「あ――――――、ぅ――――――ぁあ~~~~っ!!!」
言っておくが……っ!モンスターの鳴き声ではない……!正真正銘俺、主人公の鳴き声だ……!なお、主人公俺は人間である……!そして俺は、少し離れたところから見ている弟くんの元へと突撃した。
「あ゛――――――――っ!」
この恥ずかしさを、誰かと分かち合いたい!そばで見守っていた両親を振り切り、弟くんの両肩をぐわしりと掴む!
「しかしやっちまったなぁ……。やっちまった……。やっちまったあぁぁっ!!でも分かってた!お兄ちゃん分かってたよ……!こうなるって……!」
夢の異世界ファンタジーの世界に転生し、「じゃない方」に生まれたのだと物心ついた頃に悟って早18歳。
「やっぱりかぁ。やっぱり俺は、「じゃない方」からの宿命からは逃れられなかったんだ……ごめんよ、弟よ……。一族のことは……任せた」
俺、任されたことないけどね。
「いや、何言ってるのかよく分からない。バカなの?」
はぅんっ!弟くんから『おバカコール』いただきましたよっと!
しかもこの異世界は、よくあるなんちゃって西洋ファンタジーではなかったのだ。
――――和風ファンタジーだ。
しかも俺の生まれた家は、妖怪退治を生業とする退魔師の名門と言うことで立派な武家屋敷。両親と弟くんの他にも、両親のお弟子さんやら使用人までいるのだ。
そして着ている服だってもちろん和服である。しかも退魔師の家系だからか、両親と弟くん、お弟子さんたちは狩衣!継母すらも退魔師だからね、狩衣美女。使用人たちは動きやすい作務衣みたいな服装かな。しかし俺は……退魔師の才能ゼロ、毎日引きこもりニートなので着流しナマ足つんつるてん!
だとしても別に冷遇されているわけでも虐げられているわけでもない。
ただ単にニートしているだけである。
しかしそれでも、退魔師の家系の宿命からは逃れられなかった。
そう……退魔師と言う存在がいることからも分かる通りこの異世界、どんだけ和風なんだと言うほどに、妖怪がいた。しかも大人でも普通の人でも見える設定だ……!!
そしてこの退魔師の名門一家にはとある奇妙なルールがある。
別に才能ゼロの落ちこぼれが虐げられるルールとかじゃない。むしろその方が実は才能に溢れてました、てへっ!っつー成り上がりヒーロールートがあったかもしれない。
しかし、なかった……。なかったんだよ……どうしても。
さらにはこの一家の特殊ルールだ。
その、ルールとは……。
――――まず、当主の父はパパ。そして俺が幼い頃にお空のお星さまになった産みのママ。
さらには後妻のママママ。
うん、ママママ。ママママ……めっちゃ言いにくいが、両親をパパとママと呼ぶのは我が家のルールなのである。
仕方がないのである。
でもめんどいから普段は普通にママと呼んでる。そんくらいまでのアレンジはまだ許される。
ほんっと何この微妙にほんわかしてる異世界の名門一家特殊ルール……。
「やっぱり、ねぇ、弟よ。パピーとマミーはどうだろうか……?」
やっぱりほらさ、俺も分かってたけども恥ずかしいわけよ。尤もらしい召喚の呪文を使えもしないのに覚えさせられ、使役妖怪召喚儀式に望んだわけである。
とぼとぼと召喚陣から出た俺は……唐突に弟ーー正確には異母弟くんにこうきりだした。
因みに弟くんは天下に名だたる天才退魔師である。しかもイケメン、超モテる。兄にないとこ全部持っていきやがった。転生先に落ちこぼれの兄主人公と才能に溢れる異母弟がいた場合……異母弟からは冷遇されたりバカにされたりと言う末路があるのがテンプレ。
しかし才能溢れる異母弟は、毎日上手くもならないお琴を弾いている俺とは違い退魔師のお稽古に勤しむ身。ご飯の時くらいしか一緒にならないんだ。
「……は?バカなの?そんなの言った途端にパピーマミー呼びになるでしょ。バカなの?ねぇ、バカなの?」
怒濤のバカ3回~~っ!
でも弟くん、諭吉くんだから。名前、諭吉くんなの。名前からしてありがたい、才能の塊。俺よりも3つ年下なのにすごすぎるんだよこの子。そんな天才諭吉くんから言われた言葉が、――――――これでぇすっ!
お兄ちゃん完封負けっ!もう諭吉くん満塁ホームラン大差つけられコールド完封負け~~っ!
俺の青春はその時、終わったのである。
いや、最初からなかったのかもしれないけど。
そして諭吉くんからの容赦のないおバカコールを受けた俺は、先ほどの召喚陣の近くに立っている両親を振り返る。
和風なくせに金髪碧眼のイケメンパパ。
ま、異世界だからね、ここ。
因みにそんなパパの隣には、その使役妖怪がいる。お座りすると2メートル級狼ーーわふちゃんだ。――――なお、命名はパパである。
そしてその隣にはママ。継母のママママ。黒髪黒目の美しい女性である。
髪型はストレートロングを巧みにアップにした夏に晴れやかな項の映えるスタイル。
和風ファンタジーだが髪型は割と自由。時代劇みたいに前髪かき上げなくても大丈夫。眉毛剃らなくても大丈夫。多分ここら辺はファンタジーのお陰。
そしてママママも退魔師でもあるから、パートナーがいる。ホスト系にキラキラしてキメポーズをとる、バニーボーイ姿のウサギの妖怪だ。
名前はウサウサ。ママ命名。なお、人妻の横にイケメン妖怪ってヤバピじゃない?と思うかもだが、ウサウサはオネエである。
ママママとは気さくな女友だちみたいな関係である。
そしてママママにそっくりな黒髪碧眼のイケメンボーイが弟くんこと諭吉くん。さらにその傍らには召喚した九尾の美青年がいた。
優秀すぎるこの弟くんは、18になる前にとっとと召喚の儀式をこなしていたのだ。
……てか、すごくない?九尾だよ?普通ラスボスとかで出てくる九尾っ!美青年の頭にはちゃんとふわふわ真っ白狐耳があるし、後ろからはもっふもふ9本のしっぽっ!わぁ、ふっわもふぅ~!
因みに名前コンちー。
ほんとね、うちの家族のネーミングセンスよ。かわいすぎ。今時のゲームプレイヤーかよ!この世界のゲームと言ったら将棋や囲碁だけど!あとはしりとりとかホンキオニとか!
あ、ホンキオニって知ってる?鬼役が5人以上で生贄役を本気で追い回す子どもたちの本気が光るゲーム。
だからかな。これは大人になってもやる人が多い。
俺なんて、ちょっとコンビニに行くだけでいきなり本気鬼でいきなりスタートしたゲームにより、鬼最高30人から、たったひとりの生贄として追い回されたなぁー。だからかなぁー。おうちで引きこもってずっとお琴弾いてたの。
なんぼ練習しても上手くならないお琴、弾いてたの。
因みに異世界、コンビニあるよ。交番もあるよ。和風建築だけどねっ!自動ドアじゃなくて自動障子だよーっ!初めて見た時俺、感動したぁっ!!何で異世界にコンビニ……と言いたいところだが、多分そこら辺は……ファンタジーだから。便利だし、いいじゃない……。主人公が生きやすい異世界、素晴らしいじゃない。
でも俺はただの落ちこぼれ。分かっていたけど何も召喚できなかった。
「あの……っ」
勇気を振り絞って声を出す。
「はぁ……しかたがないな……」
……ん?諭吉くん?何も身構えることなくサッと諭吉くんの方を振り向けば。
「おっめでとぉ――――――」
はいいぃぃ!?突如諭吉くんがパチパチと拍手を贈ってきた!?そして光のない真っ黒な目で。しかも棒読みってマジかいっ!
何これこっわ!?何の心構えもしてなかったからマジビビったわぁ――――っ!そして一体何が始まるわけ……!?