ぎゃぁぁあぁああぁぁあ――――――っ!!?」
まさかの迫力。ド迫力。俺は発狂するように叫んだ。絶叫した。
こっぅええええぇぇえぇよおぉぉぉ――――――っ!?
何今のっ!恐いっ!恐いわぁっ!何で急にホラー入ったの!?ホラーテイスト入ったののおぉぉぉっ!!